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『マルタイの女』 今更レビュー|伊丹監督を偲ぶ午後十三時の映画祭⑩

映画監督としては遅咲きながら、『お葬式』の鮮烈デビューから『マルサの女』シリーズ等へと続き10本の優れたエンタメ作品を世に出し続けてきた伊丹十三監督。その発想から演出まで何もかもが新鮮に感じられ、楽しく、そして洒脱だった。

伊丹監督が早逝してから、もう30年近くになる。今の日本社会をみて監督だったら何を題材にしてどのように料理するのか、つい思いを巡らせてしまう。

そんな伊丹十三監督作品を、一気通貫に今更レビューしてみたい。(このページはAmazonアソシエイトの広告を含みます)

『マルタイの女』 

公開:1997 年  監督:伊丹十三
時間:131分  製作国:日本
勝手に評点:★★★☆☆3.0

©1997 伊丹プロダクション

伊丹十三監督の『〇〇〇の女』シリーズのラストを飾る、というよりも、本作公開後に監督は帰らぬひととなってしまったため、遺作となった作品。

<マルタイ>とは、捜査対象者や警護対象者を指す警察用語。被害者を<マルガイ>というのと同類だ。

冒頭は女王のように周囲に指示や文句をとばすベテラン女優の磯野ビワコ(宮本信子)による、出産シーンの稽古。「出産は女の花道だ。だから痛いとは言わないよ!」宮本信子が演じる主人公は、今回も威勢よく啖呵を切る。

©1997 伊丹プロダクション

ビワコが夜に野外で早口言葉の練習をしていると、弁護士の家に宅配便を装った男が現れ、妻を殺し、追ってきた夫も路上で返り討ちにする。

その殺人現場を目撃してしまったことで、ビワコはマスコミに囲まれ、調子に乗って雄弁に語り出す。犯人の大木(高橋和也)はカルト教団「真理の羊」の信者で、敵対する弁護士をねらったのだ。

結果、教団は口封じのためにビワコをねらうようになり、警察は彼女を<マルタイ>に二人の刑事を張り付ける。

ケヴィン・コスナーか岡田准一かというこのポジションにつくのは、立花刑事(西村まさ彦)と近松刑事(村田雄浩)という異色コンビ。この人選が伊丹映画らしい。

©1997 伊丹プロダクション

伊丹監督は、ヒット作『お葬式』も妻である宮本信子の亡父の葬儀からの着想だし、それで法外な税金を持ってかれたことで、転んでもタダでは起きず『マルサの女』を撮る。

そして本作は、『ミンボーの女』で暴力団に襲撃された伊丹監督自身が<マルタイ>になった経験から生まれた。不屈の監督魂といえる。

常に社会問題をエンタメ路線でアレンジしてきた『○○○の女』シリーズの中では、他作品とは一線を画す。

まず、シリアスな殺人事件が描かれている。これはシリーズでは前例がないのではないか。

コメディタッチをしっかりと残しつつも、泣き落としで犯人(高橋和也)を自白させたり、教団顧問の二本松弁護士(江守徹)が不倫ネタで恐喝しビワコを証言台に立たせないよう迫ったりと、社会派ドラマとして成立させているところはうまい。

主人公ビワコを演じる宮本信子は常に伊丹作品の主演であり、まして本作の役柄は女優役ということもあって、何をやってもビワコに見える本物感。クレオパトラのような衣装にフェイクの生乳(必然性あるか?)で、何の違和感もないのはさすがだ。

これまでの『○○○の女』のように仕事に一途の清廉潔白・猪突猛進とはちょっと違い、女優業では女王様気取りで不倫に溺れる女で、証人台に立つかどうかで、終盤に心揺らぐ。

