森の背骨|【狸の短編小説】
男が直しているのは、村のはずれを流れる古い水路。
ひび割れたコンクリートの隙間を、粘り気のある土で丁寧に埋めていく根気のいる作業。
痩せた土地に水を引くこの水路は、男の一族が代々守ってきたもので、誰に頼まれたわけでもないが、自分がするべきものだと、絶えず腹の底から湧き上がっていた。
汗を拭うと、この土地に染みついた土と草の腐敗臭が目を覆う。
男は満足げに息をつき、立ち上がったが、水かさはまだ足りていない。
水源は家の裏に広がる手入れのされていない森の奥にあるのだが、この森には入るなと、祖父から固く言われている。
だが、水は待ってくれない。
男は茶色の模様が目立つナタを手に、森へと続く踏み分け道へ足を踏み入れた。
わずか一歩入るだけで、空気が変わるのが森と言うもの。
昼もなお暗く、湿った腐葉土の匂いが肺を満たし、侵入者への警戒アラートが鳴り響く。
蜘蛛の巣を払って、絡みつく蔦をナタで断ち切りながら進む男の熱は、小さくなっていく一方だった。
しばらく歩いた頃、右の肩がズシリと重くなる。
疲労だろうかと頭を振るが重さは消えず、一歩進むごとに、背中全体に濡れた外套が張り付くように、その重みは増していく。
息が切れて、膝に手をついた先、苔むした小さな祠に目が留まった。
誰が置いたのか、いつからそこにあるのか。
祠の扉はわずかに開いていた。
中には、一枚の古びた絵馬が奉納されている。
風雨に晒され、色はほとんど褪せているそれを、恐る恐る手に取った。
描かれているのは一人の男。
痩せた土地に水を引くため、独りで水路を直している。
その傍らには、感謝の言葉を口にする村人たちの姿。
男の口元は歪み、目には深い疲労の色が浮かんでいた。
絵馬を手にした男の顔には、大量のメマトイがたかっていた。
男は慌てた様子で、絵馬を元の場所に戻し、祠に背を向けて、来た道を引き返し始めた。
森を抜けると、西日が長く影を伸ばしている。
全身の力が抜け、ホッと一息付いたのだが、背骨に食い込むような、馴染みのある肩の重さの執着心には懲り懲りだった。
男は帰宅すると、物置からクワを取り出した。
そのまま、何も言わずに水路へ向かう。
乾いた土を掘り返す音が、静かな夕暮れに響き渡っている。
カツンと硬い石に当たっては、また場所を変えて土を掘る。
男は一度も振り返らなかった。
ただ、自分の背中にもたれかかる、冷たい体温だけを感じていた。

アイデアは良かったが、上手く表現できていなかった旧作⬇️
🔸共同運営マガジン始めました。参加者募集中!
🔸 AI画像のアートスタイルを集めました!
🔸おすすめ!(画像をタップ)⬇️
🔻人間だったもの|【狸の短編小説】

人間への渇望だった
🔻コウモリがやってきた|【狸の短編小説】

それに抗うことなどできるはずもなく
もう見逃さない。全編を一気読みできます。⬇️

#狸 #短編小説 #ショートショート
#眠れない夜に #AIイラスト
