【個別相談実録】#02 父が、先に悲鳴を上げた日。~それは、母と過ごす、優しくて残酷な日々の始まり~
こんにちは、医師のくんぱすです。
いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
前回から、新しい試みとして”たった一人”の認知症介護者の方に長期的に伴走し、そのリアルな個別相談の軌跡を皆さんと共有していくという連載を始めました。
なぜ、この試みを始めようと思ったのか。
それは、私が現場でずっと感じてきた、『認知症介護の悩みは、家族の数だけある』という現実を、綺麗事ではなく一人の人間の”物語”として伝えたかったからです。
いつも読んでいただいている介護者の方々の明日へのヒントや気づき、活力へ繋がるといいなと思います。
前回のお話【#1 ある日、母を施設に入れることになった。〜罪悪感と向き合う、一人の介護者の物語〜】はこちら↓
前回のあらすじ
「母を施設に入れる日、本人にはどう伝えれば…」
80代の母を介護するAさんから寄せられた、切実な悩み。
私との対話で、彼女は「本人を納得させなければ」という重圧から少しだけ解放された。
しかし、入所日を目前に控えたある日、事態は誰も予想しなかった方向へと動き出す、、
入所まであと2週間
(なんとか、このまま穏やかにその日を迎えられる。)
Aさんがそう思い始めた矢先、お父様から一本の電話が鳴り響きました。
「もう限界だ、、私を施設に入れてくれないか」
Aさんは、一瞬、言葉を失いました。
入所するのは、母のはず。
なのに、父が先に悲鳴を上げたのです。
(…まさか、ここまで追いつめられていたなんて。)
予定していた入所日より前に限界を迎えてしまい、Aさんはどうしたらいいか戸惑いました。
母を入所まで預かることに
Aさんは、すぐに遠方に住む兄弟と連絡を取り合いました。
そして、家族で出した結論は、「父と母を、一刻も早く離してあげよう」ということ。
入所までの2週間、Aさんと兄弟で、1週間ずつ母を預かることに決めたのです。
「物品の準備も、心の準備も、ほとんどできないまま。とにかく、動かなければ、という一心でした。」
Aさんは、当時の慌ただしさを、そう振り返ります。
母と過ごした1週間
Aさんの自宅での、お母様との1週間が始まりました。
慣れない環境でお母様が混乱しないようにと、トイレや電気のスイッチには、分かりやすく貼り紙を。
日中は、お孫さんと一緒に、お母様の得意な塗り絵や編み物をして、穏やかな時間が流れます。
「その光景だけを見ていると、数日後に母が施設に入るなんて、嘘みたいで。あまりに落ち着いている母の姿に、『本当に、これで良かったんだろうか』って、何度か気持ちが揺らぎました」
介護者はいつだって、”本人にとっての最適解”を、探し続けています。
揺れる心を抑えるように、Aさんは自分に言い聞かせます。
(大丈夫。これは期限があるからこその、穏やかな時間なんだ。)
そして、彼女は決めました。
この残された数日間を、ただ過ごすのではなく『母とやり残したこと』を叶えるためのかけがえのない時間にしよう、と。
家族で近所のレストランへ外食に出かけました。
スーパーでは、お母様が「あら、美味しそうね」と呟いた季節の果物を迷わずカゴに入れました。
キッチンに立てば、まるであの頃に戻ったかのように、「こうやって切ってみたら?」と、母が娘に料理を教える。
「不思議なんです」
と、Aさんは少し寂しそうに、でも、とても愛おしそうに話してくれました。
「普段より、母がずっとシャキッとして見えて…。母のアドバイス通りに作った料理は、普段作り慣れていたはずなのに、もっと美味しく感じました。」
母と過ごした1週間を振り返って
「母の『娘と一緒に過ごしたい』という願いを叶えてあげられたと思っています。私にとっても、母としばらくぶりに過ごすことで今まで気が付かなかった母の一面を新たに知ることができて、いい時間を過ごすことができました。」
Aさんの話を聞きながら、私は思いました。
『認知症介護とは、なんて優しくて残酷な世界なんだろうか。』
必ず家族に気持ちの折り合いを求めてくる。
一緒にくらしたいけれど、暮らせない。
実家にいさせてあげたいけれど、いさせてあげられない。
こっちを取れば、あっちがつかず。
その状況で決断を迫ってくる。
なんて過酷な選択なのだろうか。
私は医師として、感情に寄り添いつつも”冷静でいよう”と心がけています。
寄り添うだけなら私でなくてもいいから。
医師として、時には家族の決断の背中を押し、決断できないときには少し悪役になることも時にはあるかもしれません。
人は苦しい決断をするときは、自分じゃない誰かに矛先を向けた方が楽になるときもあると知っているから。
続きはこちら↓
もし、あなたが今、Aさんと同じように悩んでいるなら、あなたの抱えるモヤモヤを、ぜひ一度私にお話してくださいませんか?
私が目指すのは【介護で潰れない社会】です。
そのための第一歩として始めたのが【認知症診療医による認知症介護者の個別相談】です。
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