ヒューマンドラマ×グルメ小説|タバスコが辛くなくて困る(7)|下駄の音とリンゴ飴
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【あらすじ】
ライターの東海林町子は40歳独身女。花より団子の食道楽。
大学からの友人、芙由美とまどかと3人で、独身を脱却するぞと宣誓するが、実は一人がまあまあ楽しかったりする。
立ち飲み屋で楽しむビールと焼き茄子、激安スーパーで買った鶏ハツでスパークリングワイン——
最高過ぎて、結局今日も一人飲み——?
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下駄の音とリンゴ飴
カランコロンと下駄の音がする。
夏祭りからの帰り道、町子と大和は並んで土手沿いの道を歩いていた。町子は缶チューハイを飲み終わり、その手にはリンゴ飴がある。大和の手には缶ビール。
「リンゴ飴、美味しそうですね」と大和が言う。
「ちょっと齧る?」と町子。
はい、と差し出されたリンゴ飴を前に、大和は苦笑する。リンゴ飴は、真っ赤な飴が期待を裏切らずに嘘っぽかった。夏祭りの屋台に照らされてキラキラと光る様子がチープで可愛い。これぞ夏祭りの醍醐味という感じがした。
ただ、町子の提案は受け入れられない。
俺の気も知らないで、と大和は思う。
「食べないの?」
「遠慮しておきます」
「そう?」と町子はあっさりリンゴ飴を引っ込める。きっと自分が遠慮した意味など町子は気付きもしないんだろうな、と思いながら大和は歩く。
シャリシャリ、カリカリと、町子がリンゴ飴を齧る度に小気味いい音がする。おもむろに、子どもの頃に買ってもらったリンゴ飴の味が思い出される。甘くパリパリの飴を齧れば、中から酸味強めのリンゴの果汁が溢れ出す——
パリパリ、シャリシャリ、パリパリ、シャリシャリ——どこまでも楽しい食感。思い出せば、わくわくした思いまでもが付いてくる。
「あ〜、幸せ。子どもの頃はリンゴ飴って一生懸命親にねだって買ってもらったよねえ。それがこんな風に自由に買えるって最高だわ」
「確かに。いくらでも小遣い貰える友達が羨ましかったの覚えてます」
「本当、本当。浴衣もその辺の量販店で売ってるやつじゃなくてさ、ブランドのちょっといいやつで。羨ましかったなあ」
「へえ。それは女の人ならではだなあ。浴衣って高いんですか?」
「1万円も出せば買えるけどね。今はネット開けば選択肢も凄く多いし」
「意外に安いんですね」
「まあ2人も3人も子ども育てるのに、1万円が安いとは言わないけどね」
「確かに。それだけじゃないですもんね。そういえば、町子さんは里帰りするんですか?」
「うーん。どうかな。でも、どうして?」
「いや、お盆に里帰りするのかなと思って」
「悩んでるの。うちの親、いまだに結婚結婚うるさくて。まだ諦めてくれないのかって」
町子は言って、リンゴ飴で赤く染まった唇をティッシュで拭う。
「あれ? 彼氏がいたんじゃなかったでしたっけ?」と言う大和の言葉に、「そんなのもうとっくに別れたよ」と町子は返す。
「もう若い頃みたいに、ただ恋愛が楽しいって思えないし、正直、一人が楽なんだよね」
「もったいないですね。町子さん、綺麗なのに」
「そんなこと言って褒めたって何も出ないんだから」
「本当ですよ。浴衣姿も、町子さんが一番綺麗でした」
大和は言って、真っ直ぐ前を見た。
視線の先には何もない。ただ、町子の顔が見れないだけだ。その瞳に映るのは、祭り会場で見た、白地にブルーの紫陽花柄の浴衣を着た町子の姿。
「やめてよ。年上を揶揄わないで」と町子は笑う。ここで町子が怒った素振りでも見せるなら、まだ付け入る隙もあるだろう。ただそうでないことに、自分が眼中にもないことは、大和も分かりきっていた。
「あ〜、さすがにお腹いっぱい」
「そりゃ、たこ焼きの後に、フランクフルトと唐揚げにリンゴ飴ですからね」
「あと、缶チューハイ2本ね」
「自分で言いますか」
町子と大和が一緒に笑う。
その距離は近いようで、少しだけ遠い。
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