べらぼう35話|歌麿が得た幸せ、春町の不穏な行方は?
大河ドラマ「べらぼう」、35話「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」の感想・考察です。
耳が聞こえない「きよ」という女性と再会したことで、壮絶な過去を克服し枕絵を描き上げることができた歌麿。石燕先生の死も印象的でしたね。
そして、恋川春町がより一層わかりやすく松平定信政権を風刺しようとして書いた黄表紙が何やら不穏な様子…。
今回は、この歌麿の独立と、春町の黄表紙『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』について感想・考察していきたいと思います。
■ 前回の34話は城中と市中でそれぞれ時代をのぼりつめた蔦重と意次の想い、そしていよいよ雲行きが怪しくなってきた黄表紙について、感想・考察しています。振り返りにぜひ👇
■ また、歌麿の傑作のひとつ『画本虫撰(えほんむしえらみ)』について紹介した記事もあわせてどうぞ👇
傑作枕絵『歌まくら』。過酷な過去すら今の幸せに昇華した歌麿
歌麿ときよの再会|過酷な日々を生きてきた二人
以前、歌麿が枕絵に挑戦しようとして苦しかった過去を思い出し、幻覚に脅かされながらふらふらとたどり着いた廃寺。そこで一瞬母と見間違えた女性が、きよでしたね。
突然の雨に降られて、二人は再会しました。洗濯物を取り込もうと慌てるきよを手伝った歌麿は、かつて廃寺で出会っていたことを思い出し声をかけますが、きよは耳も聞こえず話もできないことがわかります。
きよはこうしたときのためにいつも胸元に入れているのでしょう、紙を差し出しました。
そこ書かれていた文字は――。
「きよ 一切 二十四文」
ここは吉原の描写と同じく、いやさらに攻めたシーンだなと思いましたね。
きよは「洗濯女」と呼ばれる、洗濯を生業としつつも、それでは食べていけないから身を売っていた女性だったのです。
性売買は吉原遊郭という限られた場所だけで行なわれていたわけではなく、市中でも特に珍しいわけでもない、弱い立場の人々の生きていく術でもありました。
しかし、一切二十四文とは…。
一切は線香一本が燃え尽きる時間。
二十四文がどれだけ安いか、例えばそば一杯が十六文といえばだいたいお分かりですよね。
この文字だけで、きよもまた過酷な日々を生き抜いてきたことがわかります。
このきよの境遇は、夜鷹(路上や粗末な小屋で体を売る街娼)だった母をもち、自身も身を売らされていた歌麿にもよく分かったはず。そして、きよが話せないからこそ、何を考えているんだろうと気になる気持ちが、歌麿の創作心を搔き立てたと見えます。
きよの様々に変わる表情や仕草を見ながら筆を走らせ絵にしていくうちに、歌麿は満たされていくものを感じ、きよに愛情を感じるようになったのでしょう。あるいは、廃寺で出会ったときに母の面影を見たほどですから、最初から何か感じ取ったものがあったのかもしれません。
「俺、ちゃんとしてぇんだ」|歌麿が初めて求めた幸せ
師である鳥山石燕の最期を報告すると共に、耕書堂をきよと共に訪れた歌麿は、蔦重にこう告げます。
「俺、ちゃんとしてぇんだ。ちゃんと名をあげて、金も稼いで、おきよにいいもん着せて、いいもん食わせて、ちゃんと幸せにしてぇんだ」
かつて自暴自棄になり、自ら体を売って暮らしていたこともある歌麿が、こんな前向きでまっとうな言葉を口にするようになるとは…!
思わずうるっときてしまいました。
歌麿がきよを連れてきたときから、ムッと硬い表情だった蔦重。蔦重の中ではいきなり自分の可愛がってきた弟分が勝手に巣立ちを決めたかのようで、気持ちがついていかない様子でしたよね。
話によっては反対したかもしれない。しかし、その歌麿の言葉と共に渡された「枕絵(まくらえ/春画のこと)」を見た蔦重は歌麿が、本当に過去から脱却して日本一の絵師になろうとしている、と分かったのでしょう。
「おきよさん、ありがた山にごぜぇます!こいつにこんな絵を描かせてくれてありがた山です!こりゃ間違いなく、こいつを当代一に押し上げる、この世でほかの誰にも描けねぇ絵です!」
蔦重はこうきよに頭を下げて、一生歌麿のそばにいてやってほしいと頼みます。
ずっと蔦重の一番でいたかった歌麿。けれどおていが来てからはそれは叶わなくなった。寂しくもあったけれど、こうして歌麿も一緒に過ごしたいと思える大切な人に出会えた。本当によかったよかったと、私も心から祝福してしまいました。
蔦重はおそらく祝儀の意味も込めてでしょう、百両で歌麿の枕絵を買い取りました。いや、蔦重とおていさん。これは百両の、それ以上の価値はありますよ~~!
✅ 百両は換算法にもよりますが、ざっくり1両=10万円として、1千万円ほど。石燕先生の仕事場を借りて、きよさんに新しい着物やおいしいものを食べさせてあげながら、しばらく落ち着いて暮らすのに十分そうですね。
『歌まくら』とは?|歌麿が描いた春画の最高傑作

