がん治療の意思決定~人生の最期をどう迎えたいですか?
がんと診断されたとき、私たちはまず「治療」に目を向けます。けれど、もし治癒が難しい状況になったとき、どのように過ごし、どんな最期を迎えたいのか。その問いに向き合うことも大切です。最終回となる今回は「緩和ケア」をテーマに、人生の終末期をどう支え、どう選択していくのかを考えます。大同病院 腫瘍内科部長・浅井曉先生に、緩和ケア病棟や在宅緩和ケア、そして元気なうちから考えておきたい「人生会議(ACP)」の重要性について話を聞きました。(2023年10月13日、Voicyにて配信)
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緩和ケアとは「終末期だけ」の医療ではない
イズミン がんの治療が難しくなってきたとき、「緩和ケア」という言葉を耳にすることが多いと思います。緩和ケアとは、どのようなものなのでしょうか。
アサイ 多くの方が「緩和ケア=終末期医療」というイメージを持たれていますが、実はそれは正確ではありません。
緩和ケアの本質は、「患者さんの苦痛を和らげること」です。痛みなどの身体的な苦痛はもちろん、不安や恐怖といった精神的な苦痛、社会的な悩み、さらにはスピリチュアルな苦しみも含めて支えていく医療です。
イズミン がんと告知された瞬間のショックや不安も、緩和ケアの対象になるのですね。
アサイ そうですね。最近は「診断時からの緩和ケア」という考え方も広まっています。治療の段階に関わらず、患者さんのつらさに寄り添う医療、それが緩和ケアです。
イズミン 緩和ケア病棟についても伺いたいです。ホスピスとも呼ばれますが、そもそも緩和ケア病棟とはどのような場所なのでしょうか。
アサイ 緩和ケア病棟は、がんなどの重い病気に伴う痛みや苦しみを和らげるための、専門的な医療を提供する病棟です。がんを治すことを目的とした治療ではなく、患者さんの生活の質、いわゆるQOLを高めることを目標としています。
医師や看護師だけでなく、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーなどがチームとなって、患者さんとご家族を支えていきます。
イズミン 緩和ケア病棟に入ると、もう最期まで戻れないというイメージを持つ方も多いですよね。
アサイ その誤解はとても多いですね。緩和ケア病棟に入院したからといって、必ずそこで最期を迎えるわけではありません。症状や痛みが落ち着けば、自宅での療養に戻る方もたくさんいらっしゃいます。
また、在宅介護でご家族が疲れてしまったときに、短期間入院してもらう「レスパイト入院」という使い方もあります。緩和ケア病棟は療養施設ではなく、あくまで苦痛緩和を目的とした医療施設です。状態が安定している方は入院の適応にならないこともある、という点も知っておいてほしいですね。
シノハラ 緩和ケア病棟を上手に活用しながら、終末期をどう過ごすかを考えていくことが大切なのですね。
在宅で最期まで過ごすという選択
アサイ 最近は自宅で過ごす「在宅緩和ケア」を選ばれる方も多く、往診を専門とする在宅クリニックや訪問看護ステーションも増えてきました。在宅でも点滴や注射、在宅酸素、痛み止めの調整なども対応できるようになっています。状態が不安定なときは病院で治療を行い、落ち着いたら在宅に戻る、といった行き来も可能になっています。
イズミン 一人暮らしの方でも、訪問診療・訪問看護・訪問介護を組み合わせて、最期をご自宅で迎えることは十分可能になっていますね。
また、当院にはだいどうクリニックに在宅診療部があり、在宅医療を専門に行っています。がんの終末期に必要な医療ケアを十分に行える体制があり、「自宅で最期を迎えたい」という患者さんを多く診ていますよね。
アサイ 同じ組織内なので、これまでの治療経過やカルテ情報を共有しやすく、スタッフも兼務しているため、病院から在宅への移行がとてもスムーズです。万が一のときには入院も可能なので、その点でも安心して在宅療養を選んでいただけると思います。
「人生会議」で考える、自分らしい最期
シノハラ がん治療について考えると、完治すればそれが一番ですが、もし治らない場合には、「自分はどう生きて、どう最期を迎えたいのか」を考える必要が出てきますよね。
アサイ そうですね。私は患者さんに、最初の告知の段階から「いずれその日が来たときに、どう過ごしたいか」を考えておくことの大切さをお伝えしています。
