科捜研で働く3年目の親友に聞いた ードラマと違う理系公務員のリアルー
ー利益じゃなく、治安を守る。もう一つの理系の働き方ー
「科捜研って、あの科捜研だよね?」
高校からの親友が科捜研で働いている、と話したとき、母がすごく嬉しそうにそう言いました。
理系の進路には、民間の研究職や知財だけじゃなく「公務員」という道もあります。その3年目のリアルを、本人に聞いてきました。
母が大好きだった「科捜研の女」と、現実の科捜研
母は、「科捜研の女」が大好きでした。
毎週ドラマを楽しみに見て、ロケ地を聖地巡礼したがるくらい。だから親友が本物の科捜研に入ったと伝えたとき、自分のことみたいに喜んでいました。
正直に言うと、私はちょっと違うことが気になっていました。
(ドラマみたいに、危ない事件に巻き込まれたり、生々しい現場に立ち会ったりするのかな…?)
心配になって、本人に聞いてみたんです。そうしたら、答えは拍子抜けするくらい平和でした。
基本は、研究所の中での内勤。鑑定作業とデスクワークが中心。
担当する分野によっては現場に行くこともあるけれど、ドラマのように事件に巻き込まれるようなことはない。毎日、淡々とラボで手を動かしている。
その話を聞いて、私はほっとしました。
以前「博士に進んだら詰む」って本当?という記事でも少しだけ触れた友人なのですが、今回はその彼女の働き方を、もう少し深く聞いてみることにしました。
どうやって科捜研になるのか ─「公務員×理系×化学」で探したら、ここに行き着いた─
この章では、科捜研の「なり方」のリアルがわかります。
きっかけを聞いたら、すごく彼女らしい答えでした。
「公務員で、理系で、化学か生物が活かせる仕事」で探したら、科捜研だった。
最初から「科捜研になりたい!」と憧れていたわけじゃない。条件から逆算して、たどり着いた答えが科捜研だったんです。(このあたり、私が条件で就職先を絞っていったのとよく似ていて、勝手に親近感がわきました。)
科捜研は、警察の科学捜査研究所。採用は、各都道府県警察の職員採用試験の「専門区分」で行われます。
区分は、化学・物理・法医・文書心理など。自分の専門に近い区分で受けるのが基本です。理学部や薬学部出身なら化学、工学系なら物理、というイメージですね。
学歴についても聞いてみました。
学部卒と修士卒が、だいたい半々。博士はほんの数人。
これ、地味にすごく大事なポイントだと思っています。
研究職の世界って「院に行ってないと不利」という空気がありますよね。でも科捜研は、学部卒でも十分に目指せる場所なんです。理系で進路に迷っている学生さんに、いちばん伝えたい事実かもしれません。

友人の戦略は、私の中堅企業就活と同じだった ─「低倍率」を狙う─
ここでは、確実に受かるための受験戦略の話をします。
科捜研の倍率は、決して低くありません。区分や年によって幅がありますが、人気の区分だと数十倍から100倍を超えることもあります。
ただ、ここに戦略の余地がありました。
法医や化学は人気で激戦。一方、工学・心理・文書あたりは倍率が低めの「穴場」になりやすい。
そして科捜研は、欠員や増員が出た県・区分にだけ募集がかかります。つまり「受けたい県に毎年募集があるとは限らない」。だからこそ、募集のある県を広く探して受けるのが基本になります。
私の友人がとった戦略は、まさにこれでした。
倍率の低い区分・県を狙って、少ない労力で確実に科捜研に入る。
しかも、公務員一本に絞らず、民間企業も数社、試験対策と並行して受けていた。リスクを片方に寄せすぎない受け方です。
この話を聞いたとき、「あ、それ私もやった」と思いました。
私も就活のとき、知名度の高い大企業に正面から突っ込むのではなく、確実に自分が活きる中堅メーカーを狙いにいきました。その話は院進率9割の学科で、ひとりだけ大卒で研究職を目指した記事に全部書いています。
「正面から殴り合わず、確実に勝てる土俵を選ぶ」
分野は違っても、彼女と私の戦い方は、根っこが同じでした。
科捜研の1日と、民間研究職の私との「決定的な違い」
この章が、今回いちばん書きたかったところです。
まず、科捜研の1日の流れ。
ほぼ一日を通して、鑑定の作業。その合間に、書類作成などのデスクワーク。
派手さはありません。地道に、実験と分析を積み重ねる毎日です。
忙しさの「質」も、民間とは違いました。人の出入りが多い時期は忙しくなるけれど、その繁忙期はある程度予測できるそうです。
ここ、民間で働く私にはまぶしく感じた部分でした。
(うちは、急に大きな受注が入ったり、出張がねじ込まれたりして、計画が吹き飛ぶことがある…)
民間の研究職は、顧客がいて、市場があります。私の今の仕事は、需要を分析して、企画を練って、お客さまに価値を届けていく。だから外の動きに振り回されることも多い。
