見出し画像

ものや情報が溢れる時代に、静かなものづくりをするということ

🎧 この音声は、Spotifyでも聞いていただくことができます。

https://open.spotify.com/show/3GDxrJTsYoJ9U9dySJW1x2


以下、音声を文字起こしして要約・加筆したものです。


前回、これまでのキャリアから少し転身して「洋裁を学んでみる」という報告をさせていただきました。

報告を聞いたリアルなお友達や、すでに洋裁を始めているnoterさんから温かい応援のコメントをいただけて嬉しかったです。

今回は、文化服装学院の教材で目にした一文と、
母の洋裁店でのお客さんの言葉から、「ものが溢れる今の時代に、洋裁をする価値」について考えてみたことをお話します。


「静かなものづくり」という心地いい言葉

先日、文化服装学院の通信講座の教材が届きました。
入っていたテキストや道具を確認しながら、これからどんなふうに学んでいこうかとイメージを膨らませているところです。

文化服装学院の通信講座「服装コース」の教材。
講座料をクレカで決済して2日後くらいに届きました!早い!


教材の中に「ガイドブック」という小冊子があり、学習の進め方がまとめられているのですが、その1ページ目にこんな一文がありました。

さまざまな情報が飛び交い、ものが溢れている状況の中で、静かなものづくりの技術が大切にされる気運があります。

文化服装学院の通信講座ガイドブックより

この言葉を読んだとき、思わず二度見しました。
わたしの気持ちの中でもやもやと言語化しきれていなかったことが、ここにはっきりと書かれているように思えたのです。


Webの世界から洋裁の道へ進むことの「ちぐはぐ」感

わたしはこれまでWebデザインの仕事をしてきました。
また、AIを使って作業を効率化したり、テクノロジーの力で暮らしを快適にできるかと考えるのが好きです。

一方、洋裁は人の手によって行われる超アナログなもの。
今までやってきたことと、これからやろうとしていることの「質感」がまるで違う。
自分の中でキャリアに一貫性がないのでは?と自分で自分が心配でした。

一方で、洋裁を学ぶ道はすごく当たり前にわたしの目の前に現れて、そこへ進んでいくことに「自然さ」を感じている。
不安と自然さが共存していて、自分の中でちぐはぐした気持ちが残っていました。

だけどガイドブックの「静かなものづくりの技術が大切にされる」という一文を読んで、腑に落ちたのです。

AIやテクノロジーが進化し、ただの作業はどんどん能率化していく中で、否が応でも「人間だからできること」を考えさせられる。

こういう時代だからこそ、手作りやものづくりの価値が再認識できる。

今までWebやAIの世界にいたわたしが洋裁に心が向いたのは、おかしなことではなく、むしろ自然なことなのだと背中を押してもらえた気がしました。


母の洋裁店を見つめる目が変わった

わたしが洋裁を学びたいと思うようになったのは、母が洋裁店をやっているという環境があったからこそです。
もし母のお店がなかったら、洋裁に興味を持ったとしても、せいぜい趣味の一つ。ライフワークとして取り組もうとは思わなかったかもしれません。

母の洋裁店は、わたしが高校生になる頃に両親が始めました。
15歳の頃から両親の仕事を見てきたことになりますが、正直に言うと、つい最近まで洋裁の仕事にそこまでリスペクトを感じていませんでした。

特に洋服のお直しに対しては、「直してまで着る?」と不思議に思っていました。
ものが溢れる時代に生まれたわたしは、着れなくなったら捨てて買い替えればいい。安くて良い服は世の中にいくらでもあるのだから、と思っていたのです。
つまり、ものをあまり大事にしない価値観で生きてきたということです。

だけどわたしも年齢を重ね、親になり、個人事業をしながら実際に母のお店を手伝うようになり、お客さんの声を直接聞くようになるうちに、気持ちに変化が現れてきました。

素人のわたしが見る限り「もう直らないだろう」「さすがに無理でしょ」と思っているお直し依頼も、数日後に完璧に直っている洋服の姿をみると、大袈裟ではなく「魔法?」と思ってしまいます。

母をはじめとする洋裁師たちがその手で施す技術は、本当に目を見張る素晴らしさがあるのです。
これはAIにできるはずがなく、WebデザイナーとしてAIの進化にビビってばかりのわたしが唯一「人間にしかできない仕事」として嬉しく思う瞬間でした。


安物のバッグを4400円で直す人

数日前、母のお店を手伝っていた時のこと。あるお客さんがお直しの依頼で来店されました。

持ってきたのは、使用感たっぷりのトートバッグ。
見るからに100均に売っていそうな何の変哲もないバッグです。(ごめんなさい)
裏を見ると、縫い代のところにビニールテープで補強がしてあるのですが、それが経年劣化でボロボロに剥がれてきている状態でした。

