チェンドルはかき氷の様で飲み物らしい@ペナン マレーシア | CMFデザイナーの食観察記
工業製品のCMFデザイナーを生業としている私。
2025年8月、私はマレーシアのペナンに3週間滞在していた。
ペナンにはジョージタウンという世界遺産エリアがある。帰国前、この周辺に滞在しながら街歩きを楽しんでいたのだが、8月の暑さはなかなか手強い。
観光の途中、暑さに負けて店へ駆け込み、涼を取ることにした。
チェンドルだ。
初めて屋台で見かけた時の感想は正直に言うと、「豆たっぷり&緑のにょろにょろ」だった。
かき氷の上に乗っている緑色の麺のようなもの。見た目だけなら、あまり美味しそうには見えない。
チェンドルはマレーシアを代表するデザートのひとつで、かき氷の上にココナッツミルク、グラマラカ(ヤシ糖のシロップ)、小豆、そして緑色のチェンドルが乗っている。
チェンドル自体は米粉や緑豆粉を原料とし、パンダンリーフで色と香りを付けたゼリー状の食べ物だ。
私がチェンドルを食べたのはニョニャ料理の店だった。
ニョニャ料理とは、15世紀頃からマレー半島に移り住んだ中国系移民と現地マレー人との交流から生まれた「プラナカン文化」の料理である。
中国料理の技法に、ココナッツミルクやパンダンリーフ、タマリンドなど東南アジアの香りや食材が融合した独特の食文化だ。
私がペナンで食べたチェンドルも、その文化の延長線上にある。
店内にはしっかりとした椅子とテーブルが並び、ゆったりとくつろげる空間が広がっていた。避暑のために注文したチェンドルも、どこか洗練された印象だった。

最初はかき氷だと思っていた。
でも食べ進めるうちに気づいた。
このデザートの主役は氷ではない。
むしろ氷は脇役だ。
日本のかき氷は氷の食感や口溶けが重要になる。
一方チェンドルは、氷が溶けてからが本番だった。ココナッツミルクとグラマラカが混ざり合い、少しずつ粘度が変わる。そこへパンダンリーフの香りが重なり、味の印象も変化していく。
現地の人たちは氷を味わうというより、全体を混ぜて飲むように食べるらしい。興味のある方は、ぜひ屋台のチェンドルも調べてみてほしい。私が食べたおしゃれなチェンドルとはまた違った表情を見せてくれるはずだ。
素朴で、一般的にはあまり映えるとは思われていないものを、美しく見せる。これもまた技術であり、センスなのだと思う。
CMFデザインでも同じことがある。
見た目が主役だと思われがちだが、本当に印象を決めるのは触感だったり、音だったり、操作した時の抵抗感だったりする。そして何より、時間をかけて使う中でどのように変化するかも含めて設計している。
ユーザーが価値を感じるポイントは、意外と目に見える部分だけではない。
チェンドルも同じだった。
鮮やかな緑色や美しく整えられた見た目に目を奪われるが、本質は香りや食感、そして時間とともに変化する体験にある。
食べ進めるほど味が完成していくのだ。
デザインの世界では、見た瞬間の魅力を追いかけることが多い。しかし本当に記憶に残る体験は、その先にあるのかもしれない。
ペナンの暑い午後。
多文化の融合が生み出したこの食べ物は、氷が溶けるほどに表情を変えていく。
中国とマレー。
伝統と現代。
見た目と体験。
屋台とおしゃれ。
一見すると別々のものが、違和感なくひとつになっている。
チェンドルを食べ終えた頃には、涼しさだけでなく、ペナンという街の魅力も少し理解できた気がした。
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