ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(5)|縁側に転がる野菜と風鈴と
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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縁側に転がる野菜と風鈴と
「凄い。いつのまに?」
「ああ、いえ。昨日作って、冷蔵庫に入れてたんです」
ちゃぶ台の上、センスのいい和モダンなデザートプレートに、見るからにふわふわのシフォンケーキと、一口大の数種類のフルーツがハーブと共にセンス良く盛られている。
場所が変われば1000円はするだろう、と思いながら、紫は「いただきます」と手を合わせた。
手に取るマグカップも、デザートプレートとお揃いだ。
シフォンケーキに手を伸ばした紫がケーキを一口口に運び、「え。めちゃくちゃ美味しいんだけど」と言う。
「これ、お店で売ってるの?」
「いえ。ただの趣味です」
「これが趣味? 正気?」
紫は心底信じられないという調子で言う。
それははっきり言って、長く暮らした銀座の有名パティスリーのケーキより、よほど美味しかった。
「茉莉花、仕事は?」
葉につられたのか、紫は自然に茉莉花を呼び捨てにして言う。
「町の喫茶店でパートしてます。シングルだから、本当はもっと働かないといけないんだけど。葉が実は喘息持ちで、ちょこちょこ体調崩したりもするから正職員では働きづらくて」
「そうなの。大変ね」
「いえ。このサンクチュアリの家賃が格安なので助かってます。食費もシェアで、食事担当を多めにする代わりに、いくらか安くしてもらってて。と言っても野菜も卵もしょっちゅう誰かがくれるので、本当お金かからないんですけど」

見れば、今も誰かが置いていったのか、少し隙間の空いた障子戸の間から、縁側に野菜が転がっているのが見える。その、一見粗雑にも見える風景が、多くの人が忘れてしまった人との繋がりの温かさを物語っていた。
今はもう過去のものと言ってもいい風鈴の音がちりんと響き、軒先で揺れるその影が、縁側に小さく影を落とす。
「本当、いいところね」
しみじみと紫が言う。
「サンクチュアリを気に入ってくれました?」
「ええ。もちろん。凄く気に入ったわ。だけど、入居するなら当然、大家さんと会わないといけないでしょ?」
「いえ。それが、大家さんは私たちがいいならいいみたいで。契約書はさっきメールで送られてきたので、プリントしてサインして郵送でいいらしいです」
「そうなの」と少し驚いた様子で紫が言う。
茉莉花の用意した牛乳を飲み干し、ケーキもさっさと食べてしまった葉が、「僕、また庭で宝物探ししてくる!」と席を立った。「井戸に近づいちゃ駄目よ!」と言う茉莉花の言葉に、葉が「わかってるー!」と言って庭に飛び出す。
紫がふふ、と笑って「元気ね」と言う。
「入居はどうします? 当たり前ですけど、一旦家に帰りますよね?」と言いながら、茉莉花がコーヒーを口にする。
「反対に、今日、今からお世話になれるの?」
「はい。紫さんが良ければ。他のメンバーはみんな割と自由で気を遣わない人たちだし、前から誰か連れてくるなら、あなたが連れてきてってスタンスで。そんな訳で、どうも決定権は私にあるみたいです」
「それなら、今日、今から即入居でいいかしら?」と紫が言う。

【1244文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
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