見出し画像

【第七章】なぜ、アートを「おしゃべり」しながら見るのか?:「ゆるパカ鑑賞会」誕生の物語


はじめに:画廊の片隅で抱いた、一つの疑問

麻布台に拠点を構え、私の「江夏画廊」は本格的に始動しました。私が興味あったのは、ただ絵を売ることだけにはありません。私の心を捉えていたのは、画廊を訪れる「人」。そして、彼らが作品とどう向き合うのか、ということでした。

画廊の片隅に立ち、お客様を眺める毎日。そこから生まれた一つの素朴な疑問が、やがて江夏画廊の最もユニークな活動である「ゆるパカ鑑賞会」へと繋がっていきます。今回は、私がなぜ「対話」という手法にたどり着いたのか、その誕生の物語をお話しします。

人は、絵の前で何を思うのか:人間観察から見えた可能性

画廊(そして百貨店の美術画廊)には、本当に様々な人が訪れます。入り口で一瞥しただけで去っていく人。一枚の絵の前で、時間を忘れたかのように立ち尽くす人。そして、静かに涙を流す人…。私は、その一人ひとりの姿に、人間の感性の多様性と奥深さを見ていました。

「ずっと人に興味があったんですよね。絵を素通りする人、じっくり見る人、感動して涙を流しながらずっと動けない人。その反対に捨て台詞のごとく厳しいことを言う人。とにかくいろんな人を見てきたんです。」

インタビューコメントより

それと同時に、かつてアートに全く興味がなかった自分自身の姿も思い出していました。なぜ、ある人は心を動かされ、ある人は何も感じないのか。この「興味がない人」を、どうすればアートの面白い世界に引き込むことができるのか。それが、私にとっての大きな問いでした。

「つなげたい」という想い:作家と鑑賞者の間に橋を架ける

その答えのヒントは、「作家」と「鑑賞者」の関係性の中にありました。私は、この二者をただの「作り手」と「買い手」にしたくなかった。彼らを繋ぎ、互いの想いが交流する場を作りたいと強く思うようになったのです。

そこで始めたのが、作家さん本人を囲んで、皆で作品について語り合う小さな会でした。これが「ゆるパカ鑑賞会」の原型です。作家にとっては、普段は聞けない鑑賞者の素直な感想に触れる貴重な機会となりました。参加者の言葉に「自分の作品を皆さんがこんな風に見てくれるなんて」と、作家が涙を流して喜んでくれたこともありました。

鑑賞者にとっても、「絵を通じて自分を語る」というのは新しい体験。作家に気を遣う必要のない、フラットな場で交わされる言葉は、驚くほど素直で、本質的でした。この時、私はアートが人と人とを繋ぐ強力なメディアになることを確信したのです。

吉田松陰と、ニューヨーク近代美術館:対話がもたらす化学反応

この「対話型」というスタイルは、私が続けていた人生の本質を学ぶための「蘭学塾」という勉強会での経験が大きく影響しています。そこでは、幕末の思想家・吉田松陰が「松下村塾」で行っていたように、参加者同士が対話を通じて学びを深めていくスタイルを取っていました。

「一方的なセミナーとかはあんまり意味がないなっていうのはずっと思ってたので、対話しながら学びを深めていく方式をとりました。吉田松陰はただ講義をするだけではなく、志ある人材を育てるためにこの手法をとっていました。」

後にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された「VTS(Visual Thinking Strategies)」という対話型鑑賞法を知り、「やっぱりそうだよね!」と膝を打ちました。私が肌で感じていた「対話の力」は、世界的な美術館でも実践されていたのです。

一人で見るのとは違いますし、二人で話すのとも違うのです。「三人以上」で対話すると、そこには予測不能な化学反応が生まれます。自分にはなかった視点、考えもしなかった解釈。それらが交錯する中で、作品の世界も、自分自身の世界も、ぐんぐんと広がっていきます。その面白さに、私自身が誰よりも夢中になったのです。

「ゆるパカ」へ:もっと、誰もがリラックスできる場所へ

当初はこの活動に、「感覚共有アートプログラム」と名付けていました。もっと多くの人に気軽に参加してほしいという思いから、新しい名前を考えることにしたのです。

日暮里にっこりサロンでのゆるパカ鑑賞会

アートの前で、もっと心と体を「ゆるめて」ほしい。そして、どこかで置き忘れていた感性が「パカッ」と開くような体験をしてほしい。そんな願いを込めて、「ゆるパカ鑑賞会」という、ちょっとユニークな名前が生まれました。

静かに、知識を頼りに鑑賞するだけがアートではありません。おしゃべりしながら、笑いながら、時には悩みながら。みんなでワイワイ楽しむ鑑賞会があったっていいじゃないですか。その思いが、江夏画廊の新たな扉を開いたのです。

(続きはこちら↓)

(全十章のまとめはこちら↓)

江夏画廊ホームページ↓

お問い合わせはこちら↓



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集