見出し画像

【心震える本】人生を変えた1冊、島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件』ーーの前に伊坂幸太郎さんありがとう

 読書を通して小さな幸せを分け合いたい。みなさんこんにちは😊ミステリ大好きの涼原です。

 今日はひたすらに1冊の本について語ります。ミステリ作家・島田荘司氏による名探偵・御手洗潔(みたらい きよし)シリーズの1冊。notoを始めた時からいつか書きたいと思っていたこの話(長いぞ)。  

 マニアックな内容なので、ご興味ある方のみお願いします!
 こんな方におススメです。

謎解き、歴史ミステリが好きな方
・「伊坂幸太郎さんありがとうって?」と気になる方
・「脳科学?ちょっと興味ある」という方
・「安楽椅子探偵?ちょっと興味ある」という方

※核心的なネタバレは避けますが、『ロシア幽霊軍艦事件』について中盤まで触れます。未読の方はご注意ください。

「気心知れた仲間が集まる読書会で、
推し本についてずっと話している人」のイメージで最後までいきます(笑)。この本に感動できたことが自分の個性そのものなんです。皆さんにはそういう1冊、ありますか?✨


****************
 
 ――人間とは脳なんじゃないか。少なくともその視点は欠かせない。

 そう感じるようになったのは20代なかば、今から25年近く前のことでした。

 当時は脳トレブームもまだで、脳科学という言葉も一般的にはあまり聞かない時代。ところがある1冊の本からその視点を持ったことで、私の人生はガラリと変わったのです。

 と言っても「それで転職を決意した」とか「心の傷が癒えた」とかではありません。ただ、脳科学というアプローチを知っただけで劇的に生きやすくなったのです。

 そのキッカケがそう――島田荘司氏の『ロシア幽霊軍艦事件 ―名探偵 御手洗潔―』

 ん・・・どの辺が脳科学? という点は追々わかるとして。

 まずこの本の魅力を語るにあたり、要素がたくさんあるので目次をつけます。お好きなところから読んで頂いて構いません。

 とにかくこれ、島田さんのファン以外には「何も考えずに読んでみて!」と気軽に手渡せる本ではーーちょっとない。

 少なくとも1冊は御手洗シリーズを読んでた方がいいかなぁ。あれ、どうだろう?

 それについても考えながら話していきますね!



(1) 前段階として必要な作品は?

 
 まずこれは名探偵・御手洗潔シリーズの15作目。刊行は2001年。もちろんこれ以前の14作全部を読む必要はありません

 ファンとしては「順番に読んでみて」と言いたいところですが、小説1冊を読み切るのは簡単じゃないですよね。

 なので、まずは基本として島田さんのデビュー作であり、御手洗シリーズの1作目である『占星術殺人事件』をオススメします。

 2作目『斜め屋敷の犯罪』も面白いですが、『ロシア幽霊軍艦事件』を楽しむうえで不可欠というわけではありません。

(今回はあくまで『ロシア幽霊軍艦事件』を読むにあたってという視点で話しています)

 続いてシリーズ3作目『御手洗潔の挨拶』は短編集なのでちょっと置いといて。4作目『異邦の騎士』は、シリーズ中の異色作にして感動作。個人的には私の人生の1冊と言っていいくらい好きなので、オススメしたい気持ちもありますが・・・。

 けれどこれまた『ロシア幽霊軍艦事件』を満喫するうえで不可欠か、という視点からするとそうでもない。

 『占星術殺人事件』と『異邦の騎士』の2作は探偵・御手洗とワトソン役・石岡との関係性を知るうえで非常に重要な作品。でも今回の場合はもしかしたら最低限『占星術~』だけでいいのかもしれません。

 なんと言っても『ロシア~』と『占星術~』はミステリとしてかなり面白い共通点があるんです! これは後述するとして。

 一応、御手洗シリーズの過去作品について書いた記事を以下に貼っておきますね(2作分しかないけど)。

【心震える本】島田荘司『異邦の騎士』を読んで、信じられるものはここにあると思えた↓↓↓(シリーズ4作目)

【心震える本】島田荘司『占星術殺人事件』の何がそんなにすごいのか? ーー複雑と明快のバランス、小説でしか味わえない謎解きの爽快さここに極まれり!↓↓↓(シリーズ1作目)


(2)  なぜ「伊坂幸太郎さんありがとう」?


