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『ソトノレンズ』 第一話 【創作大賞2024漫画原作部門】


あらすじ

奴隷制度が残るとある国の麦畑。
奴隷の少年ルッカは『ただの麦』を無我夢中で
撮影する写真家の青年タヒトと出会う。

麦を「美しい」と言うタヒト。
その言葉に戸惑うルッカ。

しかし、タヒトが撮影した
『たった一本の麦穂の写真』に心を奪われる。

そして誘われるがままカメラを習うことに。

タヒトの教えはただひとつ
「撮りたいもの以外は死んでも撮るな」

奴隷として生きる自分は
本当は何がしたくて、何が撮りたいのか、、

自由奔放なタヒトと出会い
個性的で型破りなアーティスト達
世界中の美しい景色や人々に魅せられ
ルッカの感性は次第に解き放たれてゆく。

世界を巡る写真家の作者が、熱い思いを込めて贈る旅するアートファンタジー!!


第一話

1. 荒野の道 昼

荒れた荒野、砂埃が舞い上がる中、城下町へと続く一本道を奴隷たちが疲れ果て、うなだれて歩いている。彼らの目は虚ろだ。

その隣を進む一台の煌びやかな馬車。

馬車内には、窓枠に肘をつき外を眺める一人の青年タヒト(黒髪を無造作に結び、黒地でだぼっとした服装。煌びやかな車内とは不釣り合い)
顔や表情はよく見えない。

手には古びて小傷のついたフィルムカメラを持っている。カメラを持つ中指が苛立つようにリズムを打っている。

御者が行く手に城下町を捉え振り向く。  
御者「タヒト様!もうすぐ城下町にございます!」  
タヒト「、、、ああ」  
タヒトは外を眺めたまま怠そうに返事をする。

その時、遠くで何かがキラリと輝く。  

タヒトの目が鋭くなり、窓から身を乗り出し目を凝らす。目線のはるか先に、陽の光で輝く広大な麦畑を捉える。  
タヒトはカメラを握りニヤリと笑うと、窓枠に足をかけて上半身を乗り出す。

タヒト「御者さん!ごめん!急用ができた!!」
御者「はっ?え!タヒト様!お待ちください!」
タヒトは返事を待たずに馬車から飛び下り、くるりと受け身を取ると、麦畑の方へ駆け出していく。



2. 麦畑の中 昼前

風で揺れる広大な麦畑。  
首輪をつけた少年ルッカ(ホワイトブロンドの髪、前髪がだらりと長く顔が隠れている、日焼けした肌、無口で真面目そう)が、小麦の刈り取り作業をしている。動きは静かで丁寧だが、その背中には疲れが見える。  

滴る汗を手の甲でぬぐっていると、麦畑の先の民家から農夫が出てきて怒号を飛ばす。  
農夫「おいルッカ!まだ終わらんのか!正午までに片付けんと今日もメシ抜きだぞ!!」  
ルッカは一瞬不服そうな顔をするも、目を伏せ、声を発さないまま、黙々と作業を続ける。

シャッター音『カシャ カシャ』  

突然の聞き慣れない音に顔をあげるルッカ。
すると次は「いいね〜いいね〜!」っと興奮した声が聞こえてくる。ルッカは慌てて鎌を構えると、警戒しながら声のする方へ進む。

麦をかき分けたその先に、

麦穂に向かい夢中でカメラを構える青年タヒトの姿。彼の目はキラキラと輝いている。

タヒト「そうだな〜〜もう少し内から溢れるエネルギーが欲しいんだ!細胞から!!私だけを見て。ってできる?」  
陽の光が差し込み、麦穂がキラリと輝く。  
タヒト「そうだ!」  
シャッターを切る。  
タヒト「いいよ〜すごく綺麗だ!」  
カシャカシャと一本の麦穂を夢中で撮っている。

ルッカはその光景に呆気に取られていたが、視界の片隅に農夫の家が映り、我にかえりる。警戒しながらタヒトに声をかけようとする。しかし上手く声が出ない。しどろもどろし、遂には鎌をぶんぶんと振り回してみる。
タヒトは撮影に夢中で全く気がつかない。  

