【英国文豪、令和を歩く】第83回:Heat wave rises day by day, turning cool blue skies to haze and gray.
古い町家の風情を残した、薄暗くも落ち着いた喫茶店。使い込まれた木のテーブルに、二人の人物が向かい合っている。一人は華やかなワンピースを纏い、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを律儀に着こなし、手帳を傍らに置いた紳士、ドイル。窓の外では、京都の湿った熱気が陽炎を作っている

ああ、ドイル。この異国の地の夏も、まるで真夏の夜の夢のような熱狂ぶりね。けれど、故郷のヨーロッパが記録的な熱波に焼かれていると聞くと、喜劇を演じるのも命がけだわ。テムズ川のほとりも、今や私の描いた地獄の業火に照らされているのかしら?

全くだよ、ウィル。私の記録によれば、ロンドンの舗装道路が溶け出さんばかりの気温だというじゃないか。かつて私がワトソンと共に歩いた、あの霧に包まれたベーカー街の面影はどこへやら……。今のロンドンで事件を追おうものなら、ホームズも冷静な推論を立てる前に、思考が蒸発してしまうだろうね

ふふ、あの冷徹な探偵さんも、この暑さには降参かしら。でも見て、この京都の『カッフェー』の静けさを。氷の入ったこの黒い液体――レイコーと呼ぶのかしら?――が、私たちの魂をかろうじて現世に繋ぎ止めてくれている。自然の猛威は、どんな王冠よりも残酷に、私たちを等しく跪かせるものね

確かに。私がアフリカやインドの熱気を物語に綴ったことはあるが、まさかヨーロッパがそれ以上の熱を帯びるとは、想像もしていなかった。これはもはや、単なる気象の変化ではなく、地球という巨大な密室で起きている、解き明かしがたい重罪のようにも思えてくるよ。……おや、ウィル、君のその顔。何か新しい着想でも得たのかい?

ええ、少しね。この燃えるような空の下、人々が影を求めて彷徨う姿は、まるで失われた楽園を探す亡霊のよう。ドイル、あなたの論理的な眼鏡で、この熱波の『犯人』を突き止めてみてはどう? 太陽を告発する準備はできているかしら?

ハハハ! 太陽を相手に訴訟を起こすとは、いかにも君らしい詩的な発想だ。だが、私はむしろ、この熱帯夜に紛れて蠢く人間の心理に興味がある。暑さは人を大胆にし、同時に注意を散漫にさせるからね。……しかし、今は捜査よりも、この冷たい水の一杯を享楽することにしよう。ウィル、君の言う通り、この『カッフェー』の静寂こそが、今の私たちにとっての唯一の聖域だ

賛成よ。この酷暑が去るまでは、ペンも剣も休めておきましょう。さあ、ドイル。この氷が溶けきる前に、今のヨーロッパの惨状を忘れるような、とびきり涼やかな物語を聞かせてくれない?
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