「因果関係を否定できない」という評価は不可能!?~血小板減少症を伴う血栓症の事例~
厚労省のサイトで公開されている「新型コロナワクチン接種後の副反応疑い報告」では、医師がワクチンとの「関連あり」と評価していても、専門家による審査で「評価不能」とされています。「評価不能」のままでは、治療にかかった費用なども給付されないでしょう。評価した専門家のコメントなどから、「ワクチンと症状名との因果関係を否定できない」という評価を得るためには、揃えるのは不可能と思われるくらい多くの条件があることがわかります。
血小板減少症を伴う血栓症(TTS)
2月18日に公開された報告から、ある検査ができなかったことから、血小板減少症を伴う血栓症がワクチン接種の副反応であることの確定診断には至らなかった事例(40代)を取り上げます。
厚労省サイト ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)> 第76回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第28回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料 2月18日
資料1-2-3-1より。
紹介する報告は、重複している部分などは編集してあります。BNT162b2は、コミナティ筋注(ファイザー製)のことです。時系列で追えるように、順番を入れ替えたりしています。長いので、詳細な検査値なども省いています。
※は、こちらで補足しました。
事例:15626 45歳男性 コミナティ筋注2回目接種 ロット番号 FE8206
2020 年より医学的治療をした糖尿病があった(血栓のリスクになる要因)ことを含み、ワクチンの予診票での留意点はなかった。
患者の家族歴は、患者の父の継続中の小脳出血であった。
併用薬はなしと報告された。
ワクチン歴:2021/08/01、BNT162b2(コミナティ、ロット番号は提供されなかった)の初回接種。
COVID-19 の罹患歴はなしと報告された。ヘパリンの投与歴はなしと報告された。血栓のリスクとなる因子は糖尿病であった。
事象経過は、次の通り報告された:
2021/08/22 15:00、 BNT162b2(コミナティ)2回目接種。
2021/08/28 (ワクチン接種6日後)から、後頭部の痛みを自覚し、その後も症状は改善なかった。左上四分盲(※全視野の4分の1が欠損)が発現した。
2021/09/11(ワクチン接種の 20 日後)、医療機関を受診した。
頭部 MRI の結果に基づき、患者は脳静脈洞血栓症による右後頭葉脳出血と診断され(脳静脈洞血栓症と脳出血)、精査加療目的で報告者の病院へ紹介入院となった。
報告者の病院初診時は、上記症状が認められた。脳静脈洞血栓症の原因検索として、血栓症や血管炎の検査を実施した。しかし、いずれも陰性であった。COVID-19 ワクチン接種 6 日後の発症であり関連を調査中であった。しかし、確定診断のための検査は国内では取り扱いがなく、確定診断には至らなかった。
診断病名:脳静脈洞血栓症またはその他の脳静脈血栓症および脳卒中。
除外した疾患:ヘパリン起因性血小板減少症、血栓性微小血管症、播種性血管内凝固症候群、抗リン脂質抗体症候群。
2021/10/05、退院となった。退院後に左上四分盲の評価のため眼科受診し視野検査を行った。検査の結果、半盲等は認めず、今のところ視力には影響なかった。
2021/10/05(ワクチン接種の 1 ヵ月 13 日後)、血小板減少症を伴う血栓症の転帰は、回復したが後遺症あり(左上四分盲)であった。
脳静脈洞血栓症による右後頭葉脳出血の転帰は、処置(2021/10/05 )で回復された。事象頭痛と失明の転帰は、軽快であった。他の事象の転帰は不明であった。
報告者は、事象(血小板減少症を伴う血栓症、脳出血、脳静脈洞血栓症)を重篤(障害および 2021/09/11 から 2021/10/05 まで入院)(FU3 にて事象頭痛、失明、血小板減少症を伴う血栓症、脳出血、脳静脈洞血栓症を重篤(2021/09/11 から 2021/10/05 まで入院、障害につながるおそれ))と分類し、事象(脳静脈洞血栓症、脳出血)と BNT162b2 との因果関係は関連ありで、事象(頭痛、失明、血小板減少症を伴う血栓症、脳出血、脳静脈洞血栓症)と BNT162b2 との因果関係は評価不能であった。他の要因(他の疾患など)の可能性はなかった。
