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"博士に進んだら詰む"って本当? ─シゴデキ研究者たちから聞いたキャリアのリアル ─

「博士に進んだら就職が詰む。」

一度は聞いたことがある、この言葉。
ポスドク問題、就職難、アカデミアの不安定さ……SNSを眺めていると、暗い話ばかり流れてきます。

でも私の周りには、博士号を持ちながらいきいきと働いている人が何人もいます。

科捜研、公的研究機関、大手企業、そして研究の最前線。それぞれの場所で自分の道を歩んでいる人たちです。

今日は、そのうちの何人かから直接聞いた話を書きます。

「博士卒のキャリア」は、思っているよりずっと広い。
そのことを、知ってほしいと思っています。

ちなみに、学部卒で研究開発職に就いた実体験についても記事にしています(その話はこちら👇)」。来週に、院進や院生の理系キャリアについても記事にまとめます。


「詰む」説の正体

まず、正直に書きます。

「博士 = 就職が詰む」という話が生まれる背景には、それなりの根拠があります。

アカデミア(大学・研究機関の正規ポスト)を目指す場合、競争は相当に厳しい。
ポスドクとして複数の期間雇用を渡り歩き、安定した職を得られないまま年齢を重ねてしまうケースがある。これは現実です。

でも「詰む」かどうかは、どのルートで博士号を活かすかによって、全然違う話になります。

博士卒の進路は、大きく4つあります。アカデミア(大学・研究機関でのポスト)、公的機関(技術系の公務員など)、独立法人・国立研究所、そして民間企業

今回話した人たちは、それぞれ異なるルートにいます。


4人のシゴデキ研究者、それぞれの「今」

実際に話を聞いた人たちを、ここで紹介します。

プライバシーの観点から固有名詞は出しませんが、全員、実際に私が直接話した人たちです。

① 科捜研の友人(入所3年目)

この友人自身は院卒での就職でしたが、博士卒の方もいるとのことなので、彼女から聞いた話も交えて書いていきます。

私が「友達が科捜研に入った」と伝えたとき、母のテンションが跳ね上がりました。(確かに、かっこいいと思う。)

科学捜査研究所は、各都道府県の警察に所属する研究機関です。事件現場から採取された証拠物の鑑定を行う、地方公務員の専門職。化学・生命科学・物理といった専門区分ごとに分かれていて、理系の知識がダイレクトに活きる仕事です。

ひとつ、意外だったのが「試験の仕組み」です。

採用試験自体は「大卒程度」と書いてあります。でも、現場の業務は専門性が非常に高い。ゆえに合格者の多くは院卒(修士以上)になる、というのが実態のようです。
(単純に応募者の比率が反映されているだけかもしれませんが。)

友人は科捜研を募集している都道府県を探して受験しました。また、競争率の高い都心ではなく地方を受験する戦略をとり、確実に就職できるようにしたようです。

欠員補充が基本の採用なので、年によって空きがない分野もある。この「狭き門」感は、知っておいてほしいところです。

ちなみに、ドラマのイメージとの違いについては「意外と解剖みたいな生々しい場面はない」と言っていました。(地域差はあるかもしれませんが。)

公務員なので副業はできない。それをデメリットに感じる人もいるかもしれません。ただ、それを差し引いても「専門知識を社会の安全に直接使える」というやりがいは、民間ではなかなか得にくいものだと思います。

👇この友人から直接ヒアリングして深掘りしました。

② 国立研究機関に派遣中の友人(博士課程在籍)

博士課程に進んだ友人のひとりは、今、著名な国立研究機関に派遣されて研究をしています。

(固有名を出すと特定されるため、ここでは伏せます。)

マシンタイムというものがあって、使える実験装置の時間が限られています。だからその時間帯に合わせるために、夜遅くまで実験室に残ることも、土曜日に出勤することも、普通にあるそう。

「それ、しんどくないの?」と聞いたことがあります。

「まあ、やりたいからやってるし」と言っていました。

(私には無理だ、と正直に思った。)

でも同時に、本当にかっこいいとも思った。

自分のやりたい研究があって、そのために環境を選び、ルーティンを組み立てている。それを「しんどい」より先に「やりたいからやってる」で語れる人が、研究者として本物だと私は思っています。


③ 博士課程を歩む友人(卒業に向けて研究中)

もう一人の友人は、博士課程を進行中です。

博士号を取るためには、一定数以上の論文を出すことと、指導教員から「合格」をもらうことが必要です。数年かけて自分の研究を積み上げて、ようやくスタートラインに立てる。

博士に進んだだけでも、十分すごいことだと思っています。さらにそこから卒業するのは、もっと難しい。

「大学の研究環境がしんどいから、卒業後は企業か国立の研究機関を考えている」と話していました。(アカデミアが必ずしも理想の環境とは限らない、という現実もそこにあります。)

