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【メンタルヘルス|ライフスタイル】<第3回>ハイキャリアだけじゃない―家庭・ケア・裏方を担ってきた人に起きるインポスター症候群

皆様、こんにちは
公認心理師の小高千枝です。

「私は、何も成し遂げていない気がする」
「誰かの役に立ってきたはずなのに、価値がないように感じる」
「この年齢で、私は何者なんだろう」

こうした言葉は、いわゆるハイキャリア層の方だけでなく、
家庭・ご家族のケア・裏方を担ってきた人からも、非常によく聞かれる言葉でもあります。

<第1回>インポスター症候群とは何か―「私なんて…」が生まれる本当の理由
<第2回>なぜ現代社会は、インポスター症候群を生みやすいのか―SNS・比較・スピード社会と「自分の感覚」を失う時代

こちらでお伝えしてきたように、インポスター症候群は「能力のなさ」でも「心の弱さ」でもありません。役割と自己認識のズレが広がったときに起こる心理反応だと捉えてみてください。

そしてこのズレは、目に見える成果を積み上げてきた人だけでなく、目に見えない役割を長く引き受けてきた人ほど、蓄積されやすい傾向もあるのです。



1.「成果が見えない役割」を担う人ほど、評価の空白を感じる

たとえば、

・家庭を優先してきた人(仕事の有無にかかわらず)
・育児や介護を担ってきた人
・表に立たず、裏方として支えてきた人

こうした役割の方々は、社会にとって不可欠でありながら、

・数値化されにくい
・成果として残りにくい
・評価の言葉が与えられにくい

といった特徴や環境下に置かれることが多いです。

特に、家庭やケアの領域では、

・できているときは話題にならない(やっていて当たり前になる)
・できていないときだけ指摘される(普段やっているのに「やっていない」と言われる)

といったように「減点方式」が発生しやすいです。

どれだけ頑張っても、本人の中に残るのは達成感ではなく、
「まだ足りない」「もっとできたはず」「これは評価されることじゃない」という自尊心が低下するような感覚が芽生えます。

この積み重ねが、「私は何も成し遂げていないのではないか。。。」
という自己否定につながっていくのです。


2.見えない家事・見えない負担―「メンタルロード」という現実

家庭内には、実際の作業としての家事だけでなく、”常に頭の中で回り続けている“見えない仕事”があります。

・家族の体調や予定を全て把握・管理している
・先回りして段取りを考えている
・トラブルが起きないように常に気を配っている
・感情のバランスを整えている

これは近年、「メンタルロード」と呼ばれるようになりました。

メンタルロードの特徴は、
✔ 目に見えない
✔ 他人から気づかれにくい
✔ 休んでいても続いている

目に見えない作業や判断を頭の中で管理することによる精神的負担のこと。つまり、常に何かを背負っているのに、それが“仕事”として認識されにくいのです。

この状態が長く続くと、人は「疲れている理由」を自分でも自己理解や他者への説明(助けを求めることも)ができなくなります。

そして、「こんなことで疲れている自分は甘いのではないか」と、自分を責め始めてしまうのです。

これもまた、インポスター症候群が育ちやすい土壌です。

母との京都旅で宿泊したホテルです。
父が他界したことで母は妻という立場ではなくなったものの父の残した遺品の管理など
忙しい日々のため、時には「妻の鎧」を外す時間も。。。

3.更年期・ミッドライフ―「役割が揺らぐ」時期に起きること

特に、40代後半〜50代前後の更年期・ミッドライフの時期には、この問題が一気に表面化しやすくなることもあります。

なぜなら、この時期は、

・子育てが一段落する
・介護の形が変わる
・家族の依存度が下がる
・体調やホルモンの変化が起きる
・自分の生き方を改めてみつめなおす
。。。

といった、役割の再編成が起こる時期でもあるためです。

これまで、「誰かのために動くこと」「必要とされること」を軸に生きてきた人ほど、役割が薄れたときに、ぽっかりと空白が生まれます。
そして、ふと立ち止まった瞬間に、こう感じてしまうことがあるのです。

