[14]【それでも、配達の朝は来てしまう】 人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしています。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。
【それでも、配達の朝は来てしまう】
午前1時。
インスタントコーヒーをいれる。
湯気を見ている。
飲む。
熱いだけだ___。
味がしない。
さっきまで皆の前にいたのに、
もう随分昔のことみたいに思える。
集金業務の時
社長が言った。
「まぁ、アレだ。もし他にも
誤配あっても、新聞届ければ
いいから。気にすんな。」
宮本さんも言った。
「最初は誰でもあるし。
次から気をつければいいよ。」
優しい___。
優しいのに、その言葉が
胸に刺さる。
怒鳴られた方が、まだ楽だった。
「何やってんだ!」と
責められた方が
少しは気が済んだ気がする。
でも、誰も責めなかった。
だから余計に苦しい。
3部___。
販売所に連絡が来たのは
3部だけだ。
でも、本当にそれだけなのか?
契約の切れた家に
まだ配ってないか?
新しい家を
飛ばしてないか?
気を遣って、
言わなかっただけじゃあないのか___?
考える。
思い出せ。
思い出せ___。
地図を開く。
鹿島の地図は
もう何度も見た。
配達順を指でなぞる。
ここを曲がって、
あの角を入って、
あの家の前で止まって___。
だめだ。
浮かぶのは地図じゃない。
転倒した場所ばかりだ。
ハンドルを取られた瞬間。
泥だらけになった新聞。
破れた束。
心臓が縮むような、
あの音。
思い出せない___。
誤配した3軒さえ、
思い出せない。
転倒しないことに
必死すぎた。
無事に戻ることだけで
頭がいっぱいだった。
情けない___。
コーヒーを飲む。
さっきより苦い。
でも、苦いだけだ。
落ち着かない

眠らなければと思う。
横になれば、
少しはマシになるかもしれない。
でも、目を閉じると
また転倒した場面が浮かぶ。
眠れない___。
このまま朝になる。
いや、朝は来る。
僕が眠れなくても、
怖くても、
朝刊は来る。
配らなければならない。
逃げたくなる。
販売所に行って、
また同じようにバイクに乗る。
また転んだらどうしよう。
また誤配したらどうしよう。
また皆に迷惑をかけたらどうしよう。
弱気な考えが
次から次へと浮かぶ。
それでも___。
それでも、行くしかない。
ここで逃げたら、
本当に終わる。
僕はもう、
終わった人間みたいな顔で
生きるのは嫌だった。
吉田と過ごしたホームレスには
戻りたくない。
地図をたたむ。
コーヒーを飲み干す。
ぬるくなっていた。
もうすぐ午前2時。
そろそろ支度をしなければならない。
外はまだ暗い。
静かだ。
静かなのに、
自分の心臓の音だけが
響き渡る。
上着を羽織る。
鍵を持つ。
今日も怖い。
今日も自信はない。
うまくやれる気もしない。
それでも___。
それでも、行く。
僕は玄関を開けた。
冷たい空気が
顔に刺さる。
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4/19更新
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