 さて、伊坂幸太郎さんファンの方は気になったのではと思います。

 実は『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』等で知られる大人気作家・伊坂幸太郎さんは島田荘司さんの大ファンを公言していらっしゃるのです。

 10年以上前の刊行になりますが、『3652 伊坂幸太郎エッセイ集』(新潮文庫/税別670円)のなかでも島田作品について何度も触れていますし、

「島田さんの小説を読んでいなかったら、ミステリーを書いていなかったと思います」

 とまで書かれているんです(同p267より)。

 さらに! 同書内「豊かで広大な島田山脈の入り口」というエッセイのなかで「島田荘司の10冊」を選出、そこにこの『ロシア幽霊軍艦事件』がランクインしています。

 これ、けっこう凄いことなんですよね!

 だって伊坂さんがこのエッセイを書かれた2013年の時点で島田作品は数十冊、御手洗シリーズだって30冊近くある(ちゃんと数えてなくてすみません)。

 そこから『ロシア幽霊軍艦事件』が選ばれているわけです。御手洗シリーズ内では(体感として)それほどメジャーじゃない作品なのに、伊坂さんが推薦してくださっているーーこの喜びよ! 主よ、人の望みの喜びよ(byバッハ)✨

 「『御手洗もので、大長編ではない長編』というものは非常に貴重で、それだけでも強く推薦したい」(同p388より)とあり、読みやすさが理由のひとつでもありますが、もう

「そうですよね! ですよねーー!」

 と仙台に向かって叫びたいくらいです(ちなみに『ロシア~』は手元の文庫で本編371ページ)。

 だから私は「この本は伊坂幸太郎さんも推薦されているんだよ・・・」とドヤ顔で相手ににじり寄ることができます(誰に)。後ろに伊坂さん。こんな心強い援軍があるでしょうか。

 ありがとうございます!

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
※補足1:ちなみに伊坂さんは同書内で、島田作品について「『占星術殺人事件』から入ろうとして挫けちゃう人もいるような気がして」と書かれています(p382-383より)。そういう意味でも『ロシア幽霊軍艦事件』をご推薦。もうね、いきなり読んでもいいのかも!

※補足2:伊坂さんの著作をほぼ一度もnotoで紹介したことがないのに、こちらが先になってしまい申し訳ありません。大好きな本はたくさんあります。中編ですが『ポテチ』が特に好きです←『フィッシュストーリー』所収)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、ここから物語の内容に入ります。ちなみに犯人当てではなく「真相」を探るミステリです


(3)『ロシア幽霊軍艦事件』はどんな話?〈ファンレター編〉


 ではあらすじを、手持ちの文庫の裏表紙から抜粋させていただきます。

湖から一夜で消えた軍艦。
秘されたロマノフ朝の謎。

 箱根、富士屋ホテルに飾られていた一枚の写真。そこには1919年夏に突如芦ノ湖に現れた帝政ロシアの軍艦が写っていた。四方を山に囲まれた軍艦はしかし、一夜にして姿を消す。巨大軍艦はいかにして、〝密室〟から脱したのか。その消失の裏にはロマノフ王朝最後の皇女・アナスタシアと日本を巡る壮大な謎が隠されていた――御手洗潔が解き明かす、時空を超えた世紀のミステリー。

島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件』(新潮文庫)
裏表紙あらすじより


 話の導入がまず魅力的なんです。
 時は1993(平成5)年の夏。横浜の馬車道で暮らす御手洗と石岡のもとに、アメリカから手紙が届きます。

 差出人は2人の友人であり、ハリウッド女優でもある松崎レオナ。
 レオナはエイジェントから「数年前にレオナ宛に届いたファンレターが見つかった」と知らされますが、それがちょっと変わった内容。「きっと興味がおありになると思います」と御手洗へ送ってきたのでした。

