皮膚の地図|【狸の短編小説】
物心ついた時には、皮膚の上を走る赤黒い線に依存を見出していた。
川の如く枝分かれし、全身を巡る傷痕。
誰かが囁く声は、いつも遠くから確実に耳に入ってきていた。
私は理由も知らずに歩き始める。
疼く傷は、無言で進むべき方角を指し示す。
それに従う以外の選択肢を、この身体は知らない。
かつては、石ころを握り潰すことしかできなかった指が、いつからか、道端に咲く花を傷つけずに摘めるようになっていた。
空が燃えるのを見て、初めて胸の奥が熱を持った。
それが何かはわからなかったが、浅くなる呼吸を整えるために、一度だけ足を止めた。
水面に己の顔を映すと、そこにいるのは見慣れたはずの知らない誰か。
自分の手足を動かすたび、皮膚一枚を隔てた向こう側で、何かが行われているような感覚がつきまとう。
この身体の主導権は、私ではない。
線が指し示したのは、岬の突端に立つ白い灯台だった。
潮風に錆びた扉を開けると、螺旋階段だけが空虚な内部を上へ上へと貫いている。
一段、また一段と踏みしめる。
頂に近づくにつれて、全身の傷痕が皮膚の下で蠢いて、共鳴するように熱を帯びていく。
最上階には、壁一面を覆う巨大な鏡が一つ。
その前に立って、鏡の中の存在と目を合わした。
瞬間、赤黒い線がまばゆい青白い光を放ち始める。
熱も痛みも引き連れず、ただ役目を終えた光が、静かに皮膚の内側へと沈んでいった。
腕から胸から足まで。
生まれついて私を走っていた地図は、跡形もなく消え去った。
後に残されたのは、滑らかな皮膚だけ。
もう一度鏡を見ると、手足の先にまで血が通っていく、確かな感覚がやってくる。
初めて、自分の呼吸の音を聞いた。
かすかな腐敗と命の匂いを孕んだ風が通り過ぎていく。
この風と同じく、どこへ向かうべきかは、わからない。
ふと開いた手のひらの中心に、極細い一本の見覚えのない線が、うっすらと浮かび上がっていた。

以前書いたものをブラッシュアップしてみました⬇️
🔸共同運営マガジン始めました。参加者募集中!
🔸 AI画像のアートスタイルを集めました!
🔸おすすめ!(画像をタップ)⬇️
🔻フレームアウト|【狸の短編小説】

🔻セッショクしたミチ|【狸の短編小説】

もう見逃さない。全編を一気読みできます。⬇️

#たぬき #小説 #ショートショート
#眠れない夜に #AIイラスト