事象(血小板減少症を伴う血栓症、脳静脈洞血栓症による右後頭葉脳出血)は、2021/09/11 から 2021/10/05 まで入院に至った。患者は、血小板減少と D- dimer 高値、溶血所見や他の原因を示唆する所見がなく、抗 PF4 抗体の測定はできない状況の中、診断に至った。
臨床症状/所見は以下を含んだ:
2021/09/22 頃、視覚異常(霧視, 複視など)があった。
報告者は、以下の通りにコメントした:
抗 PF4 抗体が測定できて陽性と判定されれば、確定診断となるが、それが現在の日本国内では叶わない。よって、因果関係があるかと改めて問われると難しい判断になるが、日本脳卒中学会ならびに日本血栓止血学会による血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き第 2 版に倣うと、本例は、ワクチン接種が原因として最も考えられた。COVID-19 ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と手引きによると、報告者は関連性が高いと判断した。
報告医師は、「抗PF4抗体が測定できて陽性と判定されれば、確定診断となるが、それが現在の日本国内では叶わない」と言っています。抗 PF4 抗体の測定は、副反応疑いの報告として提出する書類に必要な項目です。日本国内では検査できないのなら、日本では「因果関係を否定できない」という評価になることは不可能ということになります。
提出する書類にある項目の中に、国内では検査できないものが含まれているなんて、おかしな話です。そこで、調査票と評価についても取り上げます。
「血小板減少症を伴う血栓症(TTS)」確定に必要なもの
厚労省のサイトには、副反応疑いの報告対象として、アナフィラキシーや心筋炎と並んで下記が書かれています。
血栓症(血栓塞栓症を含む。)(血小板減少症を伴うものに限る。)(ワクチンとの関連によらず、接種後28日以内に発生した場合が報告の対象です。)
これに該当すると判断した場合、下記のような項目について報告する必要があります。
・局所症状の有無(例:頭痛、霧視、錯乱、けいれん、息切れ、胸痛、下肢腫脹、下肢痛、持続的な腹痛)
・出血傾向の有無(例:接種部位以外の皮膚の内出血、点状出血)
・画像検査の結果:静脈洞血栓、内臓静脈血栓 等
・血液検査の結果:血小板数減少、凝固異常(D-ダイマー、プロトロンビン時間、フィブリノゲン) 等
・加えて、予防接種後の副反応の評価に関する国際基準「ブライトン分類」に基づく評価を行うため、別紙様式1に加えて血栓症(血栓塞栓症を含む。)(血小板減少症を伴うものに限る。)(TTS)調査票も作成し、報告してください。
この調査票というのが、3ページもあってかなり細かく書く必要があります。多忙な業務の中でこれを書かなければ報告できないというのは、医師にとっても大きな負担でしょう。この調査票には多くの検査項目があり、その中に前述の「抗PF4抗体」があるのです。

これに記入して提出すると、専門家会議で国際基準「ブライトン分類レベル」というものがつけられるようです。国際基準ということは、他国では「抗PF4抗体」の検査が広く行われているということなのでしょうか。
(参考5)TTS に係るブライトン分類レベル
○症例定義に合致するもの
・レベル1:TTS 確定例(Definite case TTS)
・レベル2:TTS の可能性が高い(Probable case TTS)
・レベル3:TTS の可能性(Possible case TTS)
※発症から 100 日以内にヘパリンの投与歴がある場合には”-H”を付して、レベル1-H、2-H、3-H とする。
○症例定義に合致しないもの
・レベル4:TTS として報告されたが、十分な情報が得られておらず、症例定義に合致すると判断できない
・レベル5:TTS ではない
レベル1とされると、TTS確定例となるようです。
例えば、このような感じで評価されています。