 このファンレターを書いたのは横浜の倉持ゆりという若い女性。「いつも応援しています」ーーと前半は普通なのですが、途中から不思議なことが書かれています。

 一部抜粋すると・・・

「(前略)というかすごく変なお願いで恐縮なんですけれど、お爺ちゃんの遺言になってしまったので、一応義務と思って書いています。(中略)ヴァージニア州のシャーロッツヴィルに住むアナ・アンダーソン・マハナンさんに、倉持が謝っていたと、そう伝えて欲しいって言うんです。ただごめんなさいって言えばいいのと訊くと、ベルリンでは本当にすまんことしたと、そう言って欲しいって言うんです。(中略)それから、富士屋っていう箱根のホテルの、本館一階のマジックルームの暖炉の上にかかっている写真を、マハナンさんに見せて欲しいって(後略)」

島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件』(p9-11より)

 
 92歳で亡くなった倉持ゆりの祖父、倉持平八が、アメリカに住むアナさんに謝罪したがっている。それを、なぜかハリウッドスターの松崎レオナに頼んでいるーー。しかも「富士屋ホテルの写真」って何?

 ――という魅力的な謎なんですね。ミステリ好きの心をくすぐります。


この手紙がね・・・もう伏線だらけなんです。

(4)『ロシア幽霊軍艦事件』はどんな話? 〈幽霊軍艦編〉


 で、興味をひかれた御手洗と石岡は、家のクーラーが古いこともあって避暑も兼ねて箱根に移動。

 富士屋ホテルで例の写真について調べるわけですが、ここから「ロシア幽霊軍艦事件」が本格的にスタートする感じです。

 富士屋ホテルの支配人は言います。「今は倉庫にある」というその写真には

「大正8年――1919年のある夜、芦ノ湖に現れたロシアの幽霊軍艦が写っているんです」

 
と。そしてその数年前のロシア革命で殺された皇帝ニコライ二世の亡霊が、軍艦に乗って、日本訪問の際の思い出の地へ戻ったのだろうーーと言う人までいるのだと。
 
  そんなことある?  
 それになぜ倉持はその写真をアナさんに見せたいの?

 ーーさらに後日、アメリカの松崎レオナが「シャーロッツヴィルのアナ・アンダーソン・マハナンさん」について調べた結果、興味深いことがわかります。

 それは、アナさんが数々の迷惑行為で近隣住人に迷惑がられていたこと。

 さらには「自分がロシアの皇女アナスタシアだと認めるように」という裁判まで起こしていた! ということ。

 だんだんスケール感が増してきましたね。
 

言うまでもなく芦ノ湖は箱根の山奥。そこに軍艦が現れたり消えたりする訳はない。でも大正時代の写真にちゃんと写っていて、見た人もいるーーという謎(写真は現代の芦ノ湖)


(5)大小さまざな3つの謎ーーどれが1番気になる?


 いったん整理すると、この小説には大別して3つの謎、読みどころがあります。

【謎その1】大正時代の箱根、芦ノ湖に現れて消えた「ロシア幽霊軍艦」とは何か?

【謎その2】倉持平八は何を謝罪したいのか? アナは本物のアナスタシアなのか? 本物にせよ偽物にせよ、なぜ彼女は奇行を重ねるような数奇な運命をたどることになったのか

【謎その3】御手洗は倉持ゆりのファンレターから何を読み取ったのか? 物語なかば、ある場所で御手洗が突如として披露する、驚愕の真相とは

 その1はもう、最大級の誉め言葉として「あまりにも島田荘司」。まさに幽霊? としか思えない不可解な謎に対し、合理的な説明。それでいてロマンがある。いいですねぇ。

 謎その2を読み解くと、ロシア革命の残酷さがわかります。小説自体はフィクションですが、ロシア革命に関しては史実。戦争や革命って結局は人殺しで、不幸な人を増やしているだけーーという理不尽さをひしひしと感じます。

