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【週末エッセイ】 「作る」 ことだけが、僕の居場所だった

学生時代、モノづくりに救われた話

北海道の冬は長い。

窓の外は一面の銀世界で、吐く息も凍るような寒さが続く。

そんな閉ざされた季節の中で、学生時代の僕は、あるひとつの「熱」に浮かされていた。

それは恋でもなければ、部活動への情熱でもない。

僕が恋い焦がれていたのは、四角い箱の中に広がる、0 と 1 の世界だった。

「ノリの悪い奴」 の秘密の恋人

「今日、カラオケ行かない?」
「ごめん、用事があるから」

高校時代、僕は友人からの誘いをことごとく断っていた。

「あいつ、付き合い悪いよな」

そんな陰口が聞こえてきても、気にならなかったわけではない。でも、それ以上に僕には、どうしても早く家に帰らなければならない理由があった。

家に帰れば、愛しの「彼女」が待っているからだ。

……誤解しないでほしい。彼女といっても、人間ではない。

僕が急いで帰宅し、制服も着替えずに電源を入れる相手。それは、親に頼み込んで買ってもらった、武骨なデスクトップパソコンだった。

当時の僕にとって、カラオケボックスで流行りの歌を歌うことよりも、エディタの黒い画面にカーソルが点滅しているのを見つめる方が、何倍も胸が高鳴った。

友人が「恋愛」や「ファッション」の話に花を咲かせている間、僕は「HTML のタグ」や「CGI のパーミッション設定」について、脳内で熱い議論を交わしていたのだ。

今思えば、完全に「痛い」学生だ。

でも、あの頃の僕にとって、モニターの向こう側だけが、唯一、自分が自分でいられる場所だった。

教室という名の 「アウェー」、深夜 2 時の 「サンクチュアリ」

なぜ、そこまでパソコンに没頭したのか。

それは単に「機械が好きだったから」という理由だけではない。

現実世界——特に学校という場所が、僕にとっては息苦しい「アウェー」だったからだ。

僕には吃音(きつおん)がある。

「あ、あの……」と言葉が詰まるたび、周囲の空気が微妙に固まるのを感じる。教室のざわめき、休み時間の雑談、先生に指名された瞬間の緊張感。
それらすべてが、僕にとっては恐怖の対象だった。

「普通に話したい」

そう願えば願うほど、言葉は喉の奥で固まり、出てこなくなる。
教室の隅で、僕はいつも透明人間になりたいと願っていた。

けれど、夜は違った。

家族が寝静まった深夜 2 時。

ストーブの灯油が切れる匂いと、パソコンのファンが回る低い音だけが響く部屋。

そこは僕だけの「サンクチュアリ(聖域)」だった。

キーボードを叩く音は、僕の言葉だ。

画面の中に打ち込んだコードは、どもることも、つっかえることもない。僕が意図した通りの論理で、完璧に動作する。

<font color="red">Hello World</font>

たったこれだけの記述で、文字は赤くなる。

嘘をつかない。嘲笑わない。僕の命令を、ただ忠実に実行してくれる。
その絶対的な信頼感が、傷ついた僕の自尊心を、少しずつ修復してくれた。

「届いた」 という震えるような実感

ある冬の夜のことだ。

独学で覚えた知識を総動員して、僕は初めてオリジナルの掲示板(BBS)を作った。

デザインは稚拙だし、機能も最低限。
それでも、それは僕がゼロから作り上げた、僕だけの「城」だった。

恐る恐る、インターネットの海に公開する。

どうせ誰も来ないだろう。そんな諦め半分で、毎日アクセスログを確認していた。

数日後。

学校から帰っていつものようにログを見ると、アクセスカウンターの数字が「1」増えていた。

そして、掲示板には一件の書き込みがあった。

『管理人のページ、見やすくていいですね。また来ます』

その一行を見た瞬間、全身に鳥肌が立った。
心臓が早鐘を打つ。
何度も何度も、その文字を目で追った。

会ったこともない、名前も知らない誰かが、僕の作ったものを見て、言葉をくれた。

僕の「声」が、届いたのだ。

吃音で震える声ではなく、僕が書いたコードという「声」が、見知らぬ誰かに届き、心を動かした。

その時、僕は初めて思った。
「ここにいていいんだ」と。

教室では透明人間だった僕が、この世界では、確かに存在を許されている。

涙が出るほど嬉しかった。

大げさかもしれないけれど、その瞬間、僕は確かに「救われた」のだと思う。

あの頃の僕へ

あれから随分と時間が経った。

学生だった僕は大人になり、サラリーマンを経て、今はフリーランスのエンジニアとして生きている。

今でも時々、深夜にコードを書いていると、あの頃の感覚が蘇ることがある。

静寂の中でキーボードを叩く音。モニターの青白い光。
そして、「作る」ことへの純粋な没頭。

もし、タイムマシンがあって、あの頃の「ノリの悪い」僕に会えるとしたら、こう伝えてあげたい。

「その『好き』を、絶対に手放すなよ」
「お前が今、逃げ場所だと思っているその箱の中は、いつかお前を広い世界へ連れて行ってくれる翼になるから」

不器用で、人付き合いが苦手で、コンプレックスだらけだった少年。

でも、彼が誰になんと言われようと、孤独な夜にコードを書き続けてくれたおかげで、今の僕がいる。

「作る」ことだけが、僕の居場所だった。
そしてそれは、今も変わらず、僕の生きる場所そのものになっている。

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僕の原点や、言葉との向き合い方を綴った記事たちです。

幼少期のレゴブロックから始まり、震災を機に脱サラを決意するまでの、僕のエンジニアとしての原点を綴った物語です。

「好き」を仕事にする喜びと苦悩を赤裸々に書いています。

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コンプレックスを武器に変えるまでの、心の変化を描いています。

ひとりごと

この記事を書きながら、懐かしいダイヤルアップ接続の「ピーヒョロロ……」という音を思い出していました。

あの音は、僕にとって世界への扉が開く音でした。

今、何かに夢中になっているけれど、周りと少し違っていて不安を感じている人がいたら、伝えたいです。

その「没頭」は、決して無駄じゃない。

あなたが夢中で積み上げた時間は、いつか必ず、あなたを支える強固な土台になります。

不器用でもいい。ノリが悪くてもいい。
あなたの「好き」を、どうか大切にしてください。

2025© おおとろ

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