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「それは“通報”ではなかった」─【ストーカー被害と110番の誤解①】

ストーカー加害者が家の前に現れ、ドアを叩いていた。
被害者は何度も警察に「電話」していた。
けれど、それは“通報”として警察に認識されなかった。

川崎ストーカー事件では、9回の通報の記録があったと言われています。
では、なぜ警察は「認知していない」と言ったのか?

本稿では、“通報”という言葉に潜む、警察と市民の意識のズレについて紐解いていきます。

以前のコラムで、先日起きてしまった川崎ストーカー殺人事件について触れるともに、ストーカー被害に発展してしまわないようするには、また、被害に遭ってしまったらどのようなことに気を付ければ良いのかご紹介しました。

https://note.com/coffy_agent/n/n4d68d764cb23

 https://note.com/coffy_agent/n/n002375270357

今回は、前回の続編という形で、前回ご紹介できなかった、ストーカー被害に遭ってしまったらどのような対策を講じれば良いのか、特に110番通報について、その具体的理由も含めた説明をしたいと思います。

また、川崎ストーカー殺人事件の報道を受け、その事件捜査における警察の問題点や、私たち一般市民が知っておくべきことなどについて考察していきます。

前回のコラムをまだご覧になっていない方は、そちらも併せて是非お読みになってみて下さい。


〇通報の意味

・川崎ストーカー事件に見るボタンの掛け違い

神奈川県川崎市において発生したストーカー殺人事件の報道を見てみると、被害者の女性が行方不明になる前に、9回に渡って警察に通報しているにも関わらず警察が適切な対応をしなかったと報じています。

私はこの報道を受け、被害者の女性が110番通報をしたにも関わらず、臨場した警察官が適切に対応しなかった、また、臨場すらしなかったものと思っていたのですが、次第に当時の状況が明らかになるにつれ、どうもそうではないことに気が付きました。

報道内容を見てみますと、被害者の女性が警察に通報したとするものには、所轄の警察署に直接電話をして、被害相談を担当した刑事と直接話したい旨申し出ていた、ということもあったようです。

9回のうち何回がしっかりと担当刑事に要件を伝えることができたのか、何回が電話交換台で対応するだけで終わったのか、詳しい状況を報じるニュースはありませんが、一般の方から見れば、警察署に電話を掛けたことを「通報した」と報道して、一体それのどこが間違っていると言うのだ?と疑問に思うことでしょう。

その表現は決して間違いではありませんが、この事件では、まずここで一つ、被害者と警察の間でボタンの掛け違いが生じています。
と言うのは、私たち一般市民と警察が捉えるそれぞれの「通報」という概念には、少なからず乖離が見られるということです。

・それは通報ではないのか?

警察署に電話を掛けると、まず電話交換台に繋がります。
そこに座っているのは、時間帯にもよりますが、単にシフトが回って来て電話交換業務についている、そして事件の内容を何も知らない、交通課や警務課や公安課など他部門の警察官だったり、または定年退職しすでに現場をリタイヤした再雇用の職員であったりと、そもそも普段から刑事事件捜査にあまり携わることのない、他の業務を専門としている警察官である場合があります。

そんな電話交換台の、いわば「シフト制電話番」が、「〇〇課の〇〇刑事さんいますか?」との電話を受けたとき、その所属に確認を取ったところ〇〇刑事がいなければ、「今外に出ているそうです。」「今日は休みだそうです。」などと回答するのは、警察にとって見れば、「通報」に当たらない、極々普通の、小さな日常の業務の一つであるということになるでしょう。

それに加えて、そういった事情を良く知らない通報者が更に踏み込んだ対応を求めずに、「それじゃ仕方ないな。」と言って電話を打ち切ってしまったとしたら、ここで、通報と捉えなかった警察と、何度も電話したのに何もしてもらえなかったと感じた通報者の間で、見事なボタンの掛け違いが起きてしまいます。

とは言え、知り合いの刑事に対して単に電話をかけただけでも、その内容によっては警察側でもそれを「通報」と捉え、そこから事件が発覚し検挙に至ったなどと言う場合は、捜査報告書には「被害者からの通報により本件被疑事件を認知するに至り捜査を開始することとした。」などと書くことも当然あります。私もそのような形で事件化を図ったことは何度もあります。

つまり、警察署に電話をして知り合いの刑事に情報を提供しただけの場合でも、内容やその後の取り扱いによっては、十分「通報」となり得ると言うことです。

このように、ここでの問題点は、警察への電話を一つとってもその定義が曖昧で、「通報」となるかどうかはケースバイケースであるということです。
これは、川崎ストーカー事件の報道にあるように、警察の発表が「ストーカー被害として認知していない。」と言うどこかすっきりしない表現にとどまり、はっきりと「通報は受理していない。」と言わない一つの理由でもあります。

・それじゃあ、通報ってなんなの?

それでは警察から見た明らかな「通報」とは何を指すのでしょうか?
警察官が一般的に捉える「通報」、それは110番通報です。

・110番通報をするとどうなるのか?

その通報は各都道府県警察の通信指令センターに繋がり、そこで電話を受けるのは、署の交換台に持ち回りで座る職員と違って、110番通報の受理を特別に訓練された専門の警察官です。

彼らは高度な聞き取り技術を持ち、またその指令を即座に、的確に現場の警察官に伝える高度な無線通話技術を身につけています。
更に、そこには常に、110番通報の内容を把握し重大事件と発展するおそれがあるような場合には、その後の初動捜査を全面的に指揮する最高責任者「通信指令官」がいて、警視庁の場合その階級は「警視」です。

そして、いざ110番通報があると、彼らはあらゆるシステムを駆使して通報者の位置を割り出し、データベースを基に瞬時にその人が何の事件の被害者でどこの警察署に届け出ているのか把握し、そしてGPS情報を基に現場に最も近い警察官を急行させ、また犯人の逃走方向に先回りさせ、近い駅に警察官を配置し犯人の逃走を防ぐなど、あらゆる初動捜査を現場に指令します。
そんな彼らは、言わば事件発生の初動捜査を指揮するスペシャリストなのです。

そんなスペシャリスト達が待ち構えている110番ですが、もしここでストーカー被害の通報を受理しておきながら、後に重大事件に発展してしまったとしたら、いくらなんでも「警察で認知していない。」などと説明するのは無理があると、ここまで読んで下さった方なら気が付くと思います。

通報の受理に誤りはなかったのか、警察官の臨場には何分かかったのか、初動捜査の指揮に不備はなかったのか、署轄での初動捜査はどうだったのか、どうして被害者・被疑者を確保できなかったのか、などなど、警察の行動に不備が認められた場合、その検証範囲はいち警察署にとどまることなく、ましてや担当刑事個人の問題などでは決してなく、それは警察組織全体に及ぶものであり、正にそれを防ぐために、そして何より被害者を救済し事件を早期解決に導くために、ありとあらゆるシステムを構築して事件通報に万全を期す努力を、日々警察はしているのです。

このように、仮にストーカー被害に遭った、例えば川崎ストーカー事件のように、容疑者が自宅まで来ているとか、ましてや自宅ドアをドンドン叩いているなどと言う状況であれば、これこそ正に110番通報で対応すべき状況で、一切躊躇することなくすぐに110番通報して下さい。

そのような状況を受理した通信指令センターのスペシャリスト達は、間違いなく「緊急配備」を発令し、一分一秒でも早く制服警察官を現場に派遣するよう指令するでしょう。

次回に続きます。

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