中絶禁止で得をするのは誰か。アメリカはなぜ貧困層を増やしたがる?
アメリカの中絶禁止問題について、最近どうなっているのかという話を書きました。
NYT記事によると、遠隔医療と中絶薬のおかげで、とりあえず中絶はできる状態が続いているけれど、保守党が強い地域では、医療としての中絶を妨害する動きが活発になっていると。
中でもびっくりはテキサス州の「誰でも他人の中絶を訴えられる法律」。中絶を行った本人ではなく、「中絶を助けた人間(たとえば中絶薬を処方した医師)」を訴えると賠償金が得られる仕組みを作ったらしいです。
賠償金といっても、訴える側に損害は発生していないので、事実上これは密告すると報奨金が貰えるシステム。
一体何のために中絶を禁止するのか、本当にワケわかりません。
望まない妊娠が起こるのは世の常。産むしかオプションがない状態は、女性の自由を奪うだけではなく、男性も困りますよね?養うだけの経済力があるとは限らないし。
貧困家庭ほど避妊にアクセスしづらく、性教育も弱い。しかも保守的な州では「禁欲教育」が義務。(欲情するなと言い聞かせれば欲情しないのか?)このため、望まない妊娠が増えやすいという構造があります。
そこに中絶禁止が重なると、避けようのない妊娠が「産むしかない」に変わり、家計の破綻やシングルマザーの増加を招き、子どもの貧困が再生産されていく。結果として、貧困層がますます厚くなります。
貧困層が厚くなれば社会全体が疲弊します。男も女も得をしないのに、なぜテキサス州の政治家は中絶を強制したがるのか。
テキサスはアメリカの縮図のような州であり、「金持ちだけ潤い、貧困層は地獄」な社会。巨大企業があってGDPはでかいのに、小さい政府志向で一般人は医療にも教育にもアクセスが限られる。
金持ちのじいさんたちは、別に痛くも痒くもありません。医師が州外に流れて医療崩壊したって、自分らは高額保険あるから無関係。テキサス州の将来?そんなん次の時代の政治家の問題。
じーさんたちの主張はこんな感じ:
「若い女性には責任感が足らん」
→ 性教育や避妊アクセスを州が潰してるくせに、自己責任のせいにする。
「家族を大事にしない。キャリア優先はわがまま」
→ 共働きじゃないと食べていけないのに、1950年代の価値観を押しつけてくる。
「性の自由が州を壊す」
→ いや、州を壊してるのはお前らの医療禁止政策だよという話。
「そもそも中絶なんか必要ない。良い女性はそんなことしない」
→ 貧困・DV・医療アクセスのなさを理解する意志ゼロ。
(こういうじーさまに限って、自分の娘や孫がうっかり妊娠したら、金にものを言わせて中絶させるのよね…昔から良家のお嬢様は安全に中絶できるの周知の事実。)
テキサスのじーさまの言い分は、日本でアナクロ爺が「若い女性がわがままになって子供を産まないから少子化になった」という愚痴とよく似ています。
しかしアメリカの怖いところは、法律で無理やり昔に戻ろうとするところ。州ごとに法律が大きく変わるので、動く余裕のある若い女性やリベラル系の若者は逃げ出し、経済的に動けない人々は取り残され、貧困ループを再生産していく。
結局のところ、「アメリカはなぜ貧困層を増やしたいのか」の答えは、「貧困層が増えれば、その分金持ちがさらに金持ちになるから」。
貧困層が増えれば、ブラック労働でも辞められない人が増え、富裕層のビジネスが安定する。格差を固定化する最も効率の良い装置が中絶の禁止ということね。
中絶の問題は、こちらで紹介したキャロル・オフの本でも取り上げられています。なぜカナダでは、アメリカのように中絶禁止の勢力が盛り返さないのかについて、以下に書きました。↓