それでも研究の道を選び続けている。その姿勢を、私は本当に尊敬しています。

0から1を作れる人がいるから、私のようにメーカーで開発をしている人間が新しい製品を作れる。博士に進んだ人が、やりたい研究を続けていける環境になってほしいと、切実に思います。


④ 博士号を持つ取引先のベテラン研究職の方

これは少し毛色が違う話です。

仕事柄、いろんな企業の研究職の方とお会いします。その中に、博士号を持つ方が何人かいます。

名刺に「博士」と書いてある方と話すときの第一印象、毎回同じです。

「この人、話の仕方が違う。」

博士だと聞く前から、すでにわかります。技術の説明が、根拠の積み方から違う。「なぜそうなるか」の因果関係が、非常に丁寧に整理されている。連絡も、情報の優先度の付け方が明快で、無駄がない。

企業の開発現場では、「いい特性は出たけど、理屈はよくわからない」という段階でサンプルを提供することもあります。そのとき、理屈をきちんと把握している担当者がいると、安心感がまったく違う。

「博士号が企業でどう活きるか?」という話を、理屈ではなく実感として知っています。


「詰む」と「詰まない」の分かれ目

4人の話を聞いてきて、感じていることがあります。

キャリアとして詰まない人たちに、共通するものがある。

それは「自分がやりたいことへの解像度が高い」こと、そして「その目的に合わせて進路を選んでいる」こと。

科捜研の友人は「専門知識を社会の安全に使いたい」「公務員としての安定性を得たい」という軸があった。だから公務員の採用を受けた。

研究を続けている友人たちは「自分にしか作れない研究がある」「0から1を生み出したい」という感覚で動いている。

取引先のベテランの方は、「より顧客に近い立場でのやりがい」「安定した福利厚生」を求めて、博士という専門性を企業の中で存分に活かしている。

「博士 = 詰む」ではない。でも「博士 = 誰でも向いている」でもない。

進んだ後のキャリアに不安があるなら、まず「自分がやりたいことは何か」を先に整理する。そして、その目的に博士という選択肢が合っているかを検討する。それだけのことだと思っています。

院進するか、博士まで進むかを悩んでいる人に、私が届けたいのはそのことです。

どんな選択肢があるかを知ったうえで、自分に合った道を選んでほしい

そのための発信を、これからも続けていきます。

私の周囲にいるいろんな方々については、他の記事でも紹介しています(こちら👇)


おまけ:理系公務員・研究職のルート、整理しておきます

「科捜研に興味が出た」「公的機関の研究職ってどんな感じ?」という方のために、簡単に整理します。

科捜研(科学捜査研究所):各都道府県警察に所属する地方公務員。試験は「大卒程度」ですが、専門区分(化学・生命科学・法医など)ごとに受験します。採用は欠員補充型なので、年によって枠がない分野もある。年齢制限(多くの自治体で29歳前後)の壁があるため、博士課程修了後はタイミングがギリギリになる場合もあります。

科警研(科学警察研究所):科捜研とよく混同されますが、こちらは国家公務員(警察庁)。メイン業務は「新たな鑑定技術の開発」と「全国の科捜研員向けの技術指導」です。採用は国家公務員試験ルートになります。

国立研究開発法人(産総研・理研など):厳密には「みなし公務員」ですが、研究環境は大学に近い。近年は副業規定が緩和されている機関もあり、起業や技術顧問といった活動が認められやすいのも特徴です。

特許庁 特許審査官:最先端技術の特許を審査する専門職。化学・生命科学系の知見が直接活かせます。国家公務員試験を経て採用されます。

公務員系は副業がほぼできないという制約があります。「副業や個人での発信も大切にしたい」という方には、国立研究開発法人か民間企業という選択がより向いているかもしれません。

博士卒のキャリアは、アカデミアか企業かの二択ではない。

公務員、公的研究機関、企業研究職、独立行政法人。選択肢は思っているよりずっと多く、それぞれに向いている人がいます。

「博士に進もうか迷っている」「進んだ後のキャリアが不安」という人が、この記事を読んで少し視野が広がったなら嬉しいです。

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▶ 科捜研(地方公務員)で3年目を迎えた親友に、 なり方・倍率・働き方・民間との違いを詳しく聞いてきました👇


📣 次回予告
次回は、「そもそも院進すべきか、学部就職すべきか」という話を、私自身の選択と周囲の声を交えてもう一段深く書きます。

今回の記事に登場したシゴデキ研究者たち(博士課程・科捜研・公的機関・企業)の話を踏まえながら、
「では、自分はどちらを選ぶべきか?」
というより個人的な問いに、正面から向き合います。

院進率9割の学科で、ひとりだけ学部卒を選んだ
当時の自分の迷いと葛藤も、包み隠さず書くつもりです。

GW中にぜひ読んでほしい記事です。

▶ 5月5日(火)12時 公開予定

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