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[24]【声がしたので、切った】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指してます。


【声がしたので、切った】


午前10時。

仮眠から目が覚めた。

いや、眠れたというより、
浅い眠りから引き戻された。

頭の中に、
まだ警察官の言葉が残っていた。

捜索願い。

母。

免許更新。

そして、もうひとつ。

携帯の電話帳で
「母」の名前を見た時、
一緒に目に入ってしまった名前。

吉田。

コーヒーをいれる。

湯を注ぐ。
湯気が立つ。

カップを持ったまま、
僕はしばらく飲めなかった。

吉田は、元気だろうか。

コーヒーを飲めているだろうか。

いや。

そもそも、
生きているだろうか。

自分から裏切った。

自分から離れた。

それなのに今さら、
心配している。

勝手なものだ。

母も、僕を心配している。

この歳で「お母さん」と言うのも
少し恥ずかしい。

でも、
お母さんはお母さんだ。

先に電話をするべきなのは、
たぶん母だった。

安心させるべきなのも、
たぶん母だった。

分かっている。

分かっているのに、
指は母の名前を押せなかった。

電話をかける勇気がなかった。

その代わりに、
僕は「吉田」の番号を見ていた。

番号は、まだ残っている。

これがつながれば、
少なくとも電話番号は生きている。

電話番号が生きていれば、
本人も生きているかもしれない。

そんな雑な理屈に、
僕はすがろうとしていた。

違う。

まずは母だろう。

そう思う。

でも、母に何かあったのなら、
免許更新の時に警察官が
何か言ってくれるはずだ。

そう自分に言い訳をした。

やはり、吉田だ。

非通知!

非通知でかければいい。

僕だとは分からない。

電話が生きていれば、
コールだけはするはずだ。

いや、非通知拒否かもしれない。

それでもいい。

確かめたい。

ただ、確かめたかった。

指先が震えていた。


【一体、僕は何をやっているんだ】


コーヒーは、
飲まないまま冷めていった。

吉田は今、コーヒーさえ
飲めていないかもしれない。

あの日、置いてきた缶コーヒーを、
吉田は飲んだだろうか。

タバコは吸えているだろうか。

どこかで眠れているだろうか。

僕は、息を止めるようにして、
非通知で吉田に電話をかけた。

鳴った。

電話は、鳴った。

番号は生きていた。

1コール。

2コール。

それだけで、
胸の奥が少し緩んだ。

切ろうと思った。

その瞬間だった。

「もしもし」

吉田の声だった。

僕は、思わず電話を切った。

何も言えなかった。

名前も呼べなかった。

謝ることもできなかった。

ただ、切った。

でも、分かった。

電話番号だけじゃない。

吉田は生きていた。

声がした。

ちゃんと、
電話に出られる状況にいた。

それだけでよかった。

本当に、よかった。

冷めたコーヒーを一口飲んだ。

苦い。

冷めている。

それなのに、うまかった。

吉田。


【生きていてくれて、ありがとう】


いつか、吉田に会える日が来たら、
あの非通知の電話は僕だったと
言いたい。

吉田なら、
たぶん笑ってくれる気がした。

母への電話は、
また今度にしようと思った。


【次の話】第25話「お母さんに電話してください」へ

4/29 掲載



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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】
目次から読む
1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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