【英国文豪、令和を歩く】第87回:Jazz fills the night with soul and class, letting timeless melodies pass.
古い町家の風情を残した、薄暗くも落ち着いた喫茶店。使い込まれた木のテーブルに、二人の人物が向かい合っている。一人は華やかなワンピースを纏い、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを律儀に着こなし、手帳を傍らに置いた紳士、ドイル。窓の外では、京都の湿った熱気が陽炎を作っている

ねえドイル、耳を澄ませてみて。どこからか、魂を揺さぶるような、奔放で銀色の響きが聞こえてこないかしら? ジャズ……そう呼ばれる音楽。それはまるで、私の劇に登場する道化たちが、台本を投げ捨てて、己の心臓の鼓動のままに踊り狂っているような、そんな不思議な活気に満ちているわ

ふむ、ジャズか。ワトソン君が好むような整然とした軍楽や、あるいは君の劇伴で奏でられる『銀の調』とも、また一味違うね。あれは即興の芸術だ。ホームズがヴァイオリンを手に、事件の混迷を解きほぐそうと、あてもなく弦を爪弾く時の……あの論理を超えた、直感的な旋律に近いものを感じるよ。型に嵌まらない、だがその奥底には厳格なリズムの規律がある。実にミステリアスな音楽だ

そう、型に嵌まらないのが魅力なのよ! 楽譜という名の牢獄から逃げ出した音たちが、夜の闇の中で自由に恋を語り、嘆きを歌う。ピーターが『音楽の銀の調は、たちまち欝結れし憂思を解く』と歌ったけれど、このジャズの響きは、もっと激しく、もっと深く、現代に生きる人々の孤独や情熱を溶かしていくような気がするわ。不協和音さえも、人生のスパイスのように輝いて聞こえるから不思議ね

不協和音、か。確かに。私がかつて出会った音楽家たち……例えば、自転車に乗って現れたあの美しい音楽教師のヴァイオレットさんのような、指先が箆のように平べったくなるほど鍛錬を積んだ者であっても、このジャズの奔放さには驚くかもしれない。だが、指先に宿る『霊感的な表情』は共通している。楽譜通りに弾くのではない。その瞬間にしか生まれない『真実』を音に刻む。それは、複雑な証拠の中から一つの真実を導き出す、あのベーカー街の友人の思考の飛躍にも似ているよ

あら、探偵さんも案外、サックスの咆哮に合わせてステップを踏めるかもしれないわよ? この音楽の中では、帝王も乞食も、恋に破れた若者も、誰もが主役になれる。台詞を忘れても、その沈黙さえが『間』という名のアートになるんですもの。ドイル、あなたもそのパイプを置いて、このスウィングに身を任せてみて。厳格な論理の鎧を脱ぎ捨てて、ただ『今』を奏でるのよ

ははは、私には少々騒がしすぎる気もするが、不思議と悪くない心地だ。かつてロンドンの霧の中で追跡劇を繰り広げた時のような、あの胸の鼓動が高鳴る感覚……。この音楽の背後には、アフリカから渡ってきた人々の長い歴史と、自由への渇望が流れているという。私の物語に登場する、遠くアフリカへ消えた叔父のラルフ・スミスが、もしこの音を聞いたなら、一体どんな感想を抱いたことだろうね

きっと、失われた時間を取り戻すように、夜明けまで踊り明かしたはずよ。ジャズは、失われたものを嘆くのではなく、今ここにある命を祝福する音楽だもの。さあ、夜はまだこれから。このカッフェーに流れる即興の調べを肴に、私たちの新しい物語のプロットを、この自由なリズムに乗せて練り上げましょう。きっと、誰も予想だにしないような、素敵な喜劇が生まれるわ!
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