夜桜系男子 #毎週ショートショートnote
約400字・ショートショート
僕の頭には、髪の毛の代わりに、本物の桜が根付いている。
喜びや恋に心が揺れると、意志に反して花びらが零れ落ちる。
それは隠しようのない感情の露呈だった。
春の終わりの、夜の展望台。
上着のポケットで小さな箱を握りしめる。
「どうしたの?」
美咲が僕を覗き込んだ。
その瞬間、僕の中の「春」が決壊した。
指輪を差し出した刹那、頭上で感情が爆ぜた。
狂い咲いた淡いピンクの花吹雪が視界を埋め尽くす。
「結婚してください!」
言い終える頃には、僕の頭は、月の光を反射するほど見事にハゲていた。
一輪の予兆も残さず、想いの全てを捧げてしまったのだ。
訪れた沈黙。
けれど美咲は、花の蕾がほころぶように笑った。
「ふふ、すごい。あなたの心が、全部こぼれちゃったみたい」
彼女の手が、僕のツルリとした頭にそっと重ねられた。
夜気に晒されていた頭は、彼女の体温を吸い込んで、新しい季節を待つ大地のような温かさに満たされていた。

