【英国文豪、令和を歩く】第84回:Dragon Quest nights, level and fight, chasing slimes till morning light!
古い町家の風情を残した、薄暗くも落ち着いた喫茶店。使い込まれた木のテーブルに、二人の人物が向かい合っている。一人は華やかなワンピースを纏い、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを律儀に着こなし、手帳を傍らに置いた紳士、ドイル。窓の外では、京都の湿った熱気が陽炎を作っている

ねえドイル、この小さな機械の箱の中で繰り広げられる物語……『ドラゴンクエスト』というの? 驚いたわ。まるで、私の書いた戯曲が何百時間も続く終わりのない舞台になったみたい。勇者が剣を取り、見知らぬ地平を目指す……これこそ、古今東西変わらぬ『冒険』の真髄ね

ああ、全くだよ、ウィル。私もロンドンでこの青いスライムという奇妙な怪物に出会っていたら、ホームズにその生態を調査させたに違いない。興味深いのは、プレイヤーという『神の目』を持ちながら、一人の若者の足跡を辿るという点だ。これはワトソンが私の冒険を記録する視点に、どこか通じるものがあると思わないかい?

ふふ、確かにそうね。でも、私が一番惹かれたのは『名前』よ。ロミオがロミオでなくてもその香りが変わらないように、この物語でも、村の若者が『あああ』なんて名付けられても、救世主としての運命は変わらない。けれど、愛する者との別れや、王城に響くファンファーレ……そこには、言葉に尽くせないほどのカタルシスが詰まっているわ。まさに、デジタルで構築された壮大な叙事詩だわ

論理的に見ても、あの『呪文』の体系は見事だ。ホイミで傷を癒やし、ルーラで瞬時に空を駆ける。かつて私が心霊現象や超常的な力に求めた可能性が、ここでは完璧なルールとして成立している。……ただ、一つ解せないのは、なぜ王様はあんなにも僅かな路銀しか与えずに、若者を世界の危機に送り出すのかという点だがね。ホームズなら『これは王による巧妙な資産削減の罠だ』と推理しそうだ

それは無粋というものよ、ドイル! 王様はあえて苦難を与えることで、真の英雄を育てようとしているのよ。劇的な演出には、常に欠乏と困難が必要だもの。……それにしても、この『転職』という仕組みは面白いわね。昨日は戦士だった者が、今日は僧侶として祈りを捧げる。一人の人間が何役も演じるなんて、まるで私の劇団の役者たちのようじゃない?

ははは、なるほど。確かに役者だ。だが、私はやはり、あの迷宮の奥底で待ち構える強大な悪――竜王や大魔王といった存在に、ある種の敬意を感じるよ。彼らはモリアーティ教授のように、世界の秩序を根底から覆そうとする知性を持っている。それを打ち倒すのは、単なる力ではなく、積み重ねた経験と……そして共に歩む仲間たちの絆だ。これは、私の物語でも最も大切にしてきた要素だよ

絆、ね……。ああ、ドイル。次にこの世界を救う旅に出る時は、私も連れて行って。私は吟遊詩人として、あなたの勇敢な戦いぶりを美しい韻文にして、ルイーダの酒場で歌い継いであげるわ。……でもその前に、このカッフェーでもう一杯、冷たい飲み物を注文しましょう? 冒険に出るには、まだ外は太陽の熱が強すぎるもの
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!