 これから読まれる方は、面白いミステリであると同時に、残酷な物語だということを頭に入れておいてくださいね。

 謎その3ですが、個人的にいちばん好きな謎。一見それほど重大事でもない手紙を読み解く。これに関して小説の中盤で、とてつもなく面白い御手洗の謎解きが始まります。

 御手洗と石岡、アメリカから来たジャーナリストであるジェレミーの3人で訪れた、本当に「なんでもないような」ある場所で。

 マジでーーーーーーー! 
 と私は叫びました。
 ある人物に関する情報が分かった時。

 こういう、無関係そうな出来事がキレイに繋がっていく気持ち良さが島田作品、御手洗シリーズの大いなる魅力なんですよね。
 
 そしてこれ、前述しましたが悲しいドラマでもあって。

 つまるところ、「必死に生きた記録」です。
 

(6)歴史ミステリの醍醐味ーー必死に生きた結果の「謎」


 個人的な仕分けとして、ミステリにおける「謎」には大きく分けて2種類あると思っています。それは

(1)「犯人が犯行を隠すために仕掛けたトリック」

(2)「必死に生きた結果、当人はそうするしかなかったことが、後の人間にとっては謎として残る」

 社会派ミステリや歴史ミステリは主に(2)ですよね。

 この物語でも、すべてが分かった時、悲しみと感動が静かに広がります。

 ーーにしても、いろんな面で実写化は無理そうな内容だなぁ、と思ったりして。

ロシア革命でニコライ2世の四女「アナスタシア」だけが生き延びたのではないか・・・という説は映画やアニメ等になっていて、御存知の方も多いかと。アメリカにはかつて実際に「アナ・アンダーソン・マハナン」という女性がいて、島田さんはそこから着想を得てこの小説を書かれています(写真は現代のエルミタージュ美術館)


(7)レオナ初登場作『暗闇坂の人喰いの木』は未読でも大丈夫?


 さて少し話を戻します。
 実はこの小説の謎解き、アメリカから手紙をくれた「松崎レオナの境遇」がちょっと関係しているんです。

 倉持平八と孫娘のゆりが(大スターである以外に)レオナを応援していた理由は?

 これは御手洗シリーズの読者なら「あぁなるほど」と理解できますし、もっと言えばレオナの初登場作品『暗闇坂の人喰いの木』を読み終えていればベストかも。

 ただ、『暗闇坂~』はけっこうな長編(手元の文庫で約730ページ)。ダークな内容ですし、「これも読んでおいてね」と気軽には言えません。

 と、ここで裏ワザ(?)ですが、実は次の情報さえ頭に入れておけば、『ロシア幽霊軍艦事件』を(御手洗シリーズ初めてでも)問題なく読むことはできるんです。たぶん。

【主な登場人物】←今さら

🔳御手洗 潔・・・横浜の馬車道に住む探偵。演説癖があり、変人と思われがちだが、弱者に優しい。犬が好き(本編にあまり関係はない)

🔳石岡和己・・・御手洗の同居人で、ワトソン役。作家(主に御手洗が遭遇した事件を小説にしている)

🔳松崎レオナ・・・初登場作品『暗闇坂の人喰いの木』で事件に巻き込まれ、御手洗に救われる。現在はハリウッド女優。スウェーデン人と日本人の混血

 私は20代の頃、上記のメモだけを仕事の先輩に渡して、「お願いだから読んでみてください!」とこの本をゴリ押ししたことがあります。

 先輩は何でも読める人だったので、数日後「面白かった。あのメモがなければ意味わかんなかったけど」と言ってくれました。が、我ながら強引だったと反省しております。カオリ姉さんすいません(若気の至り)。


美しい富士山と芦ノ湖。大正時代の方々も感動したことでしょうね。実は前に自分で撮った富士屋ホテルの写真が見当たらないんですよ(捜索中)。2020年にリニューアルしたそうですが、マジックルームは健在のようですね


(8)で、「脳の話」がどう関係するの?


