【英国文豪、令和を歩く】第85回:Drone up high, buzz and glide, filming sunsets far and wide!
古い町家の風情を残した、薄暗くも落ち着いた喫茶店。使い込まれた木のテーブルに、二人の人物が向かい合っている。一人は華やかなワンピースを纏い、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを律儀に着こなし、手帳を傍らに置いた紳士、ドイル。窓の外では、京都の湿った熱気が陽炎を作っている

ねえドイル、空を見上げて。あの羽虫のような、けれど銀色に輝く奇妙な機械……ドローンというのね。まるで私の物語に登場する妖精パックが、鉄の翼を手に入れて現代に舞い戻ったみたい。あんな風に空を自在に駆け巡り、地上の営みを覗き見るなんて、魔法の鏡も形無しだわ

全くだよ、ウィル。だがあれは妖精の悪戯というより、もっと冷徹な『観察者』の目だ。かつて私がロンドンの空き家で、犯人の目を欺くためにホームズの蝋人形を窓辺に置いたことがあっただろう? あの時は敵の裏をかくために心血を注いだが、もしあの場にドローンがあったなら……。犯人のセバスチャン・モラン大佐も、わざわざ強力な空気銃を持ち出して窓越しに狙う必要などなかった。機械に爆薬を積み、静かにホームズの頭上へ飛ばせば済んだ話だからね

あら、それではあまりに風情がないわ。愛を語るロミオとジュリエットのバルコニーの周りを、あんな羽音を立てる機械が飛び回っていたら、せっかくの愛の告白も台無しよ。けれど、あの高い視点は魅力的ね。人間が地上で右往左往する喜劇や悲劇を、神の視点から一望できるなんて。私たちの舞台装置も、あれがあればもっと壮大になったかしら

視点といえば、あれは究極の『追跡者』でもある。私が描いた事件でも、犯人がロンドンの複雑な路地に逃げ込めば、追跡は困難を極めたものだ。だが、ドローンのレンズからは逃げられない。熱を感知し、暗闇を見通す。まさに『バスカヴィル家の犬』が空を飛んでいるようなものだよ。科学の進歩は、我々が愛したミステリーの『隠れ場所』を次々と奪っていくようだ

でもドイル、隠れ場所がなくなるということは、真実が白日の下にさらされるということでしょう? それはそれで、劇的な展開を生むかもしれないわ。例えば、不義の密会が空からの偶然の目撃によって暴かれる……なんて。機械の目は慈悲を持たないけれど、それゆえに残酷なまでに真実を映し出す。それは私の描いた『運命』の糸に、どこか似ている気がするの

確かに。だが、あの機械を操っているのは結局のところ人間だ。かつてホームズを監視していたモリアーティ教授の配下たちのように、悪意を持って使われれば、これほど恐ろしい凶器もない。……おや、あそこの木陰から一台飛び立とうとしているね。あの中には、一体どんな意図が積み込まれているのか。論理的に推論すれば、おそらくは単なる観光客の記念撮影だろうが……

ふふ、あまり眉間に皺を寄せないで。たとえ空に無数の目があろうとも、人の心の奥底までは覗けやしないわ。さあ、あの銀色の妖精が私たちの頭上を通り過ぎるのを眺めながら、もう一杯この冷たい珈琲を楽しみましょう。どんなに技術が進んでも、この喉を潤す喜びだけは、機械には決して奪えないものだもの
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