母が見積もったところ、テープを全部剥がして布でくるんで縫い直す作業で約4000円。
それでも、お客さんは「直るならお願いします」と即答されました。

正直なところ、わたしは驚きを隠せませんでした。
どう見ても安物のバッグを4000円かけて直すのかと。
このバッグにかなりの思い入れがなければ、直してまで使おうとはならないはずだと思ったのです。


ものを大事にするということ

わたしが「すごく使い込まれているバッグですね」と声をかけたとき、そのお客さんはこう言いました。

バッグ自体は安いものだし、買い替えようと思えばどこにでもある。
だけど、ダメになったから捨てる、買い替えるという考え方に違和感がある。
このバッグは確かに安いけど、形も大きさも自分にフィットしていてすごく使いやすい。
せっかく手や暮らしに馴染んだものを、少しダメになったからといって簡単に手放したくない。直せるなら直して、長く使いたい。

その言葉を聞いて、わたしは目が覚めるような感覚がありました。

ものを大事にしたい気持ちは、そのもの自体の値段で決まるものではない。人々の暮らしの中でものがきちんと生かされ、愛着や縁を感じることができたからこそ長く使い続けたいと思うのです。

わたしも決してお金に余裕があるわけではないから、買い物は慎重になる方です。
だけど、壊れてしまったら「買い換えよう」と安直に考えてしまう。
どうしたらもっと長く使えるかを考える前に、新しいもので代用しようとしてしまうのです。

お客さんは帰り際に、こう言ってくれました。

いつも利用させてもらっているけど、本当にこのお店がなくなったら困る。ものを大事に使い続けたいと思ったときに、きれいに直してもらえる場所がある。そのおかげで使い続けられたものがたくさんあるから、ぜひもっと長く続けてほしい。

母はいつもこんな言葉を受け取っているのか特別感激した様子はありませんでしが、
わたしは、こんなお客さんをもっと大事にしていきたいと思いました。

もしわたしがこれから洋裁を学んで、お直しができるレベルに達することができたら、こんなお客さんに喜んでもらえるサービスができる。
それはきっと嬉しいことだと、すごく自然にそう思えたのです。


量産・消費からものを大切に所有する時代へ

時代は巡ってくるものだと思っています。

わたしの父や母が生まれた時代は、戦争が終わったばかりでものがなかった。
既製服なんてまだ流通してなく、誰かが自分のために仕立ててくれた服を着ていました。
たくさんはないけれど、自分だけの手作りの服を着ていた時代。
当時の写真を見ると、みんなそれぞれ好きな生地で、好きな柄や模様を選んで自分だけの服を着てて誇らしそうです。

現在は既製服が溢れて、ユニクロで買った服がすれ違った人とお揃いなんてことは日常茶飯事。ものの量自体は豊かになったけれど、みんな似たような服を着ているような気もする。

だからこそ、また時代が巡るとしたら、量産型で消費するばかりの社会から、ものを一つ一つ大事にしよう、すぐ捨てずに活用しよう、お気に入りの服を自分で作って着てみよう、そういう価値観がまた見直される時代が来るのではないかと思うのです。

安い服がこれだけ流通している背景には、過酷な環境で働く人たちの問題もある。今の量産・消費型の社会が、地球全体で見ても無理になりつつあることは、わたしたちもなんとなく感じているはずです。

たくさんあるから豊かなのではなく、少なくても自分のお気に入りが確かにあるという喜び。その豊かさがもう一度フィーチャーされる時代になるのではないかと思うと、洋裁の力はまた一層価値を持つのかもしれません。


洋裁を学ぶ意義が見えてきた

ガイドブックの「静かなものづくり」という言葉。
そして、お気に入りのバッグを直して大切に使い続けたいと言ったお客さん。

このふたつの出会いを通して、わたしがこれから洋裁を学ぶ意義が少し見えた気がします。
ものが溢れる時代だからこそ、一つ一つを丁寧に選んで大事に使っていく。そんなライフスタイルを後押しできる技術を身につけてみたいです。

また、現代はものだけじゃなく「情報」も溢れています。
情報やデバイスから離れること自体が難しいことですが、そんな中でもひとり「静かに」ものづくりをすることで本来の自分を取り戻せているような感覚があります。
そんなものづくりの時間も、これからの時代では贅沢なものになるのかもしれません。

本格的に学び始めるのは来月から。
迷ったり心が折れそうになったりしたときは、今回のエピソードを思い出して気持ちを立て直したいと思います。
はじめてのことを一つ一つ学びながら、このスキルがきっと誰かを喜ばせるものになると信じて、取り組んでいきます。


いいなと思ったら応援しよう!

チコ | 脱力育児中フリーランス これから長く、楽しく記事を書いていく上で励みになります✨ いただいたチップは、次の記事を作るために使わせていただきます! ぜひ、応援してもらえるとうれしいです☺️