急性心不全のさわりだけかいてみた。〜第3部:治療編〜
はじめに
急性心不全の治療というと、
「どの薬を使うか」
「ラシックスは何mgか」
といった話を思い浮かべる人が多いかもしれません。
ですが、実際の急性期対応で一番重要なのは、薬の選択そのものではありません。
どの問題から、どの順番で手をつけるか。
これを間違えないことです。
同じ「急性心不全」という診断名でも、
目の前の患者が困っている理由は一つではありません。
心拍出が足りていないのか。
肺が水で満たされて酸素が入らないのか。
それとも体に水が溜まりすぎているだけなのか。
この違いを無視して治療を始めると、
正しいはずの治療が、簡単に患者を悪化させます。
この章では、
「急性心不全をどう分解して考えるか」
「治療に入る前に、必ず立ち止まるポイントはどこか」
を整理します。
細かい薬剤量やテクニックの話は後回しです。
まずは、迷わないための考え方だけを共有します。
👇完全対策マニュアルです。慢性心不全用の心保護薬、利尿剤の調整まで書いています。
第1部|急性心不全は「3つの症状」に分けて考える
急性心不全は、一つの病気ではありません。
いくつかの問題が、同時に、さまざまな割合で重なった状態です。
急性期の現場では、まず次の3つに分けて考えます。
ひとつ目は、LOS(Low Output Syndrome:低心拍出)。
心臓が十分な血液を送り出せていない状態で、いわゆる心原性ショックに相当します。
ふたつ目は、肺うっ血。
左心系の圧が上がり、肺に水がたまって酸素が取り込めなくなっている状態です。
みっつ目は、体うっ血。
全身の静脈系に血液や水分が滞り、浮腫や体重増加として現れる状態です。

重要なのは、
これらは同時に存在しうる、という点です。
肺もうっ血しているし、足もむくんでいる。
さらに心拍出も落ちている。
そんな患者は、決して珍しくありません。
しかし、同時に存在していても、
すべてを同じ優先度で扱ってはいけません。
命に直結する問題と、
あとからでも取り返せる問題が、はっきり分かれています。
この違いを意識することが、
治療の順番を決める第一歩になります。
第2部|最初の分岐点──LOS(Low Output Syndrome:低心拍出)があるか
治療を始める前に、必ず確認すべきことがあります。
それが、LOS(Low Output Syndrome:低心拍出症候群)があるかどうかです。

ここが、急性心不全治療の最大の分岐点です。
LOSがある、ということは、
心臓から十分な血液が出ていない状態です。
この状況では、
普段「心不全に効く」と思っている治療が、
そのまま危険な治療に変わります。
利尿剤で前負荷を下げれば、さらに拍出は落ちます。
血管拡張薬で血管を広げれば、血圧は保てません。
(☝️循環器内科や集中治療医のベテランからは非難轟轟の説明です。なぜなら例外があるから。)
(が、その方々が語る例外を心不全初心者の皆様が気にするのは、もっと経験を積んでからです😇)
つまり、
LOSの有無を見極めずに治療を始めること自体がリスクです。
だからこそ、
急性心不全を見たら、まずLOSを疑う。
この姿勢が何より大切になります。
LOSが疑われる場合、
非専門医が一人で抱え込むべき病態ではありません。
ここで必要なのは、
薬の工夫ではなく、体制を変える判断です。
このあと、
LOSがある場合と、ない場合で、
治療の考え方がどれほど変わるのかを順番に見ていきます。

第3部|LOSがある場合の考え方と初期対応
LOS(Low Output Syndrome:低心拍出症候群)がある場合、
急性心不全の治療は、これまでの流れと完全に別物になります。
ここでやるべきことは、
うまく治療することではありません。
これ以上悪くしないことです。
LOSとは、心臓が十分な血液を全身に送り出せていない状態です。
この段階では、前負荷や後負荷を調整する余地がほとんどありません。
つまり、
普段「心不全に効く」と思っている治療が、
そのまま危険な治療に変わります。
まず、利尿薬です。
前負荷を下げれば、心拍出はさらに低下します。
尿が出たとしても、臓器灌流は犠牲になります。
次に、血管拡張薬です。
血圧低下に耐えられない状態で血管を広げれば、
ショックは一気に進行します。
LOSの場面でこれらを漫然と使うことは、
心不全治療ではなく、
循環を悪化させる行為です。
したがって、原則は明確です。
非専門医が単独で完結させない。
LOSが疑われた時点で、
循環器内科やICUなど、重症心不全に慣れた体制へ
早期に相談・転送する判断が最優先になります。
とはいえ、
現実には専門医がすぐに来られない状況もあります。
その場合、非専門医がやむを得ず行う初期対応として、
選択肢が一つだけあります。
それが、ドブタミンです。
ドブタミンは心収縮力を高め、
一時的に心拍出を増やす方向に働きます。
開始用量はおおよそ2γ(2 μg/kg/min)から検討します。
①薄いドブタミン(200mg/200mL)
6ml/h(50kg換算で2γ)から開始、3ml/hごとに調整
3γ以上必要なら
濃いものを使用することを検討
※末梢点滴でも一時的なら投与可
※いきなり中止しない!
※0.5γ〜1γごと漸減すること!
②濃いドブタミン(シリンジ150mg/50mL)
3ml/h(50kg換算で3γ)から開始、1ml/hごとに調整
5γ以上必要なら
補助循環の使用を検討
※中心静脈カテーテルCVから投与するのが原則
もちろん、万能ではありません。
心筋虚血の増悪、不整脈の誘発といった
明確なデメリットがあります。
それでもLOSの場面では、
何もしないよりは、
次につなぐ意味を持つ場合があります。
重要なのは、
ドブタミンは治療のゴールではないという点です。
あくまで専門管理へつなぐまでの橋渡しです。
ドブタミンを開始した瞬間から、
次のステップは決まっています。
循環器内科へ引き継ぐ。
ICUへ移す。
より高度な循環管理に委ねる。
LOSがある急性心不全では、
腕前よりも判断力が問われます。
自分で何とかしようとしないこと。
それこそが、この章で伝えたい
最も重要な初期対応です。
第4部|LOSがない場合、何を最優先するのか
LOS(Low Output Syndrome:低心拍出症候群)が否定的で、
血圧にもある程度の余裕がある。
この条件がそろったとき、
急性心不全の治療は次の段階に進みます。
ここで最初に考えるべき問いは、
「どの薬を使うか」ではありません。
今この患者を一番苦しめている問題は何か、です。
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