タヒト「おおお!!そんな表情もできるのか!じゃあこっちの角度からも撮ろう!」  
カメラを構えたままグルンと寝転び、またシャッターを切るタヒト。とても楽しそう。

ルッカは意を決し、カメラの前に顔を突っ込む。
ファインダーに、下を向きぎゅっと口をつぐんだルッカのアップが映る。
タヒト「おわぁああ!!!」  
タヒト「なんだよいきなり!いいところだったのに!!」  
驚いて飛び起き、顔を突き合わせて怒るタヒト。
ルッカは目を逸らし緊張した様子で突っ立っている。

タヒト「ん?、、、」  
何かに気づいて周りを見回すタヒト。
タヒト「しまった!またやっちまった!!」  
タヒトは「はぁ〜」と暫くうな垂れてから、ルッカの目線に合わせるようにしゃがみ込む。
タヒト「無礼な態度をとってすまなかった」  
ルッカの警戒した表情。
タヒト「だよな、、、いつもこうなんだ。撮ってるとつい夢中になって我を忘れちゃう」  

タヒトは一本の麦を掴み、ルッカにみせる。  
タヒト「ほら見てくれこの子。美しいだろ。麦畑で私が1番なの!風に乗ってどこまでも走り回れるの!って顔してる」  
トロンとした表情のタヒト。
ルッカは何を言っているのか分からないという困惑の表情。

農夫「おいルッカ!」  
農夫が家から出て近づいてくるのが見える。
ルッカは慌ててタヒトを畑の外へ押す。
タヒト「えっ、ちょっと!まだこの子について、、」  
ルッカの焦って少し怒った表情。
タヒト「わかった!わかったから!」  
畑の外れの小道へと押し出されていくタヒト。



3.物置小屋 夜

物置小屋の藁に小さく寝転んでいるルッカ。一本の麦を掴み、クルクル回しながら物思いにふけっている。お腹がぐ〜っとなる。

タヒト「おーいルッカ!おーい!」
外からタヒトの忍び声がする。
ルッカが物置小屋から顔を出すと、タヒトが駆け寄ってくる。
タヒト「また会えてよかった!」
ルッカは少し面倒くさそうな顔をする。
タヒト「そんな顔するなよ。これ一緒に食べたくて」
鞄の中からパンを次々と取り出す。

×××

ルッカがパンにかぶりついている。
タヒトも食べていたが、手を拭くと鞄から一枚の写真を取り出す。
タヒト「それからこれを見せたくて、急いで現像したんだ」

そこには《一本の麦穂の写真。一粒一粒が光を放ち、輪郭がはっきりとして濃淡のあるポートレートのよう。》

ルッカは驚いた表情を浮かべ、写真を見る目が微かに輝いている。
タヒトがニヤリとして、
タヒト「なっ、言っただろう?」

ルッカは写真から地面に落ちている麦穂に目をうつす。しかし麦穂はボロく黒ずんでいる。ルッカの表情から僅かな輝きが消える。


タヒト「じゃあルッカは何を“美しい”と思うんだ?」

タヒトがルッカを真っ直ぐに見つめて質問する。
タヒトの問いに戸惑い、目を逸らすルッカ。

暫くの沈黙。


突然、タヒトが勢いよく立ち上がる。

タヒト「やろう!!」
ルッカ「??」
タヒト「カメラ!」
タヒト「俺が教える!ルッカが撮りたいものを探せばいいんだ!ほら!!」
タヒトがカメラを突き出す。
タヒト「俺はタヒト。でこいつはkameleonD200」
ルッカは手を後ろに回しおどおどと小さな声で、
ルッカ「、、、ぼ、僕は奴隷だから」
タヒトはむすっとして、
タヒト「それだけは絶対にない!!」
そう言うと、藁をかき分けて地面に世界地図を描きはじめる。

タヒト「今ルッカがいる国がここ。俺が来たのはここ」(ルッカの国から左程遠くない場所を指さしている)
タヒト「芸術の都なんだ。絵描きも音楽家も写真家もみ〜んな自分の腕だけで勝負してる!身分なんて関係ないんだ」
タヒト「それに奴隷制度は中央政府が禁止してる。おかしいのはこの国のほうだよ」
ルッカ「、、、」