 はい。約25年前の私がこれを読み終わった時、あまりの面白さ、インパクトに呆然としながら、いちばん衝撃を受けたものは何だろうと自問しました。するとそれは

 ーー脳って、すごい! 
 ーー
人間の脳って、なんて興味深いんだろう。

 だったのです。
 具体的には書きませんが、『ロシア幽霊軍艦事件』のある謎に関して、脳科学的な視点が大いに関係しています。

 知らないことだらけでした。
 目からウロコなんてものじゃありません。

 最初にも話しましたが、当時は脳トレブームも起こってないし、脳科学という言葉も一般的じゃない。

 世界的ベストセラーになった『話を聞かない男、地図が読めない女 男脳・女脳が「謎」を解く』(アラン・ビーズ、バーバラ・ビーズ共著)という面白い研究本が同時代にありますが、この時点で私は未読。

 ちなみに私の記憶では、この頃(2000年代くらい)から上記『話を聞かない男~』をはじめとした一般読者向けの脳科学関連本をよく見かけるようになりました。

(ほかにも契機はあったかもしれませんが、一般読者としては上記の本が世に与えたインパクトが強烈でした)

 とにかく私は脳科学に興味を持った。
 御手洗潔のおかげで。
 私にとってはミステリだったことに意味があります。

 おそらく直接的な脳の研究本の類を見かけても、手にしたかどうかはわからないからです。

(9)具体的にどう人生が変わったの?

 
 脳について、もっといろいろ知りたい!

 と関連本を読み漁るようになってから私はまず、当時仕事で頻繁に行っていたインタビュー取材が(ほんのちょっとだけ)上達しました。

 具体的には、男性(男性脳)への質問のコツをつかんだのです。

 それまでは、なぜ男性にインタビューすると「一問一答」になりやすいのか、正直言って謎でした(もちろんあくまで傾向の話。個人差は絶対的にあります)。

 質問の対策や失敗の分析もしやすくなり、「この先もやっていけるかも・・・」という自信も(少し)つきました。

 自分の体調やメンタルについても、脳科学的なアプローチで考えるとこうかな、と食べ物や休息方法を工夫するようになりました。

 当時はまだ一般に浸透しきっていなかった発達障害に関しても自分なりに調べるようになり、生まれながらの脳の特性についても考えるようになりました。

 脳科学的には10代、20代の脳はこういう段階。だから生きづらかったりするのね。私だけじゃないんだなぁ、とか。

 するとだんだん、人間が好きになりました。わかると楽しい。

 脳科学という視点を(素人なりにも)持つことで、劇的に生きやすくなったのです。

 「幸せを感じるにはセロトニンが重要なんだ!」と、とりあえずバナナを食べてみたり(笑)。

 20代の私にとって脳科学はポジティブな革命でした。前頭前野は素晴らしいとか、知ったからと言って急に賢くなったり人生が好転したりはしないけど、それでも世界が違って見えたのです。

AI研究も大事だけど私はもっと人間が知りたいです✨
ちなみに私は現在も男性(特に夫)と話す時、「結論から言う」
「集中している時に後ろから話しかけてもたぶん聞こえてない」等を意識してます
(そのほうが私がラクだから・笑)

(10)優しくて、賢くて、永遠の理想です

 
 ミステリ好きで良かった。島田荘司さんの、御手洗潔のファンでよかった。

 脳科学のほかにも地政学、国内外の歴史や世界情勢など多岐にわたる知識や切り口を私の人生にもたらしてくれた名探偵・御手洗潔。

 それだけでなく、「人としての温かさ」もこのシリーズにはあって。

 『ロシア幽霊軍艦事件』も、「倉持平八さんの遺言を誰かが叶えてあげなければ」という御手洗の信念によって謎解きが進みます。

 優しいんです(弱い立場の人に)。賢いだけでなく。私の永遠の理想です。

 脳科学に関しては、もしかしたら現代の読者がこの作品を読んでも当時の私ほど驚きはしないのかもしれません。

 それでも壮大な歴史ミステリとしての魅力はなんら損なわれるものではない。だって私は、いくら脳科学の話が興味深くても、この本がミステリとして面白くなければすぐに忘れてしまったと思いますから。


