現場の声をカタチに ─ 私の技術者人生を変えた工場移転プロジェクト(3)
第三章(逃げ出してしまいたい)
3.1 設計から製作へ:じりじりとした緊張感
(図面が現物になる高揚とプレッシャー)
設計が終わり、製作が進み、稼働開始の日程が近づいてくると、私は何度も「もうすべて投げ出して逃げ出してしまいたい」という衝動に駆られました。
何度も練り直して自信を持っていた設計でしたが、何か大きなミスが潜んでいるのではないのか?
そして、図面が現実のものとなった際にそのミスが目の前に突き付けられるのではないのか?
しかし、とうとうその日がやってきました。
いよいよ設備の移設作業が始まったのです。
既存設備の移設と並行して、新規設備の搬入もスタートしました。
もう後戻りはできません。
3.2 連携作業の緻密さ:多社協業の調整
(移設業者・電気・建築──連携無しでは成し得ない一大工事)
移設業者、設備メーカー、建築業者など、複数の会社の作業員たちが連携を取りながら、あらかじめ決められた手順通りに、設備を順番に据え付けていきます。同時に、配管工事や 電気工事も進めなければなりません。
さらに、今回は既存の工場内への移転です。
そのため、もともとその工場で稼働していた製造ラインは、移設作業と並行して、通常通り稼働し続ける必要があったのです。
つまり、現場を止めずに、工場を作り替えていくという、非常に高度で繊細な作業でした。
製造ラインの責任者は当然、稼働中の移設作業には大反対でした。
生産性が低下するのは目に見えているし、何より不慮の事故が発生するリスクが高まります。
日ごとの作業内容、設備搬入の導線、配管や電源つなぎ込み作業のタイミング、それに伴う停電やエア供給停止の時間帯などを現場サイドと工事関係者を交えて綿密に検討しました。
3.3 イレギュラーへの対処:即断即決の連続
(建築誤差と機械精度──異文化ギャップの中での迅速判断)
とはいえ、いくら事前に綿密な検討を重ねていても現場では必ずイレギュラーが発生します。そのたびに現場へ呼び出され、状況を把握し、迅速に判断し、問題を解決していく――その繰り返しでした。
例えば、私たち機械技術者の感覚でいうと誤差とは0.1mmあるいは0.01mmオーダーを想定しますが、建築の世界では数十cmが当たり前です。(※)機械を据え付ける際に基礎と干渉してコンクリートを削ったのは1か所2か所ではありませんでした。あまりにも余裕の少ない設計をしてしまっていたのです。
※建築 tolerances と機械 tolerances の違い
3.4 心を支えたチームメンバーのプロ意識
(目の前のタスクへの没入が引き起こした“逃げたい気持ち”の昇華)
ですが、現場で作業に当たるすべての人が真のプロフェッショナルでした。
会社の垣根を超えて、お互いに助け合い、プロジェクトの成功を一つの目標として団結していました。
この頃には、ずっと私を悩ませていた恐怖心や「逃げ出したい」という気持ちは、知らないうちに、どこかへ吹き飛んでいました。
私はただ、目の前の課題を一つひとつ解決していくことに、全身全霊を注いでいました。
すべての設備が、計画したレイアウト通りに据え付けられました。
しかし、私にはホッとする余裕はありませんでした。
なぜなら、すべての設備が正常に稼働するかどうかという心配よりも、
もっと大きな懸念が一つ残っていたからです。
それは、生産に使用する材料を搬入するトレーラーの進入ルートでした。
90度のカーブを切り返しながら工場内へ入らなければならないのですが、隣接する他社工場との塀までの距離が短く、うまく入れるかが問題だったのです。
事前に何度も図面上でトレーラーの軌跡を描き、シミュレーションも重ね、理論上は入ると確認していました。
…それでも、実際にトレーラーが現場に入る瞬間までは、まったく安心できませんでした。
万が一入れなければ、材料を工場内へ引き込むために、新たな設備導入が必要となり、数千万円単位の追加投資が発生してしまう――。
教訓:人事を尽くして天命を待つ