タヒトはルッカに向き直り、力強く語りかける。
タヒト「俺はルッカと一緒にやりたいと思った」
タヒト「この感覚を信じたい」

タヒト「なっ、一緒にやろう」

タヒトがルッカの手を取り、カメラを握らせる。
ルッカは戸惑いとほんの少し期待の混ざった眼差しでカメラをみつめている。



4.城下町 昼

賑わう城下町の中、2人が重そうな荷を抱えて歩いている。(ルッカの仕事を手伝っている)
ルッカの手にはカメラ。

タヒト「ほらこのリングが絞りで、このダイヤルがシャッタースピード。で、ピント合わせてシャッター押せば撮れる」
ルッカの混乱した表情。
タヒト「大丈夫!技術は後からついてくる!俺がいくらでもフォローするから!」
タヒト「ルッカは撮りたいものを全力で探せばいいんだ」
こくりと頷くルッカ。
タヒト「そうだな、、まずは絞りを5.6にしてシャッタースピード変えてやってみるか〜明るいと大きく!暗いと小さく!」
ルッカの表情がさらに混乱している。

令嬢「ちょっと!端にどいてくださる?臭くてかなわないわ〜」 
2人の横を嫌味ったらしく扇子を仰ぎながら着飾った令嬢が通りすぎる。
優雅で自信に溢れた歩き姿。
街娘たちは「今日もお美しいです〜」と囃し立てている。

タヒト「はぁなんとも”お美しい”こと」

ルッカはそのお囃子をただ見つめていたが、急に思い立ったように、令嬢の方へカメラを構えファインダーを覗き始める。
絶望の表情でカメラを遮るタヒト。
タヒト「ちがうちがうちがーう!」
タヒト「ぜんぜんちがーう!!」

タヒト「はっ?!本当に”アレ”が美しいと思ったのか?!」
馬鹿にしたような物言いに、ルッカはむすっとして勢いよく頷く。
タヒト「本当に?」
頷くルッカ。
タヒト「心の底から?」
ルッカ「、、、」
タヒト「溢れでんばかりの気持ちで?」
詰め寄るタヒトに、ルッカは首を傾げてしまう。
タヒト「じゃあダメだ!自分が本当に撮りたいと思うもの以外絶対に撮っちゃダメだ!!」

ルッカ「、、なんで?」
タヒト「なんでって、、うーん」
タヒト「うーん、うーん」
頭を抱えるタヒト。
タヒト「そう!」
タヒト「死ぬんだ!!」
ルッカ「、、、」
タヒト「シャッターボタン押した瞬間に心臓がバーン!だ!わかったな?!」
力強く言い放つと先に行ってしまうタヒト。
ルッカ「、、、」
納得できないまま、後についていくルッカ。


5.麦畑 夕方

麦畑で一人作業するルッカ。ひと段落終えると周りを注意深く確認し、カメラを取り出す。ファインダーを覗き、麦畑や麦穂にピントを合わせてみる。しかしすぐにカメラをダランと下ろす。

その時、麦畑の端に警備兵がやってくる。
警備兵「おーいそこのお前!」
ルッカが振り向くと、警備兵がズンズンと近づいてきて手に持つ新聞を見せる。
警備兵「この辺りで写真のお方を見かけなかったか?」
ルッカは目を見開き動揺する。

新聞には、カメラを構えるタヒトの写真と《国賓の写真家が行方不明》の文字。

ルッカは勢いよく首を横に振ると、そっとカメラを背後に隠そうとする。
警備兵「おい、それはなんだ!?」
警備兵が強引にカメラを奪い取り、新聞の写真と見比べ始める。



6.城下町の路地裏 夕方

路地裏でタヒトが男(坊ちゃんスタイルで軽快な雰囲気)と話している。

男「そろそろ撮影行ってもらわないと困りますよ〜」
タヒト「はぁ、、わかった。今夜登城するよ。うちのチームは2人だ。応麟に伝えといてくれ」
男「2人ってタヒトさん!久々にアシスタント雇ったんですか?」
タヒト「いや、アシスタントじゃない」
男「というと?」
タヒト「相棒」
男「へー!じゃあ相当カメラの腕が立つんですね」
タヒト「いやぜんぜん」
男は「はぁ」と首を傾げる。

