ヒューマンドラマ×グルメ小説|タバスコが辛くなくて困る(8)|海の家のカレーライスとらっきょう
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【あらすじ】
ライターの東海林町子は40歳独身女。花より団子の食道楽。
大学からの友人、芙由美とまどかと3人で、独身を脱却するぞと宣誓するが、実は一人がまあまあ楽しかったりする。
立ち飲み屋で楽しむビールと焼き茄子、激安スーパーで買った鶏ハツでスパークリングワイン——
最高過ぎて、結局今日も一人飲み——?
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海の家のカレーライスとらっきょう
「その人、町ちゃんのこと好きなんだよ」
海の家のテーブル席。
町子の斜め向かいで、小鈴ちゃんは言った。
齢8歳にして、世の中の全てを知った風な口ぶりは、スマホで世界旅行が出来る時代の賜物か。町子の辛口カレーに顔を顰める小鈴ちゃんは、その口ぶりとは裏腹に、ちゃっかり380円と非常にお得なお子様カレーを食べていた。
ちなみに、町子の辛口カレーは780円。
「ええ? 大和が私のことを? ないない」と町子は言う。
「町ちゃんは恋心ってものが分かってないのね」と小鈴ちゃんは、ますます8歳とは思えない言葉を紡ぐ。
明るいピンク色に、うさぎさん模様が可愛い、フリフリのついた、小鈴ちゃんのワンピース水着。髪の毛は頭のてっぺんのほうで、ちょこんと2つのお団子頭になっている。
「そう言う小鈴ちゃんは、恋したことあるの?」
「何言ってるの? 町ちゃん。小鈴、同じクラスに彼がいるよ」
「ええ!?」
町子は心底驚いて、声を上げた。
驚き過ぎて、カレーで咽せそうになる。
「今どき普通だよ。カレンちゃんも、ハナちゃんも、クラスは違うけど彼がいるもん」と小鈴ちゃんは言う。
続けて、「このシーグラスも、3人でお揃いのアクセサリーにしようねって言ってるんだ」と言う小鈴ちゃんの言葉が、まるで遠くから響く蛍の光のように切なく聞こえる。
まさか、8歳の女の子に恋バナで負けるとは思わなかった。
「カレー美味しいね」と小鈴ちゃんが言う。
「うん。美味しい」と町子は返事をして、また一口、カレーライスを口に放り込んだ。
確かに、カレーは非常に美味しかった。
ぴかぴかと輝く白い米粒は、少し固めに炊かれ、控えめながら口の中でもちもちぷりぷりと主張する。そこにしっかりとまとわるスパイスの効いたカレー。野菜の風味は感じられるのに、玉ねぎも人参もじゃがいもも、すっかりルーに溶け込んで、複雑な旨味を作り出していた。にんにくの香りと唐辛子の辛味が食欲を誘い、何だかんだ、スプーンを持つ手はずっと手は止まらない。
この嘘みたいに赤い福神漬けの不健康さも、また良かった。福神漬けに並ぶ甘酢漬けのらっきょうも、もっと沢山欲しいぐらいに美味しい。
らっきょうも、子どもの頃には美味しさが分からない食べ物の代表だと思う。
今となっては、らっきょうが付け合わせなのか、カレーが付け合わせなのか、もはや分からないところまで来ている。カレーライスの皿に乗るらっきょうが食べたくて、カレーライスを頼んでいる向きさえある気がした。
「町ちゃん、凄い汗」
小鈴ちゃんに言われて見れば、ターコイズブルーのビキニの胸の辺りが、汗でじっとりと濡れていた。ビキニの上に着ている茶色のサロペットタイプのラッシュガードもすっかり乾いているぐらいなので、確かにこれは汗だ。
「本当だね。水着で良かった。後でまた少し泳ごう。洋ちゃんパパとタッちゃんパパは、こっちに何時頃着くとか言ってた?」
小鈴ちゃんの養親である寺前洋介と寺前保は、今回仕事の都合で、後から遅れて到着する段取りになっていた。
「さっき、スマホに夕方になるって連絡がきたよ。町ちゃんによろしくって」
「そっか。オッケー。それまで2人で楽しんじゃおう」
町子が言って笑う。
その傍らには、さっき拾った宝物みたいなシーグラスがあった。
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