(7)【朝4時半の訪問者】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指してます。
【朝4時半の訪問者】
朝4時。
目が覚めた。
昨日、あれだけ酒を飲んだのに、
頭は妙に冴えている。
横を見る。
松下さんは、
ボロボロの
オンボロの毛布にくるまって、
静かに眠っていた。
この部屋で、
何人が過ごしてきたのだろう。
この布団で、
何人が朝を迎えてきたのだろう。
そんなことを考えながら、
僕はタバコに火をつけた。
___本当は、やめていたのに。
煙が、ゆっくりと天井に広がっていく。
ぼんやりと、それを見ていた。
ドンドンドン。
突然、ドアが叩かれた。
時計を見る。
まだ、朝4時半。
ノックじゃない。
叩きつける音だった。
「___ハイ。」
恐る恐る、ドアを開ける。
その瞬間___
言葉を失った。
肩まで伸びたロン毛。
腕にはびっしりとタトゥー。
耳にはピアス。
威圧感の塊のような男。
「隣の上田いうもんや。」
低い声だった。
「お前、
同じ手配師に世話になっとるやろ。」
「面倒見たってくれ、言われとるんや。」
なるほど___。
手配師ごとに、
面倒を見る人間がいるらしい。
僕は理解した。
「朝メシと昼メシの話は聞いたやろ?」
「他に分からんことあるか?」
睨まれている。
「あっ___はい。
なんとなく、教えてもらいました。」
その時だった。
「おぉ、上田やないか。」
後ろから声がした。
松下さんだった。
さっきまで寝ていたはずなのに、
もう体を起こしている。
でも___
昨日とは違う。
声が低い。
空気が違う。
「お前、こんな所におったんか。」
上田が鼻で笑う。
「松下やないか。」
間髪入れず、松下さんが返す。
「トンコこいたお前に、
そんな言われ方される覚えはないぜぃ。」
空気が、凍る。
___まずい。
喧嘩になるかもしれない。
僕は、何も言えずに
2人を見ていた。
数秒の沈黙。
それだけで、十分長かった。
やがて上田が口を開いた。
「まぁ、松下と仲ええなら
俺が教えることもないわ。」
ドアの外へ出る。
その直前___
振り返って、僕に言った。
「ただな___」
「松下と、
あんまり仲良うせんほうがええで。

ドアが閉まる。
静寂。
その瞬間___
「腐れがっ!」
松下さんが、吐き捨てた。
部屋には、
さっきまでの緊張だけが残っていた。
僕は、言った。
「松下さん、コーヒー飲みます?」
「ホットでいいですか。
買ってきます」
音しか出ないテレビ。
画面の中で、
「ムーンライト・シャドウ」が流れている。
松下さん___
あんな男と、対等に話す。
頼りになる人なのか。
それとも___
距離を取るべき人なのか。
まだ、分からない。
温かいコーヒーを飲む。
少しだけ、落ち着く。
そして、現場へ向かう。
昨日と同じように、
一斗缶の焚き火が燃えている。

でも___
昨日とは、何かが違う。
今日もまた、
知らない現場が始まる。
不安が、胸を押しつぶす。
お願いだから、
お願いだから、
松下さんと、同じ現場であってほしい。
心から、そう思った。
しかし。
運命の歯車は、
思いもよらない方向へ動き出す。
(第8話【紙袋ひとつで生きている男に、心を揺さぶられた】につづく)
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