タヒト「優しいやつなんだ。俺とは違った目で世界をみてる。これからきっといい写真をいっぱい撮るよ」
楽しげに微笑むタヒト。


7. 麦畑 民家前 夜

民家の前に、警備兵と農夫、農夫に首輪を掴まれたルッカがいる。

農夫「この盗っ人め!おいてやってることに感謝もせずに。死んだ母親にそっくりだな」
ルッカは悔しそうに地面を睨みつけている。
警備兵「恐らくこのカメラは国王陛下がお探しのタヒト殿のものだ」
警備兵「おい!どこで盗んだか白状しろ!」
ルッカ「、、、」

警備兵「そうかわかった」
警備兵は持っていたカメラを地面に置くと、代わりに大きな石を掴む。ルッカの手を引き、石塀に乗せると、石を振りおろそうとする。
警備兵「白状しないならまずはこの手からだ!」

タヒト「おい何してる!!!」
突然、タヒトがすごい剣幕で走ってくる。

農夫は驚いた顔で新聞と見比べる。
農夫「、、そっくりだ」
警備兵「タ、タヒト殿ですか?!」
タヒトの怒った表情。
タヒト「ああ」
警備兵「大変探しましたよ。国王陛下がお待ちです。いますぐ城へ向かいましょう」
タヒト「そんなことより、今何をしようとしてたか聞いてるんだ」
警備兵「、、ああ!この奴隷があなた様の大事な物を盗んだので戒めなくてはと」

タヒト「そんなことしたらシャッターが押せなくなるだろう」
警備兵「はぁ、、」
ルッカが諦めたように口を開く。
ルッカ「もういいんだ、、、僕は奴隷だから」

タヒトが突然鼻で笑う。
ルッカ「な、何で笑うんだ!」
タヒト「都合のいいご身分だな。羨ましいよ、まったく」
ルッカ「っ!?」
タヒト「撮れないからって簡単に諦めるなよ」
ルッカ「そ、そんなんじゃ!!」

農夫がタヒトにすり寄ってくる。
農夫「え〜あなた様の大事なカメラ?を見つけたのは私です。良ければ報奨金の方を、、うちの奴隷もお気に入りでしたら3万、、」
タヒト「黙れ!」
農夫「ひいっ!」
タヒトの剣幕に飛び退いて地面に首を垂れる。

タヒト「 ああそうか、、”これ”がなかなか外れないんだな」
タヒトは侮辱の眼差しを農夫に向けている。
懐から巾着を取り出すと農夫の足元に投げ捨てる。中からジャラジャラと金貨が散り、必死に拾い集める農夫。

立ちすくんでいるルッカ。
タヒトは地面のカメラを拾い優しく土埃を払うと、石塀を出て城へ向かいはじめる。
振り向かず前を向いたまま、ルッカに問う。
タヒト「ほら、外したぞ」
タヒト「行かないのか?」

タヒトの背中をみつめるルッカ。口をぎゅっと縛りゆっくりと一歩踏み出し、後を追う。


8. 王城 王の間 夜

贅を尽くした王の間に通されるタヒトとルッカ。タヒトの後ろを緊張の面持ちでついて歩くルッカ。

鞭打ち音「パシン!」
女性奴隷「ひいっ!」
国王「こらっ、動くんじゃない!お前達は人形だと何度言えば分かるんだ。人形がメシを食うか?用を足すのか?!わきまえろ!」

国王(小太りで趣味の悪そう)が王座から、着飾った女性奴隷達に罵声を浴びせている。鞭打ちで涙を流す奴隷の顔をつかむと、無理やり笑顔を作らせる。
国王「ほら、笑え!美しい笑顔を見せろ!」
奴隷たちは怯え、涙を流しながら笑っている。

ルッカの顔が歪む。

国王はタヒトに気づくと、奴隷を突き飛ばし、笑顔に一変する。
国王「おおお!よくぞ来てくれた!道中で行方知れずとなったと聞いて心配していたのだぞ!」
タヒト「ご心配をおかけしました」
国王「噂は聞き及んでいる。なんでも、美しいものしか撮らないそうじゃないか」
国王「アストラ・メテ王女の戴冠式での写真!大変見事であったぞ!アストラの軍隊も快進撃を続けているそうだ」
国王「君に肖像写真を撮ってもらうと幸運の女神が舞い降りると王族の間でもっぱらの噂だよ」
タヒト「恐れ多いです」

