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短編小説『配達員はクジラの夢を見るか?── 伝説の捕鯨師りあを捕まえろ』 第2話「見えない海」


​「……いや、クジラって閉店で単価が跳ねたやつでしょ?」

豚野郎は電話越しに、できるだけ冷静なトーンで返した。自分なりに導き出した、現場の理屈だ。

​『素人け?』

​間髪入れずに返ってきたその一言に、豚野郎の喉の奥がカッと熱くなった。

(この爺さん……)

隣でタバコを吸っている2号に視線をやるが、彼は我関せずといった風に夜の闇を眺めている。

​『よう聞いてや、閉店だけじゃクジラにならん。ほな、豚野郎"君"、君が閉店の店の前で待ってたとする。必ず来るけ?』

「……」

『けーへんやろ?』

​ラビの言葉は、まるで現場を見透かしているように鋭かった。

確かに、閉店間際に店の前で待機していても、注文が入らなければただの地蔵だ。あるいは、注文が入ったとしても、近くにいる自分ではなく、少し離れた別の配達員に「クジラ」が飛んでいくことだってある。

​『クジラを釣るっちゅうのはな、魚を待つことやない。海そのものをコントロールすることや』

​豚野郎は、思わずスマホを握る手に力が入った。

2号さんが言っていた「道玄坂に集まった邪魔な網」という言葉。そして、ラビ爺の言う「海のコントロール」。

​「……どうすればいいんすか」

言った瞬間、自分で舌打ちした。
聞くつもりなんかなかった。こんな嫌味な爺さんに頭を下げるつもりもなかった。

それでも聞いてしまった。
クジラを知っている人間の声だったからだ。

​「……いや、やっぱいいっすわ」

『ほう?』

「釣り方くらい、自分で見つけます」

そして受話器の向こうで、ラビがクツクツと笑った。

『意地っ張りやなあ』

「誰のせいっすか」

『わしは教えてもええ思っとったんやけどな』

「は?」

『2号ちゃんの連れやろ』

「……」

『その減らず口嫌いやないで』

豚野郎の眉がぴくりと動く。

『まあ、一回くらい盛大に外した方が話のネタにはなるわな』

「だから、上からなんすよ」

『年上やしな』

「関係ないでしょ」

『ほな頑張りや。豚野郎"君"』

「その呼び方やめろって」

『じゃあの』

通話が切れる。

豚野郎はスマホを2号に叩きつけるように返した。

​「2号さん! なんすか、あのラビって爺さん! 性格悪すぎでしょ!」

「昔からや」

2号は受け取ったスマホを事も無げにポケットにしまう。

​豚野郎は鼻息を荒くしながら、2号に詰め寄った。

「……で、2号さんは知ってるんすよね? その、ラビが言いたげだった『本当の釣り方』」

​2号はタバコを最後の一吹かしまで吸い込み、携帯灰皿に押し付けた。

「いや」

「えっ」

「……何となくしか知らん」

​一瞬の沈黙。

夜の中目黒に、豚野郎のズッコケる音が響いた気がした。

​「……え、知らないんすか! さっきあんなに格好つけてクジラ見せてきたじゃないっすか!」

「あれは、運や」

「運!? 嘘でしょ、さっき『閉店と合わせれば』とか理論語ってたじゃないっすか!」

​「……ラビ爺が、そんなこと言うてた気がしただけや」

2号は目を逸らし、PCXのエンジンをかけた。

​「……あー、もう! 2号さんらしいっちゃ、らしいっすけど!」

豚野郎は呆れ果てて天を仰いだが、不思議と胸の内のモヤモヤは消えていた。

結局、自分の手で正解を掴み取るしかないのだ。

​「……行きますよ。道玄坂。あの捕鯨師の正体、俺が暴いてやりますわ」


あとがき

​お待たせしました! 第2話の公開です。

​本当は週一ペースでサクサク公開していく予定だったんですが、いかんせん僕は飽き性なもので、すぐに他のことに興味が移ってしまう(笑)

でもご安心ください。ストーリー自体はすでに最終話まで書き上がっているので、あとは挿絵を入れていくだけの状態です。

他にも書きたいものがあったり、投稿のタイミングを測ったりしているうちに、少し予定がズレてしまいました。

​さて、前回に引き続き、今回はガッツリとラビ爺が登場しました。

ここでラビさんの思い出話でも語ろうかと思ったのですが、本編の『配達員ろること2号』にもおそらく(というか、多分近々)登場する予定なので、その時にまとめて語らせてもらおうと思います。

​一応ここで補足しておくと、ラビさんはXでは「らB」として活動されていて、配達に関するnoteを累計2,500部以上も売り上げている大ベストセラー作家でもあるんですね。

そのラインナップの中には、今回のテーマでもある「クジラnote」も実在します。

この作品は、まさに当時の「道玄坂のクジラブーム」の渦中にリアルタイムで書かれたもの。

今とは若干仕様が異なる部分もありますが、配達の「知識」として持っておいて絶対に損はない内容です。興味のある方はぜひ覗いてみてください。

ただし──クジラに脳を焼かれすぎないようにだけ、くれぐれも気をつけてくださいね(笑)。

​あ、そうそう。最後にもう一つお知らせです。

本作に登場する2号とラビの、かつての物語を描いたショートショート『未練配達員』を公開しました。

今回の連載に直接関係するエピソードではありませんが、2号がなぜ東京に向かうことになったのか、そして2号とラビの「あの空気感」の原点が、ほんの少しだけ垣間見れる作品となっています。

​こちらをあらかじめ読んでおくと、また違った視点で本作の二人のやり取りを楽しめるかもしれません。ぜひ合わせてお楽しみください。


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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

​少しでも楽しんでいただけたら、下にあるハートマークの「スキ」をぽちっと押してもらえると励みになります。

​あなたは、ラビ爺の言う「海をコントロールする」という言葉の裏に、一体どんな秘密が隠されていると思いますか?

​もしよければ、あなたの考察や「ここでクジラを釣ったことがある!」といったエピソードをコメント欄でぜひ教えてくださいね。

​今後、豚野郎が道玄坂でどんな戦いを繰り広げるのか、見逃さないためにもアカウントのフォローをお願いします。

​今回は、クジラを巡る緊迫感のある夜のやり取りを描いてみましたが、普段は大真面目にデリバリーの世界でドタバタしている『配達員ろること2号』という本編シリーズを連載しています。

このスピンオフのヒリヒリした空気感とはガラリと違う、現場のリアルな熱気と笑いがある世界線なので、そのギャップも合わせて楽しんでもらえたら嬉しいです。

​ふだんのXでは、元気に生きているぞという生存報告や、AIで作ったキャラクターのイラストを投稿しています。

​ときどき、物語のボツ案やここでしか言えない裏設定なんかも気まぐれに垂れ流しているので、よければ覗きにきてくださいね。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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