「私は、この先、何をしていけばいいのだろう」
「役割がなくなった私は、価値がないのではないか」

これは、人生に失敗したサインではありません。役割中心の自己認識から、自分自身に戻る入口なのです。


4.「ケア役割を手放す怖さ」という、語られにくい感情

ここで、もう一つ大切なテーマがあります。
それは、ケア役割を手放すことへの怖さです。

長く支える側にいた人ほど、

・自分が引いたら、誰かが困るのでは(他の人に迷惑をかけたくない)
・自分が頑張らなければ、回らなくなるのでは(自分以外対応できる人がいない)
・自分が楽になるのは、無責任なのでは(「やらなくてはいけない」が日常化)

と感じやすくなります。これは、責任感の強さであり、愛情の深さでもあります。

しかし同時に、
「自分の存在価値=誰かを支えていること」
という結びつきが強くなりすぎると、
役割を緩めることが、自分の価値を失うことのように感じられてしまうこともあるのです。
その結果。。。

・休めない、休んではいけない
・頼れない、頼ってはいけない
・新しい一歩を踏み出せない(ここにしか居場所がない)

という状態に陥りやすくなります。

この「手放す怖さ」も、インポスター症候群と深く結びついていることがあるのです。

東京に雪が降った2月。優しくあたたかな気持ちに。。。

5.“見えない貢献”は、価値がないのではない

ここで、改めて言葉にしておきたいことがあります。

見えない貢献は、なかったことにはなりません。
評価されにくいだけで、人生や社会の基盤を確かに支えています。

・家族が安心して過ごせた時間
・誰かが立ち直るまでの穏やかな余白
・トラブルがあっても崩れなかった関係性

それらは数字にはなりませんが、確かに積み上げられてきたものでもあります。インポスター症候群に苦しむ方・悩まれる方は、「何もしてこなかった人」ではありません。

むしろ、“目立たない形であっても、やり続けてきた人”です。


5.自分の価値を取り戻すための、3つの視点

ここからは、回復のための視点をお伝えさせていただきます。

1)「成果」ではなく「能力」で振り返る

家庭・ケア・裏方の役割は、成果よりも「能力」で言語化すると見えてきます。

・生活を回してきた
・感情の安全基地を作ってきた
・誰かが力を発揮できる土台を整えてきた

これは立派なスキルであり、能力です。どなたにでも出来ることではありません。「継続してやってこられた」ことを言語化し可視化され、承認して差し上げていただきたいと思います。

2)「役割が変わる=価値が下がる」ではない

役割は人生のフェーズによって変わります。
役割が薄れる時期は、価値がなくなる時期ではありません。
むしろ、次の自分に移行する準備期間です。

3)「自分が何を大切にしてきたか」を自分軸で拾い直す

他人基準ではなく、自分軸として

・何を守ってきたのか
・何を優先してきたのか
・どんな在り方を選んできたのか

を、自分の言葉で振り返ります。
それは、派手な肩書きではありませんが、長い目でみた人生の核となるのです。


最後に

もしこの記事を読まれながら、胸の奥が少し苦しくなった方がいらっしゃいましたら。。。
それは、読者の方が「誰かのために」を続けてきた人だからです。

インポスター症候群は、誠実に、責任を引き受けてきた人ほど、抱えやすいです。

家庭・ケア・裏方という領域は、社会の評価軸からこぼれ落ちやすい傾向が現代社会においてでもあります。
だからこそ、自分の価値を見失いやすいのです。


次回(第4回)は、
『企業・組織の中で起きているインポスター症候群
―評価・昇進・「理想のリーダー像」の罠』

について扱わせていただきます。

インポスター症候群を、個人の問題ではなく、組織と社会の構造の問題として捉え直していきたいと思います。


【HP】
小高千枝メンタルヘルスケア&マネジメントサロン

【著書】
『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』

韓国版『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』
가면을 벗어던질 용기
진짜 내 모습을 들킬까 봐 불안한 임포스터를 위한 심리학

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