国王がルッカの存在に気づき、怪訝な顔をする。
国王「なんだその者は?」
表情が固まるルッカ。
タヒトはひょうひょうとして、
タヒト「彼もカメラマンです。僕なんかよりずっと優秀なんですよ」
ルッカはびっくりしてタヒトを見るが、タヒトは真っ直ぐ前を向いている。
国王「ふむ、、まぁこの際どうでもよい!さぁさぁ今すぐこの私を撮ってくれ!」
タヒト「、、、」

タヒトがゆっくり前へ歩み出る。
タヒト「せっかくお招きにあずかり申し訳ないのですが、、、お断りします」
国王「ん?」
ルッカも驚きタヒトを見る。
タヒト「ですから、お断りします」
国王「いっ、、いったいどういう意味かわかって言っているのか?」
タヒト「ええもちろん」
タヒト「だって嫌なんですよ」
国王は驚きと怒りで整理ができていない顔。
タヒト「僕は撮りたいものしか撮らないんです」
国王「この私を撮りたくないと言っているのか??」
タヒトはにっこりと笑って、
タヒト「ええ、死んでも」
タヒト「だって貴方は美しくない」

国王の顔が真っ赤になり、拳を握り締める。
国王「ここここの無礼者!!打首だ打首!今すぐこの男を打首にしろ!!」
側近が慌てて国王に耳打ちする。
側近「ですが国王様。彼は芸術の都モネロスの国賓です。それに世界新聞社とも繋がりがあるとの噂、さすがに打首はまずいかと」
国王「ええい!では鞭を打て!!首を垂れて血の涙を流して謝るまでは許すな!!」
国王「ほら何してる!今すぐ刑を執行しろ!」

近衛兵がタヒトを取り押さえると、鞭を振り上げ打ちつける。
タヒトは真っ直ぐ前を見たままびくともしない。
立て続けに鞭打ちが始まる。

満足げに見下ろす国王。
国王「いい眺めだ。この方がよほど芸術といえる」
鞭打ちでタヒトの髪がほどけ、長い髪がたれる。
国王「、、ほぉよく見ると綺麗な顔をしているじゃないか」
国王「よいよい、もっとやれ」

何度もタヒトに鞭が打たれる様子に、ガクガクと震えが止まらないルッカ。耐えきれず駆け寄る。
ルッカ「い、いったいどうしたんだよ!」
タヒトが守るように抱えているカメラを握り、タヒトの目の前に掲げる。
ルッカ「ただシャッターを押すだけだろ!」
タヒトから返事はない。ただ、揺るぎない視線で前を見据えている。

ルッカの心臓が《ドクンドクンドクン》と波打つ。

近衛兵「こら、どくんだ!鞭打ちができないだろう」
ルッカは反射的にタヒトを守るように抱きつく。

国王「おいそこのお前!」
ルッカはびくっとして国王の方を振り向く。
国王「そうだお前だ」
国王「ほらこっちへ来い。お前が撮ってみろ」

ルッカ「えっあっ、、どうしよう」
タヒトを見上げるが、返事はない。
変わらずただ真っ直ぐ前を見つめている。

ルッカの心臓が先ほどより強く波打つ
《ドクンドクン》

国王「そうだな、、お前が私の満足する写真を撮れればそいつの刑は取り消してやろう」
国王「ほら早く!」
ルッカはガクガク震えていたが、決心したようにタヒトの手からカメラを取ると、王座へ向かう。
国王「よしよし、お前の方が優秀なカメラマンというのは本当のようだ」

物凄く緊迫した表情で、王座へ歩を進めるルッカ。

大きく高鳴る心臓の音《ドクンドクンドクン》

ルッカ「絞り5.6、、シャッタースピード60、250、125、、、」

心臓の音が張り裂けるぐらい大きくなる《ドクンドクンドクン》

突然、ふっとにやけるルッカ。

ルッカは驚いて立ち止まる。自分の顔をペタペタ確認するが、やはりにやけている。

ルッカ(えっ??)

