セッショクしたミチ|【狸の短編小説】
アパートと駅を繋ぐ裏路地は、いつも乾いている。
雨上がりの翌朝、隣の道に水たまりが残っていても、そこにはない。
風が運んだ落ち葉も、誰かが捨てた煙草の吸い殻も、次の日にはさっぱりと消えている。
掃き清められた静けさだけが、アスファルトの上に横たわっていた。
それは霧の深い夜だった。
終電を逃し、路地の入り口でタクシーを降りる。
街灯の光が、アスファルトの表面でヌルリと反射している様子を眺めながら歩いていると、それが見えてしまった。
道全体が粘液を帯びながら微かに脈打ち、中心には誰かの革手袋が落ちている。
アスファルトの中へと音もなく沈んでいく手袋は、徐々に輪郭が飲み込まれていき、数秒後には跡形もなく消え去っていた。
表面が歪んで、物を吸収し切った道は平坦に戻り、平常時の面をしているだけだった。
その日を境に、毎晩窓から路地を見下ろすのが日課になった。
どうやら道は選り好みをするらしい。
ビニール傘の骨、割れた瓶の破片、鳥の羽根。
そういった無機物や、かつて生きていたものの残骸は、夜のうちに吸収されていったが、子供が乗り捨てたのだろう赤い三輪車は、路地の隅に三日間放置されたままだった。
道は、その周囲だけを避けるように静止している。
だが、四日目の朝、三輪車は忽然と姿を消していた。
あったはずの場所のアスファルトが、不自然に抉られ、黒く深い窪みだけが残されている。
何かを消化したのではなく、その存在があった空間ごと拒絶した傷跡がそこには見えた。
今夜、窓の外に人影が見える。
千鳥足の男が、何かを探すようにあたりを見回している。
やがて窪みを見つけると、そこに屈みこんで指先でそっと触れてしまった。
瞬間、道が大きく脈打つ。
アスファルトが粘性を帯びて盛り上がり、男の足首に絡みつく。
声を出す間もなく、男の上半身がズルリと引きずり込まれ、虚空を掴んだ指先はアスファルトに消えていった。
道は元の硬い表情を取り戻して、ただ男が消えた場所に、緩やかな盛り上がりだけを見せていた。
息を殺して、カーテンを引く。
ふと足元に目を落とすと、床板の隙間から、黒く粘り気のある液体が滲み出している。
それはゆっくりと広がって、部屋の扉へ、足元へと向かってくる。
扉の下の隙間からも、同じ液体が静かに、こちら側へと侵入してきていた。

以前書いたものをブラッシュアップしてみました⬇️

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