謎解きをするのが探偵、心まで解くのが名探偵


(11)「安楽椅子探偵」好きの方、お待たせしました


 最後にこれーー安楽椅子探偵ものの名作! と言っていいと思います。
 
 安楽椅子探偵、好きな方多いですよね。客観的事実を知るだけで真相をズバッと言い当ててしまう。カッコイイ✨

 本作で御手洗と石岡は、「馬車道から富士屋ホテル」くらいの移動はしている。でもそれ以外はほぼ調査らしい調査をしていません。なにせ、すべてがすっかり終わっている出来事ですから。なので

「倉持ゆりのファンレター」
「ホテル支配人から聞いた写真の情報」
「ロシア革命の客観的事実」
「アナ・アンダーソン・マハナンに関する客観的事実」
「当時のさまざまな世界情勢」

 
を照らし合わせて、大正8年(前後)に何が起こったのか、の謎を解いています。

 ――と、ここまで読んだ御手洗ファンの方、あれ、何かに似ているな・・・と思われませんか? 

 そう、『占星術殺人事件』の解き方に似ているんですね! 

 あれも実質、御手洗は安楽椅子探偵でした。1936(昭和11)年に起こった迷宮入り事件を、40年後の1979(昭和54)年に、手に入る限りの情報を集めた結果、論理で真相を導き出していますから。

 
 ちなみに今、手元に雑誌「ダ・ヴィンチ」の2016年6月号があるのですが・・・(『星籠の海』映画化記念の「御手洗潔」特集)。

 そのなかの「島田荘司ロングインタビュー」で島田さんがこうおっしゃっています。

「『占星術殺人事件』には女のバラバラ死体が出てきます。けしからん、戦前のミステリーのようないかがわしい作品を書くなんて、と激しくバッシングされました。それは誤解なんです。たしかにバラバラ死体は出てきますが、中心にあるのは論理的なパズルの面白さ。高木彬光さんの『成吉思汗の秘密』のパターンを踏襲した本格ミステリーなのに、そこがまるで理解されなかった」

「ダ・ヴィンチ」2016年6月号 p25より

 
 いやもうね、本当、おっしゃる通りで(ご本人なんだから当たり前)、こんな面白い論理パズルを「けしからーーん」とか言ってしまうのは非常にもったいないことですよ。

(当時の話なので、今はもうそんなことを言う人はいないと思いますが)

 インタビューに出てきた高木彬光さんの『成吉思汗の秘密』も、日本のミステリ史に残る傑作です。興味のある方は調べていただきたいのですが、歴史ミステリであり、資料等から真相を読み解く安楽椅子探偵ものの魅力がギュッと詰まっている。

 さらに考えると、ある意味では『成吉思汗の秘密』と『ロシア幽霊軍艦事件』のほうが 歴史×安楽椅子探偵ーーという共通点があるわけで。なんならこの2作の共通点のほうが多いかも。『占星術殺人事件』と『成吉思汗の謎』よりも。

 日本の本格ミステリのなかでも「安楽椅子探偵の名作」というラインを、上記の切り口から追ってみるのも楽しいかもしれません。

 こんなことを考えているとワクワクし過ぎて困ります(大丈夫?)。

 ーーさて、ロマン溢れる歴史ミステリ。

 パズルのピースがすべて埋まり壮大な謎が解かれた時、生身の人間のドラマチックな生き様が迫ってくる。

 私はこんな謎が大好きです😊

 

この作品が好き過ぎて私、15年前の新婚旅行で富士屋ホテルに宿泊しました(ええっ、笑)。聖地巡礼ーーいつか書ければと思います(写真は箱根登山鉄道の宮の下駅。富士屋ホテルの最寄り駅ですね。御手洗たちもここに降り立ちます)


 ――長くなりました(ほんとにね)。

 もし興味がありましたら『ロシア幽霊軍艦事件』、ぜひお手に取ってみてください。伊坂さんも推薦されています(しつこい)。

 そして余談ではありますが、島田荘司さんと伊坂幸太郎さんが本格ミステリについて対談したキンドル限定本があります。

[対談]本格ミステリーの深淵を覗く Kindle版
島田荘司 (著)伊坂幸太郎 (著)/550円 (2024年12月刊行)
『島田荘司全集IX』の付録に収録された島田荘司さんと伊坂幸太郎さんの対談。3時間を超える対談となった全体を収録した完全版を電子書籍限定で刊行。二人の本格ミステリージャンルへの熱い想いや創作論について語り尽くします。

Amazon紹介ページより

 読んだらどっぷりハマりそうなのでずっと我慢していたのですが、ついに先日読んでしまいました。自分へのクリスマスプレゼントとして🎄

 主に伊坂さんが島田作品への愛を語っている印象が強かったです。
 好きな人の前では誰もが可愛くなってしまうんですね💞
 私の大好きな『異邦の騎士』の話もあって、大変、大変面白かったです! 