でも彼女の働き方は、そこが根本的に違いました。
そして、やりがいの話。彼女の言葉が、すごく印象に残っています。
「利益の追求じゃなくて、治安維持っていう公益性のある目的が、自分の考えと合っているんだ」
事件の解決に大きく貢献できたとき、いちばんやりがいを感じる、と。
私はこれを聞いて、改めて考えました。
どちらも「人のために働く」という点は、まったく同じです。でも、需要を読んで企画を立てて利益を生む働き方と、公益のために淡々と技術を尽くす働き方は、やっぱり別物なんだと感じました。
どっちが上、という話ではありません。
大事なのは、その目的が、自分の心と合っているかどうかなんだと思います。

「安定」の裏側にある、副業禁止という制約
ここでは、公務員ならではのメリットと制約を、正直に書きます。
メリットは、はっきりしています。
安定した勤務地と給料。そして、異動・転勤がない。
採用された県で、勤務先はずっと固定。これは、生活の基盤を腰を据えて作りたい人には、かなり大きな魅力です。
でも、裏側には制約もあります。いちばん大きいのが、副業禁止。
副業しているからこそ、私はこの話に思うところがありました。
(AIのことも、税金のことも、自分で稼いでみたから学べた。その機会が、まるごとなくなってしまうのはもったいない…)
ちなみに、公務員が副業を禁止されているのには理由があります。職務専念義務・守秘義務・信用失墜行為の禁止という3つの原則です。個人の行動が、そのまま役所の信用に直結してしまうから、厳しく制限されてきました。
つまりこれは、「圧倒的な安定」を取るか、「不安定でも成長しやすい環境」を取るかという、わりと難しいトレードオフなんだと思います。
転勤や年収の先行きが読めなくても、自分で動いて学べる環境を選ぶのか。それとも、安定を土台にじっくり積み上げるのか。正解は人によって違います。
(ただ、最近は地方公務員の副業・兼業を緩める動きも出てきています。制度は、少しずつ変わりつつある。)
理系公務員の「次の一手」
最後に、これを読んでくれているかもしれない科捜研の親友や、理系公務員を目指す方へ。あなたの専門性は、外でもちゃんと通用します。
公務員での経験は、民間や他の研究機関から見ても、「確かな技術力」と「高い倫理観・信頼性」の証明になります。専門分野を活かせる場所を狙うなら、むしろ有利に働きます。
副業もできて、理系の専門性を活かせる出口を、私なりに4つ挙げてみます。
① 企業の知財部・特許事務所(知財スペシャリストや弁理士など)
研究職が知財を武器にする話は、この記事に詳しく書きました。技術がわかる人の知財は、本当に強いです。
② 民間メーカーの研究開発・分析・評価・品質保証
科捜研で培った分析の精度は、そのまま価値になります。
③ 受託分析機関・環境調査会社
分析そのものが事業の会社。専門性が直接活きる世界です。
④ 国立研究開発法人(産総研、理化学研究所、NIMS、NITE など)
ここが面白いところで、研究成果を社会に還元するために「兼業」が奨励されている機関もあります。技術顧問のような形で、外で活躍できる余地がある。同じ「公的な研究」でも、副業禁止の科捜研とはルールが違うんです。
つまり、「公的な研究職=副業できない」とは限らない。働き方の選択肢は、思っているより広いということです。
おわりに ─どの道にも、その人に合う正解がある─
理系公務員に向いているのは、こんな人だと思います。
黙々としたラボワークが好きで、安定した場所で腰を据えたくて、ひとつの分野を深めたい人。そして、公益のために働くことに、心から納得できる人。
逆に、副業や兼業で多方面に挑戦したい人、環境の変化を楽しみたい人、スピード感のある事業に関わりたい人には、少し窮屈かもしれません。
最初に書いた、母の「あの科捜研だよね?」という言葉。
ドラマの中の科捜研は、事件を追いかけるスリリングな世界でした。でも現実の科捜研は、もっと静かで、もっと地道で、「治安を守る」という目的に、まっすぐな場所でした。
ドラマと違う。でも、ドラマよりずっと、その人の生き方に近い。
民間も、公務員も、上下はありません。大事なのは、自分がどういう働き方をしたいか。副業も含めて、そこから逆算して、就職先や転職先を考えていく。それが、私なりの結論です。
最後に、あなたに聞かせてください。
あなたが今、キャリアで一番悩んでいることは、何ですか?
よかったら、コメントで教えてください。あなたの悩みが、次に書く記事のテーマになるかもしれません。
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