握りしめたカメラを見るルッカ。
カメラがなんとなく輝いてみえる。

ルッカ(、、僕、まさかワクワクしてる?)

タヒトの言葉が頭に浮かぶ。
タヒト『ルッカは撮りたいものを全力で探せばいいんだ』

ルッカ(僕が撮りたいもの、、)

ルッカ(国王様?)

ルッカ(ちがう!あんなの全然撮りたくない!)

タヒトの鋭い真っ直ぐな視線を感じる。
ルッカは、はっと後ろを振り返る。
タヒトが意識を飛ばしながらも、真っ直ぐにこちらを見ている。

《タヒトとルッカが向き合ってきたこれまでのシーンのフラッシュバック》

タヒトの瞳のアップ。さらにアップ。さらにクローズアップ。

心臓が最高潮に高鳴る《ドクン》

ルッカが目を見開く!
ルッカ「撮らないと!!」
カメラを握りしめタヒト目掛けて駆け出す。

国王「おい、どこへ行く!下賤を逃すな!」

近衛兵が束で来るが、上手く交わす。とにかく無我夢中に駆け抜けるルッカ。手元は素早く絞りとシャッタースピードを合わせている。覆い被さってくる兵を、スライディングで避け、そのまま地面に伏せる。タヒトにカメラを構え、ピントを合わせて思いっきりシャッターを押す!

『カシャ』

時が止まったような沈黙。

ルッカがカメラからぽかーんと顔をあげる。

ルッカ「、、、」

ルッカ「とっ撮れた!撮れた!!撮れたーーーー!!!」

タヒトに駆け寄り肩を揺するルッカ。
ルッカ「タヒト!撮れた!撮れた!」
はっと目が覚めるタヒト。
タヒト「おわー!痛い!痛い!痛い!」 
ルッカ「あっごめんなさい!」
タヒト「いってて完全に意識飛んでた、、あれ今どんな状況?」
カメラを握り嬉しそうなルッカに気がつく。

タヒト「もしかして何か撮れたのか?!」
ルッカがこくりと頷く。
タヒト「うぉおおーー!やったな!やった!、、ん?でもここでいったい何を撮ったんだ?!」
ルッカは口を閉ざしてニコッと笑う。
タヒト「え〜!それは教えてくれたっていいだろ〜〜」

国王が怒りを爆発させる。
国王「もーーういい!こやつらを今すぐ打首にしろ!」
タヒト「げっかなりやばい状況じゃないか」

その時、王の間に慌てた兵士が入ってくる。
兵士「国王様大変です!世界新聞社を名乗る者たちが城壁を突破しこちらに向かっています」
国王「せ、世界新聞社だと?!」

タヒトは肩の荷が下りたように呟く。
タヒト「あっぶな〜やっとお出ましだ」

国王「た、たかが新聞社がなんだ!追い返せ!!」
兵士「そっそれが」

大扉がバタンと開き、武器を持った強面の傭兵達が押し寄せる。
その後ろから、女性カメラマン応麟(赤髪ロングの長身でスタイル抜群)と照明師(ストロボを抱えむすっとした大男)とライター(裏路地でタヒトと話していた男)の3人組が入ってくる。

応麟「あーひゃっひゃっ!こりゃスクープスクープ!この国まだ奴隷がいるぞ!」
応麟「いーけないんだ!いけないんだ!禁止されてるのにいけないんだー」
凄く嬉しそうな応麟、照明師とすいすいっと奴隷達のところへ行く。
応麟「お嬢様方ちょいとごめんね〜でも大丈夫よ。10日もあれば自由にしてあげれる。だから、憎しみを込めた表情こちらにくださいな〜」
と撮りはじめる。

国王「やめろ!やめろ!撮るんじゃない!ここはわしの国だ!中央政府が何と言おうが、この国ではわしが奴隷を認めておるのだ!!」
ライターの男がメモを取りながら、
男「ふむふむ、わかりました。では、そのように書かせていただきます」
怒れる国王。
国王「こっの〜!早くこやつらを取り押さえろ!」
命令を下すが傭兵達の相手で手いっぱい。
国王「他の兵はどうした?!」
側近「アストラ軍が国境付近に集結したとの一報を受け出払っております」
国王「ええい!なぜこんな時に!」