 このこともいつか書けたらいいなぁ。


対談記事って面白いですよね。伊坂さんが同書内で「アメリカのドラマ『メンタリスト』の主人公と御手洗潔が似ている」とおっしゃっていて、やっぱそうだよね、と感動しました。大好きなドラマだったので(全部観てます)


御手洗潔シリーズ『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』(島田荘司/新潮社/税別1600円)を最近読み直したのですが、密室の謎と共に人の温かさが解かれるストーリーに泣きました。「謎と情」のかけ合わせが達人級に凄いんですよ。いや達人なんですけどね


*****************
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
素晴らしい読書体験がたくさんの方に訪れますように!
個人的には今年、これを書けただけでも非常に満足です✨
*****************

〈本デ-タ〉※基本的に手持ちの本によるデータです

『ロシア幽霊軍艦事件』(著者 島田荘司/新潮文庫/税別670円)※単行本発売日:2001年10月
『改訂完全版 占星術殺人事件』(著者 島田荘司/講談社文庫/税別838円)※単行本発売日:1981年5月
『斜め屋敷の犯罪』(著者 島田荘司/講談社文庫/税別619円)※単行本発売日:1982年2月
『改訂完全版 異邦の騎士』(著者 島田荘司/講談社文庫/税別695円)
※単行本発売日:1988年4月
・『改訂完全版  暗闇坂の人喰いの木』(著者 島田荘司/講談社文庫/税別1200円)※単行本発売日:1990年11月
ーーーーーーーーーーーーーーー
『3652 伊坂幸太郎エッセイ集』(著者 伊坂幸太郎/新潮文庫/税別670円)※単行本発売日:2010年12月(その後2015年の文庫化に際しエッセイ、掌編を追加収録。島田さんの話も文庫で追加された内容かと)
ーーーーーーーーーーーーーーー
『話を聞かない男、地図が読めない女 男脳・女脳が「謎」を解く』(著者 アラン・ビーズ、バーバラ・ビーズ/訳 藤井留美/主婦の友社/税別1600円)※単行本発売日:2000年4月
ーーーーーーーーーーーーーーー
『成吉思汗の秘密  ー高木彬光コレクション 新装版ー』(著者 高木彬光/光文社文庫/税別900円)
※一番最初の単行本は、ウィキペディアによると1958年10月のようです。ちなみに私の手元の文庫もすごく古い(消費税の記載がない!)ので、新装版↑↑↑をおススメします

********************


・【心震える本】シリーズ、よろしければこちらもどうぞ

アガサ・クリスティ-『春にして君を離れ』は極上のミステリーだとやっぱり思うから↓↓↓


塩田武士『存在のすべてを』は2024年に読んだ最高の社会派ミステリー…ここに「人間」がいると確かに感じられる希望と感動のラスト


・君には心と言葉があるって誰かが伝えてたら…寮美千子『あふれでたのはやさしさだった』を読んで突っ伏して泣いた↓↓↓


・その本を教えてくれたのは・・・立花隆『宇宙からの帰還』を読むと私はその人を思い出す↓↓↓


・完全ネタバレですが、綾辻行人『十角館の殺人』について、こういう記事もあります↓↓↓



いいなと思ったら応援しよう!

涼原永美│子と本を繋げたい*ミステリ&映画好き 読んでくださりありがとうございます✨よろしければスキ、フォロー等を頂けるとさらに嬉しいです🌸チップを頂いた際には主に読書活動にあて、見聞を広げて良い記事に繋げたいと思います📚

この記事が参加している募集