それまでの時間をどう生きるのか、そして最期をどう迎えたいのかを、少しずつでも整理しておくことが重要です。
がんの経過は比較的ゆっくり進むことが多く、急に心臓が止まるような形ではありません。これは時間が与えられるという意味では良い面でもありますが、その分、考えなければならない厳しさもあります。最後の日が近づいたときに、どのように過ごしたいのか、どこまで医療を受けたいのか、あるいは受けたくないのか。ある程度元気なうちに、本人を中心に、ご家族や主治医と話し合っておくことがとても大切だと思います。
本人の価値観や治療・療養に対する希望を共有し、本人の意思決定を支える。そして、もし意思表示が難しくなったときに、誰に判断を託すのかを決めておく。これを「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」と言います。
シノハラ 日頃からこうしたことを考えることが、自分らしく生きることにつながっていくということですね。
アサイ そうですね。患者さんの状態が急に悪くなったとき、家族が準備できていないと、どうしても慌ててしまいます。その結果、本人が望んでいなかった救急搬送や蘇生処置が行われてしまうことがあります。これは本人にとってだけでなく、家族や医療者にとっても、とても不幸な結果だと感じています。
だからこそ、事前の話し合いが大切です。重いテーマではありますが、一度はご家族や身近な方と「どうしたいのか」を話し合う機会を持ってほしいと思います。話し合いがないまま最期を迎えてしまうと、希望しない延命措置が行われてしまう可能性があります。
実際に医師から「どうしますか」と聞かれる場面もあるかもしれません。そのときに「何でもやってください」と伝えると、医師側も誤解してしまうことがあります。苦痛を和らげる処置はすべて行ってほしいのか、それとも人工呼吸や心臓マッサージまでは望まないのか。その点を分けて伝えていただくことが大切です。
シノハラ 「何でも」の中には、実はいろいろな意味が含まれているのですね。
アサイ 私たち医療者は、患者さんが苦しまないための医療は当然のこととして行います。ただ、心臓マッサージによって肋骨が折れてしまったり、人工呼吸器につながれて会話ができなくなったりすることもあります。それで寿命が大きく延びるわけではなく、せいぜい半日から1日ほどというケースも少なくありません。
だからこそ、どのような状況で過ごしたいのか、どんな最期を迎えたいのかを、あらかじめ家族と話し合っておいてほしいのです。理想はご本人から主治医に伝えることですが、それが難しければ、家族で共有しておくことでも大きな意味があります。
シノハラ がんの終末期における心肺蘇生は、突然の事故などとは状況が違う、ということですね。心肺蘇生そのものが悪いわけではなく、がんの終末期という状況の中で、その処置が本当に本人の望むものかどうかは、しっかり考える必要があります。
イズミン ACPを、より分かりやすく伝えるために、厚生労働省では「人生会議」という名前を使っています。人生の最終段階をどう迎えたいかを、家族や身近な人と話し合うことは、とても重要なことだと思います。難しいテーマではありますが、避けずに向き合うことが大切ですね。
がん相談支援センターも活用を
イズミン 大同病院は愛知県のがん診療拠点病院として、「がん相談支援センター」を設置しています。これは当院の患者さんだけでなく、どなたでも利用できる地域の相談窓口です。治療のことはもちろん、仕事との両立、抗がん剤治療による脱毛のケアなど、がんに関するさまざまな悩みに対応しています。
シノハラ 少しでも不安や迷いがあれば、ぜひ気軽に相談してほしいですね。
イズミン 大同病院の受付でご案内していますし、お電話での予約も可能です。ひとりで抱え込まず、こうした窓口を上手に活用していただければと思います。
ゲスト紹介
浅井暁(あさい・ぎょう)
大同病院 腫瘍内科部長。静岡がんセンターや愛知県がんセンターなど国内有数の専門施設で研鑽を積み、病院の開院と閉院の両方を経験した稀有なキャリアの持ち主。現在は外来化学療法室を中心に、各診療科の抗がん剤治療のサポートや、がんサポートチームを通じて緩和ケアにも携わり、縁の下の力持ちとして患者さんを支える。
趣味はアマチュア無線。世界160の国・地域と交信した実績を持ち、アマチュア無線連盟のアワード「DXCC」も取得。遠い国の知らない人とつながる面白さと“どこまで電波が届くか”という挑戦が魅力と語る。
