[12]【社長の優しさが、痛かった】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしています。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。
【社長の優しさが、痛かった】
午前1時。
インスタントコーヒーをいれる。
ひと口飲む。
白湯みたいだった。
ミスのことばかり考えて、
眠りが浅い。
少しでも気を抜けば、
また何かやってしまう気がする。
もう絶対に、ミスはしたくなかった。
チラシを新聞に挟んで配る。
それだけの仕事だ。
ミスは誰にでもある。
でも僕は、ミスにミスを重ねた。
結果、皆に迷惑をかけた。
地図を開く。
手が震えて、うまくページをめくれない。
落ち着け。
配達の順番をイメージしろ。
そう思うのに、浮かぶのは
転倒したあの場所ばかりだ。
今日は転ばずに終われるだろうか。
誤配せずに済むだろうか。
弱気になるな。
とにかく、仕事をしなければ。
販売所に着く。
皆、普段と変わらない。
何もなかったみたいに動いている。
きっと、バイトの人たちにも
僕のミスは知れ渡っているはずだ。
それでも、誰も何も言わない。
その空気が、痛かった。
責められる方が、まだ楽だ。
気をつかわれているのが伝わってくる。
優しさが、空気を伝わって刺さる。
優しさが痛い。
担当地域のチラシを取りに行く。
「手伝うよ〜。」
宮本さんが声をかけてくれた。
つい最近までホームレスだった僕のことなんて、
放っておいてくれていいのにと思う。
それでも僕は、
何も言えず頭を下げた。
ミスしないように。
一部ずつ、丁寧に。
新聞にチラシを挟んでいく。
一部。
また一部。
「あっ」
思わず声が出た。
一部、飛ばしてしまった。
指先が震えているせいだ。
落ち着け。
落ち着け。
自分に言い聞かせる。
バイクにまたがる。
負傷した足が痛む。
心臓の鼓動を全身で感じる。
深呼吸する。
鼻から吸って、口から吐く。
その深呼吸さえ、震えている。
行くしかない。
とにかく出発だ。
配りきるんだ。
走り出してすぐだった。
「ウッ。」
道の凹みにハンドルを取られる。
ヒヤッとした。
けれど、なんとか持ち堪えた。
危ない___。
一度、止まろう。
休憩だ。
落ち着こう。
自販機の前に立つ。

コーヒーを飲もうとして、
手が止まった。
吉田がよく飲んでいた銘柄だった。
___飲めない。
アイツを裏切った。
そんな記憶が、また胸の奥を刺す。
天罰なのかもしれない___。
そんな言葉まで浮かんで、
自分でも嫌になる。
本当に亡霊が、吉田の亡霊がいるみたいだ。
販売所に戻る。
そこで、3部配り忘れがあったと知らされた。
持って行った新聞は、もう余っていない。
ということは___
どこか別の家に、誤配したということだ。
全く___
何をやってるんだ、僕は。
転ばなかっただけで、
終わった気になっていた。
何ひとつ、終われていなかった。
___。
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