歌麿の描いたこの枕絵の連作『歌まくら』は、浮世絵春画の最高傑作とも称される作品。全12図と序文・跋文(後書き)で構成。中でも有名なのは、上図の料亭の二階座敷で、男性と口づけを交わす女性の白いふとももが紗の着物から透けて見えている絵です。
また、ドラマにも一部映っていましたが、海底に引きずり込んだ海女を河童が襲っているものや、毛むくじゃらの男が娘を襲っている絵など、美麗なだけではないフェティッシュな作品もあります。そこをドラマでは歌麿の壮絶な過去と結び付け、トラウマ克服の証として描かれたというのは面白い解釈だと思いました(画像は各々検索を)。
ご覧のように着物の透け感や髪の毛の精緻極まる歌麿の筆は「彫師泣かせ」と言われたそうですが、この『歌まくら』の彫師も、『画本虫撰』と同じ名匠・藤⼀宗ではなかったかと推測されているようです。
✅ べらぼうコラム #35
■ 歌麿が描いた自然美の極致、狂歌絵本『画本虫撰』について詳しくはこちらの記事へ👇
春町の黄表紙に不吉な予感!『鸚鵡返文武二道』はどんな作品だった?
売れなくてショック!|春町の『悦贔屓蝦夷押領』とは?
さて、今回のもう一つの注目ポイント。
『悦贔屓蝦夷押領(よろこんぶひいきのえぞおし)』という作品が売れなかったことに傷ついた恋川春町先生が、新たな作品に挑戦しようとしていましたね。
『悦贔屓蝦夷押領』は、源義経が北海道に渡った伝説をもとに、私腹を肥やす蝦夷人・司馬団観(しばだんかん)の陰謀を義経が見抜き、逆に団観を利用して昆布や数の子を鎌倉に持ち帰り、みごと幕府の財政難を救うという物語です。
実際にも大ヒットとはならなかったようですが、趣向の面白さから後に式亭三馬が「青本(黄表紙)名作二十三部」に取り入れています。ドラマ内でも<悪えなり>が出てきたように、蝦夷地の松前藩は米がとれない代わりに禄高はなかったものの、特産品からの税金で、全国でも富裕な大名の一つでした。そういった背景を知って読むとまた面白い作品です。
喜三二の『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし)』のほうは、実際に大ヒット。黄表紙は正月に売り出されるものですが、なんと正月七日には売り切れてしまったという話もあります。
『文武二道万石通』は、源頼朝の命で畠山重忠が鎌倉の武士を「文」「武」「ぬらくら武士」に分けようとする物語。最終的にぬらくら武士ばかりということになり、頼朝公から「文とも武ともいってみろ」(「うんともすんともいってみろ」とお叱りを受けてしまう、というオチです。
この喜三二作品のおっかぶせ(パロディー)として、春町は『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』という作品を作るのですが…。
『鸚鵡返文武二道』|勘違い武士が凧をあげたり遊女に馬乗りに⁉
ドラマ内でも、春町たちがこう言ってましたね。
春町「もとから武芸や学問に励んでいたものは今更道場に入門もしないし、『論語』も買わない。今騒いでいるのはにわか仕込みの新参者。先ほども店先の品を弓で射っておるトンチキ侍がいた」
喜三二「吉原の扇屋では『馬の稽古だ馬んなれ』って振袖や女郎にお馬やらせてたのがいたさ」
こうした世の風潮に嘆いた定信が書いた「鸚鵡言(おうむのことば)」というのも出てきましたね。
さらに「天下国家を治めるのは凧を上げるようなものだ」という例えを勘違いして、「凧を上げれば天下国家が治まる」という噂まで流れていました。
これは、全部『鸚鵡返文武二道』に書かれています笑



どうですか、面白いでしょう?
しかし茶化しに茶化しまくっていて、これからが心配…。
長くなりましたので、『鸚鵡返文武二道』についてはまた別記事で詳しく紹介したいと思います。
おわりに(来週は春町先生が…)
以上、歌麿ときよの門出についての感想・考察、歌麿が描いた傑作春画『歌まくら』、そして春町の『悦贔屓蝦夷押領』、『鸚鵡返文武二道』などの黄表紙の紹介でした。
今回は鳥山石燕、さらに田沼意次の死もありましたね。
でも石燕先生を迎えに来たのは、平賀源内?
石燕先生が最後に描いていたのは「以津真天(いつまで)」という妖怪でした。

ドラマではこの絵に源内の細い髷が書かれていたようです笑
美術さん、細かいな~~。
源内は意次を迎えに来たところだったのでしょうか。
雷がエレキテルを思わせます。
悲しいけれど、不思議とあっちの世界で、楽しく過ごせていそうな方々の気がしました。
また個人的に、黄表紙のヒット作を綴じ糸をつけて売っていたところ、ポイントでした。
実際にこの「あまりに売れたので製本する暇がなく、綴じ糸をつけて売った」というエピソードで有名なのは、唐来参和の『天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)』という作品。
十返舎一九がヒット作ができるまでの出版の工程を描いた黄表紙『的中地本問屋(あたりやしたぢほんどいや)』では、ヒット作が店先で飛ぶように売れる有様を下記のように描いています。

売切れにしびれを切らした客が「早くくれ、綴じるのはこっちでやるからそのままで、いや、もう摺らなくてもいい、そのままください!」なんて、もうめちゃくちゃ言ってます笑
■ 十返舎一九『的中地本問屋』の詳細は下記の記事へ👇
ほんとに、細かなところがドラマの端々に反映されていて、楽しいなー、終わってほしくないなーと思いつつ、次回は見るのが辛い…。
いや、見ましょうね!!(きっぱり)
それでは、また次の記事でお会いしましょう♪
参考文献
・『歌満くら―大判錦絵秘画帖』(武田ランダムハウスジャパン)
・『春画展 図録』(永青文庫)
・『江戸の戯作絵本(三)』小池正胤、宇田敏彦、中山右尚、棚橋正博編者(社会思想社)
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