【三題噺】カクテルパーティー効果
大勢いる中から、特定の声や音を聞き分けられることを“カクテルパーティー効果”というそうだ。
二年生で同じクラスになった時に、名簿で前後になったのがきっかけだった。
私、篠原彩夏と、彼、笹原透也。
席替えがある数カ月の間に、笹原君の背中を好きになっていた。
席替えで離れても、同じ教室の中の笹原君の声がよく聞こえる。
“声 聞き分けられる 大勢”
で調べたら、カクテルパーティー効果という言葉が出てきて驚いた。
その現象に名前があると知った途端に、自分が興味がある……どころか、笹原君が好きだという気持ちはどんどん膨らんでいくばかりだった。
そして、三年生。
再び同じクラスになった私は、告白することに決めた。
告白する、にしても。
私は文芸部で、笹原君はサッカー部。直接伝えるにはファンの女の子たちの壁や、いつも誰かしら笹原君の周りにいるというプレッシャーが大きすぎる。
ただ、唯一私が知っている、笹原君が一人になる時間があった。
笹原君はたまに図書室で園芸の本を見ている。
少し意外な気もするけれど、いつも熱心に読んでいるので家で何か作っているのかもしれない。
その、趣味の時間に少しだけお邪魔して。
私は、ラブレターを渡した。
翌日。
「篠原さん」
図書室で、笹原君から声をかけられた。
本当に、律儀な人だ。
数多い告白を、全て断っているのは分かっている。
私が、両想いになるとは思っていない。
覚悟を決めて、私から話しだした。
「ごめんね。これから私達、受験生なのに告白なんてして。でも、ほら、やっぱり、ちゃんと言いたかったから。私の気持ちを、言いたかったの。今なら、受験までに気持ちの整理出来るから」
「篠原。……ごめんな」
「だいじょうぶ、大丈夫。ありがとうね、ちゃんと、返事をしてくれて」
きちんと目は見られないけれど、私も精一杯丁寧に答える。
私のラブレターに、誠実に答えてくれて嬉しかった。
「篠原さん、あまりこういうのしないタイプかと思っていたから。……俺が言うのもなんだけど。ちゃんと、勇気を出して書いてくれたんだなって、嬉しかったんだ。篠原さんに、勇気もらえて、嬉しかったから」
あ…………
「そっか。……よかった。……ありがとうね……じゃあ、私、文芸誌の締め切りあるから」
最後に、嘘をついた。
はやく、離れたかった。
はやく離れないと、泣いてる所を見せちゃう。
その日の帰りの電車は、ずっとドアの所に立って景色を眺めていた。
こういう時、やはり人は終着駅まで行きたくなるものなんだな。と、物語を書く題材が増えたなと考えながら、笹原君のあの笑顔を思い出していた。
あの、笑顔は──
誰かがいる顔だった。
推薦が決まったのだと、教室でそっと仲間内に話す声が聞こえた。
夏頃、彼女ができたことも、うっすらと聞こえてきていた。
見込みがないからって、すぐに好きじゃなくなるのならこんなに苦しくはないだろう。
私のカクテルパーティー効果は、卒業するまで続くのだ。
《今週の三題噺》
1.ラブレター
2.終着駅
3.カクテル
段々シリーズになってきた🤭
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