見出し画像

【個別相談実録】#03 母の施設入所。安堵したのも束の間、父が発した「小さなSOS」

こんにちは、医師のくんぱすです。
いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新しい試みとして始めた”たった一人”の認知症介護者の方に長期的に伴走し、そのリアルな個別相談の軌跡を皆さんと共有していく連載第3話になります。

なぜ、この試みを始めようと思ったのか。
それは、私が現場でずっと感じてきた、『認知症介護の悩みは、家族の数だけある』という現実を、綺麗事ではなく一人の人間の”物語”として伝えたかったからです。

いつも読んでいただいている介護者の方々の明日へのヒントや気づき、活力へ繋がるといいなと思います。

前回までのお話はこちら👇

母が、施設に入った。

同居していた父が限界を迎え、兄弟で手分けして過ごした、愛おしくも切ない一週間。
その先に待っていたのは、意外なほどあっけない入所だった。

『母は昔から頭の切れる人でした。勘がいいっていうか。
だから、きっと私たちが施設に入所することをごまかすことは難しいと感じています。』

そう不安げに話していたAさんだったが、当日、正直に入所の話を伝えると、母は静かに頷いたという。

これで、よかったはずなんだ。
父も、母も、そしてAさん自身も、少しだけ穏やかな時間を取り戻せるはずだった。

なのに、私の元に届いたAさんの声は、晴れやかさとは違うものだった。

嵐の前の静けさ

『先生、施設から連絡があって、母は日中、穏やかに過ごしているそうです。心配していた怒りっぽさも出ていないみたいで。少し、ホッとしました』

入所から10日。
施設からの報告に、Aさんの声には確かな安堵が滲んでいた。
ただ、母はまだ「泊まりに来ている」という感覚のようで、いつ「家に帰る!」と怒り出すか、という不安は消えないという。

私は、Aさんにこう伝えた。

「素晴らしいじゃないですか。まずはお母様が穏やかに過ごせている、その事実を喜びましょう。環境の変化にご本人が慣れるまで、2週間から1ヶ月はかかります。焦燥感や不安があって当たり前。だからこそ、施設の方も『面会は控えめに』と言ったんです。今は、プロに任せて、見守ってあげる時期ですよ」

漠然とした不安は、それが何なのか分からないから怖い。
「今は見守る時期」
「もし症状が悪化しても、薬の調整という次の手がある」
そうやって、不安の正体を一つ一つ言語化してあげるだけで、人の心は少しだけ軽くなる。

Aさんは、「そうですね。しばらくは施設にお任せしようと思います。」と少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。

しかし、嵐は、別の場所で静かに渦巻いていた。

独りになった父

『先生、実は…今度は、父のことが心配で…』

母がいなくなった、父が一人で暮らす実家。
週末は今までのように、兄弟で交代で実家を訪れている。

Aさんが訪れると、父は一人、テレビの前でぼんやりと座っていた。
食卓やシンクには、食べ終わった形跡が広がる。

『最近は、以前にも増してメモを多く取るようになったんです。
認知症じゃないんですけど、やっぱり自分でも不安なんでしょうね…』

「お父さん、ちゃんと食べてる?」
『ああ、大丈夫だ』

(大丈夫、とはいうもののきっと父も心細いんだろう。)
早くこっちに引っ越してきたらどうだ?
「…そうだね、考えてるよ。」

今まで母がいたからこそ、成り立っていた日常。
その日常は、今ここにはない。

「夫婦だから一緒にいて当然、という考えも違うんですね…」

Aさんのその言葉は、長年二人を支えてきた彼女だからこその重い実感だった。

母の入所で、一つの大きな山は越えた。
でも介護は、一難去ってまた一難。
ステージが変われば、全く新しい種類の不安が容赦なく襲いかかってくる。

私は、Aさんに尋ねた。

「お父様のことで、今、一番気になっているのは、どんなことですか?」

漠然とした不安を、具体的な行動に変える。
そのための、作戦会議の始まりだった。

2つの命綱

Aさんとの対話の中で、私たちは、独りになったお父様のために今すぐ準備すべき『2つの命綱』を明確にした。

1つ目は、『ケアマネージャーとの連携強化』
「ケアマネさんは忙しいから」と遠慮しがちな家族は多い。
でも、逆だ。

状況が変わった今こそ、家族から連絡し現状を共有する。
要介護度の見直しや、これから必要になるサービスを、プロと一緒に余裕を持って計画しておく。
突然の生活破綻に備える、最高の保険だ。

2つ目は、『社会との繋がり』の再構築
特に、高齢の男性は新たなコミュニティに参加するのが苦手なことが多い。
私は、Aさんにいくつかの具体的な選択肢を提案した。

シルバー人材、貸し農園、そして…こども食堂だ。

「こども食堂…?」

意外そうな顔をするAさんに、私は伝えた。

「高齢者と子どもの相性は、驚くほど良いんです。
お父様が、誰かの役に立てる、誰かに必要とされる。その感覚が、何よりの生きる力になるんですよ」

「なるほど、それは初めて聞きました。近くにないか調べてみます!」

Aさんの声に、ほんの少し光が差したのが分かった。

あなたの「次の一歩」のために

母が施設に入り、父が独りになった。
家族の形は、大きく変わった。
安心と新たな不安が入り混じる中、Aさんは今、未来への具体的な一歩を踏み出そうとしている。

認知症介護のステージや環境が変わっても、それぞれの段階で違った想いが錯綜する。
それが、介護の難しいところであり、苦しいところだ。

漠然とした不安を丁寧に掘り進めることで、自分の抱える気持ちと向き合うことができる。
モヤモヤとした霧が少しずつ晴れ、「これでいいんだ」と進んでいけるよう、介護で心が潰されないよう、全力で伴走したい。

もし、あなたが今、Aさんと同じように出口の見えないトンネルで立ち尽くしているのなら。
その胸の内を、一度、私に話してくれませんか?

私が目指すのは【介護で潰れない社会】です。
そのための第一歩として始めたのが【認知症診療医による認知症介護者の個別相談】です。

個別相談をご希望の方は、こちらのフォームからお申込みください。
(詳細は、フォーム内に記載しております。)


いいなと思ったら応援しよう!

女医ママの処方箋 くんぱす先生に共感して頂けたら応援お願いします。更なるいい記事投稿に向けての勉強費に使わせて頂きます。