©1997 伊丹プロダクション

立花刑事役の西村まさ彦は、すでに『古畑任三郎』の今泉役で人気を博しており、何をやっても笑いが取れる。

無口な堅物だったが、ビワコの質問攻めで、元不良が刑事になった半生を語り出す。映画など『ウェストサイド物語』以来観たことがない男が、護衛のために民族衣装でステージに出る羽目になる。アイラインを入れて槍を振り回してビワコを守る立花刑事が、頼もしいやらおかしいやら。

立花の相方の近松刑事(村田雄浩)はビワコのファンで文化・芸術にうるさく、二階を見上げ監視し続けて腰を痛める自分たちを天井画のミケランジェロに例え、フィレンツェに思いを馳せる変わり者。

©1997 伊丹プロダクション

その他刑事で活躍するのは、管理官役の名古屋章。これはもう、見るからにたたき上げの刑事。彼のおかげで、犯人の大木(高橋和也)は自供を始める。

そして、その大木が地方のカラオケ店で「大都会」を熱唱しているところを逮捕したのが、田舎警察の太った刑事(伊集院光)。『スーパーの女』の従業員だった伊集院が、本作ではずっこけながらも大活躍。

ビワコに証人喚問のリハーサルをしてくれる検事役に益岡徹。『マルサの女2』では宮本信子に仕える東大出の新米キャリア官僚。今回は検事と、順調にキャリアを歩む。

意外なところでは、執拗にビワコをつけ狙う教団の信者二人組に山本太郎と木下ほうか。どちらも今のキャリアとはギャップが大きい役どころ。山本太郎は今や政治家として活躍し、木下ほうかは別な意味で世間を賑わせた。

©1997 伊丹プロダクション

そして今回最大の大物ゲストは、教団顧問の二本松弁護士役の江守徹。いかにも悪役を楽しんで演じている風。実質的に、教団の中心人物として動いているのはこの男に見える。

「証人台に立つことで我々に不倫騒動をリークされて女優人生を棒にすることはない。そもそも証人になるなんて、何の得もないじゃないか」

そう言いよって、ビワコの懐柔を試みる。

そのビワコの不倫相手というのが、テレビ局の編成局長役の津川雅彦。本作での出番はけして多くはないが、不倫が明るみに出ても証言台に立とうと決意するビワコに理解を示すところは器が大きい。

「脅かされた男が引き出しの中に手を伸ばしたら何が出てくるか、キミたちは映画を観ないのか」

一連の伊丹作品の彼の演じた役の中では、いちばん男らしいかも(『あげまん』の銀行マンが最低かな)。

『スーパーの女』のデコトラ・カーチェイスで味をしめたか、本作では更にレベルアップしたバイクチェイスが登場する。伊丹作品に必要かの議論は置いておこう。スタントなのはミエミエだが、まあ楽しめる。

はたしてビワコが脅かしに屈するのかどうか。「これは私の花道よ。絶対に怖いとは言わないわ」 そう、本作は証言台に上がるまでの映画なのだ。

©1997 伊丹プロダクション

ビワコが日の当たる裁判所の階段を上がるラスト。ここを希望のあるシーンにするために、監督はNTT幕張ビルの野外の階段を借りてそこに円柱のセットを置いたらしい。

円柱の人影が目立ってしまったが、柱の上に建物がないことに気づかれたら、我々の負けだ。そう監督は語っている。私は影には気づいたが、セットとまでは思い至らなかった。

「年寄りには二種類ある。いつまでも長生きしたいヤツと、いつ死んでもいいと思ってるヤツ」

そう言って、拳銃を教団の暴漢にぶっ放す津川雅彦。これが、伊丹十三監督が遺作に書いた台詞になるとは。はたして、監督は自死を選んだのか、真相は別にあるのか。私には知る由もないが、伊丹監督の作品群が後世に語り継がれることを願ってやまない。

お葬式(1984)
タンポポ(1985)
マルサの女(1987)
マルサの女2(1988)
あげまん(1990)
ミンボーの女(1992)
大病人(1993)
静かな生活(1995)
スーパーの女(1996)
マルタイの女(1997)

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