朝のスタバのキャラメルマキアートのこと
週に2、3回、博多にマンガとキンドルとAIを教えに行く。
暑い。
とにかく暑い。
糸島は38度だそうだ。
博多は少しだけマシらしい。
冷感スプレーと携帯扇風機を装備し、ついでにスタバのモバイルオーダーとかいうものにも初挑戦してみた話である。

都ホテル博多店の前に、オレは立っていた。
朝の博多駅前は、もうすでに人がわんさか歩いている。キャリーケースを引く外国人観光客、スーツ姿のサラリーマン、傘を差した誰か。「即日輸送サービス」という電光掲示板がやけに大きく光っていて、いったい誰に向けて即日輸送しているのだろうかとぼんやり思った。
即日輸送サービスはいいから、どこでもドアは毎年夏に本気でほしくなる。
週に2、3回、オレは博多のある会社にマンガとキンドルとAIを教えに行っている。ストアカの講師として、AIマンガの描き方だの、キンドル出版のやり方だのを話す仕事である。68歳にもなって、こんな仕事をしているとは若い頃には思いもしなかった。人生というのはまったくもってわからないものなのであった。
家から一歩も出ずに、仕事を完結してしまう、オレにとって、否応なしに外に出るという環境は、体のためにも心のためにも、いいような気がする。
しかし、暑い。
博多も暑い。
とにかく暑い。
だから今日は装備を新調した。
「シャツクール モンスタークール」という冷感スプレーである。パッケージには白い毛の妖怪みたいなやつが両手を広げて吠えていて、「冷感成分量2倍」「最大冷感刺激」と書いてある。なぜ冷感グッズのパッケージというものはこうも大げさで、まるで戦の装束のようなデザインになるのだろうか。よくわからないが、とにかく頼もしい。携帯扇風機も忘れずに首から下げるのであった。


そして今日、オレは新しいことに挑戦した。
スタバのモバイルオーダーである。
昨日、知ったのだ。
店に着く前にスマホで注文しておけば、着いたときにはもう出来上がっているというあれである。68年生きてきて、AIにもまあまあ詳しくなったつもりでいたのだが、こんな基本的なことすら知らなかったというのはまったくもってどういうことなのかと思わずにはいられない。街にはまだまだ知らんことがゴロゴロ転がっているというわけなのである。
やってみた。

商品選択の画面で、サイズはグランデ。カスタマイズでフォームミルク多め、ソース多め。カレー屋の「大盛り無料」を頼むときのような気持ちで、つい欲張ってしまうのがオレという人間の性分なのであった。「決定する」を押す。次の画面には「おはようございます」の文字と、オレの名前「ウサミダイ」の表示。受取時間は約3〜5分後だという。


スタバに着いた。
キクタロウの黒い看板の隣に、緑のロゴが見える。中に入るでもなく、外で待つでもなく、なんとなく手持ち無沙汰に店にはいったら、もうカップが出来上がっていた。グランデのキャラメルマキアート。フォームミルクとソースがたっぷり乗った、あの甘ったるいやつである。総合計624円。カップには小さく「ウサミダイ」「1/1点」と印字されていて、なんだか自分の名前が知らない土地でちゃんと呼ばれているようで、少しくすぐったい気持ちになった。

外に出て、カップを掲げて写真を一枚撮った。博多の朝の光を浴びたスターバックスの看板をバックに、コーヒーを片手に街を歩く。
映画のワンシーンみたいに、さっそうと歩きたかったのだ。
実際にはヨレヨレのシャツに冷感スプレーの匂いをまとった、ただのおじさんが一人、突っ立っていただけなのだが、それでもまあ悪くはない朝であった。

まったく大した話ではない。
モバイルオーダーひとつで大騒ぎしているわしを見て、若い人たちは笑うだろう。だが68年も生きていると、こういう小さな「初めて」がやけに嬉しいものなのである。冷感スプレーの妖怪も、キャラメルマキアートの甘さも、博多の暑さも、ぜんぶひっくるめて、今日という日はなかなか悪くない一日になりそうな予感がするのであった。
さあ、これから講義である。マンガとキンドルとAIの話を、またひとしきりしてこようと思う。
受講生様のnoteです。