応麟がタヒトに気づきひょいっとやってくる。
応麟「おー誰かと思えば!タヒト大先生じゃないですか!この度は大仕事を恵んでくださりありがとうございます!って言うと思ったかクソボケ!はぁ〜〜あんたの我儘さえなけりゃ!こっちはこんなに大きく動く必要なかったんだ!」
応麟「で、結局肖像写真は?」
タヒト「撮ってない」
応麟「ほ〜らみろ!」
タヒト「会ってみないとわからないだろ」
応麟「嘘だね!どこの奴隷やってる王があんたの美学にハマるんだよ!」
タヒト「まぁまぁ。そっちのネタは金になるだろ」
タヒトの言葉に目をキラッキラさせる応麟。
応麟「そう金!このスクープは莫大な金になる!!くんくんくん〜はぁ〜なんて美味な金のフレグランス」
幸せそうな応麟。

タヒトは「痛てて」と立ち上がると、
タヒト「戦力外はお先においとまするよ。いこうルッカ」
ルッカ「えっあ!うん」
応麟「はぁ〜この借りは絶対”コレ”で返せよ」
応麟が指で金のマークをつくっている。
ヒラヒラと手を振り出口へ向かうタヒト。
ルッカは応麟達にぺこりと頭をさげ後を追う。

肩を支え合い”並んで”歩く2人の後ろ姿。
応麟「ほほ〜あの子が噂の」

国王「ま待たんかーー!」
諦め悪く出てくる国王。
応麟がすかさず視界に割って入る。
応麟「撮るもんは撮った!あたしらもさっさと撤収するよ!無駄な血は一滴も流すんじゃないよー!」
士気高揚する傭兵達。




9. 城下町を見渡せる小高い丘 昼

一羽の伝書鷹が筒を持ち、空を飛んでいる。

小高い丘で、新聞を広げている2人。

タヒト「え〜なになに、掘れば掘るほど違法国家、急がれる奴隷解放。だとよ」
タヒト「これであの趣味悪ジジイもお終いだな〜」
タヒトは興味なさげに新聞を放り投げると、
タヒト「それよりも!」
ルッカが手に持つ筒に顔を近づける。
ルッカ「待って!僕から見るから!」
タヒトには見えないようにして、筒から写真を取り出すルッカ。

期待に満ちた表情。
しかし、みるみる不満げに変わる。

ルッカ「、、、」

タヒト「見ていいか?」
横から写真を覗き込むタヒト、驚く。

タヒト「なんだよルッカ!俺を撮ったのか!ははっ被写体になったのははじめてだ!」

《ルッカの撮った写真、傷だらけで半目のタヒト、画面も暗くピントもブレブレ》

ルッカ「もっといい感じに撮れてるはずだったんだ」
ルッカ「全然違って見えたのに、、」
ルッカは肩を落として写真を見ている。

タヒト「俺は好きだけど」
その言葉に驚き、顔をあげるルッカ。

タヒトが空を仰ぐ。
タヒト「自分の見たイメージを写真に写すって結構難しいんだ。初めから簡単にできたらカメラマンなんていらないよ」

暫くの穏やかな沈黙。
丘に気持ちの良い風が吹いている。

タヒト「やるか?カメラ」
タヒトがニヤッとルッカの方をみて問う。

ルッカは決心した面持ちで立ち上がると、タヒトを真っ直ぐに見つめる。

ルッカ「タヒト、、僕にカメラを教えてください」

タヒト「もちろん」

ルッカは嬉しさと照れくささ、未来への希望に満ちた表情で、頭をさげる。

ルッカ「よろしくお願いします!」

タヒトは伸びをして立ち上がる。
タヒト「さ〜てと!今から忙しくなるぞ!まずはカメラを新調しに我らが都モネロスへ向かう!、、厳しい入国審査があるんだが、まっなんとかなるか、、じゃっ!」

ルッカ「あっ!」

タヒトが勢いよく丘を駆け下りる。ルッカは慌てて後を追う。気がつくとタヒトを追い越している。



麦畑が手を振るように風で揺れている。
1枚の写真が風で舞い上がる。

《2人が出会った麦畑。ルッカが優しい顔で麦の世話をしている》


第二話


第三話


作者よりメッセージ

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