資料1-5-1 新型コロナワクチン接種後のTTS疑いとして報告された事例の概要(コミナティ筋注)より。

「情報が不足している」などの理由でレベル4や5になっていますが、4例目はレベル1(確定)となっています。ですが、TTSは確定していても、「基礎疾患の情報が足りない」などの理由で、その左横にある因果関係の評価は「γ(評価不能)」となっています。

ここまでくると、報告して「因果関係を否定できない」とされる可能性は、限りなくゼロに近いのではないかと思えます。前述の事例で、もし「抗PF4抗体」をあの医師が調べられていたら、評価はどうなっていたのでしょうか。調査票に不備がなくても、持病として糖尿病があるので、それを理由に「評価不能」にしたかもしれません。
北海道大学病院が抗PF4抗体の研究対象者を募集
報告医師は(報告時点では)日本では調べられないと書いているので、特殊な検査なのだと思われます。調査票を作った段階で、日本では一般的ではない検査だとわかっているはずなので、検査ができる環境を整える必要があったのではないでしょうか。そうしなければ、医師たちはあの調査票を完成させることができません。
そのような声があったかどうかはわかりませんが、北海道大学病院検査・輸血部が検査を始めたようで、現在、研究対象者を募集しています。ただし、研究対象となるためには条件があります。
北海道大学病院検査・輸血部の募集ページより
全世界で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチン接種が進む中、副反応として血小板減少を伴う血栓症が問題となっている。
(中略)
つまりこの副反応は、SARS-CoV-2ワクチンにより抗PF4抗体が産生され、その抗体が血小板を活性化し、消費性に血小板減少を引き起こし、活性化血小板によりトロンビンが過剰産生されて血栓症を発症すると想定されている。(中略)
TTSの診断は1回目のワクチン接種後4-28日の期間に血小板減少を伴う血栓症を発症し、抗PF4抗体(ELISA法)が陽性を証明することである。可能であれば機能的測定法(患者血清/血漿で健常者血小板が活性化するか判定する方法)が陽性であることを示すことも重要と報告されている。しかし、抗PF4抗体検出について、本邦でHITの診断に用いられているラテックス凝集法または化学発光免疫測定法は、TTSでは偽陰性になることが報告されているので、ELISA法での確認が必要である(3, 6)。
(中略)
本研究は、SARS-CoV-2ワクチン接種後(ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社)に①血小板減少を伴う血栓症、または②血小板減少症のみ、または③血栓症のみ、を発症した者を対象にELISA法による抗PF4抗体を測定し、陽性者には機能的測定法を行って、検出された抗PF4抗体が血小板活性化能を有するか確認する臨床研究である。以下に該当する症例を診察し、ELISA法による抗PF4抗体測定を希望される方は事務局まで連絡をください。
条件の詳細は引用元のページに書かれていますが、除外基準に「2回目のSARS-CoV-2ワクチン接種後から2ヶ月以上が経過した者」と書かれています。そうなると、すでに多くの人は対象外になってしまったと思われます。このような研究がもっと周知されていれば、間に合った人もいたのではないでしょうか。
北海道大学病院検査・輸血部の募集ページには、「本邦でHITの診断に用いられているラテックス凝集法または化学発光免疫測定法は、TTSでは偽陰性になることが報告されている」と書かれています。公開されている報告には、ラテックス凝集法で調べたと思われる事例もありました。

この事例(13028)では、ブライトン分類レベルが1(確定)ですが、ラテックス凝集法で陰性を確認したと書かれています。陰性でも確定されるようですが、因果関係の評価は「γ(評価不能)」です。これが偽陰性で、実は陽性だったら、評価はどうなっていたのでしょうか。
ELISA法での確認が必要ということまで知っていないと、書類に不備なく提出することさえできないということになりますが、患者の側はそのようなことを知っているはずもありません。医師たちの間では、どれくらい情報共有ができているのでしょうか。
