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ヒューマンドラマ×グルメ小説|タバスコが辛くなくて困る(9)|枝豆と鹿レバーのしぐれ煮

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【あらすじ】

 ライターの東海林しょうじ町子まちこは40歳独身女。花より団子の食道楽くいどうらく

 大学からの友人、芙由美ふゆみとまどかと3人で、独身を脱却するぞと宣誓するが、実は一人がまあまあ楽しかったりする。

 立ち飲み屋で楽しむビールと焼き茄子、激安スーパーで買った鶏ハツでスパークリングワイン——

 最高過ぎて、結局今日も一人飲み——?

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枝豆と鹿レバーのしぐれ煮


 町子まちこの実家の両親が営む民宿の縁側。

 町子は小鈴こすずちゃんの養親である寺前てらまえ洋介ようすけと2人、縁側で夕涼みをしていた。同じく小鈴ちゃんの養親で、洋介の同性のパートナーでもある寺前てらまえたもつの姿は今ここにはない。

 良く冷えたビールのグラスを傾けながら、「タッちゃんパパ、帰ってこないね」と町子は言った。

 月明かりの下、客室ではしゃぐ子どもたちの声もすっかり静まり、民宿の中庭はそれぞれに主役を主張する虫の音に包まれている。

 タッちゃんパパ、というのは寺前保の呼び名で、ちなみに洋介は洋ちゃんパパと呼ばれている。

「そうだね。今頃きっと、小鈴ちゃんと一緒に寝てしまってる気がする。タッちゃんは海でかなりはしゃいでたし」と洋介は言った。

 言いながら、グラスにいだビールにまた少し口をつける。

 町子と洋介の間には、瓶ビールの中瓶が2本と、保の残していった飲みかけのグラス、それに町子の母が用意した枝豆と鹿レバーのしぐれ煮があった。さすがに、この娘の母親を40年しているだけのことはあり、甘味よりしょっぱい物が好きな町子の嗜好をよく理解している。

 そうなると、母が町子をこうして定期的に田舎に呼ぶのも、電話口で度々「いい人はいないの?」と小言を言うのも、母が町子を理解していないというよりは、理解したくない気持ちのためと考えるのが自然な気がした。

 町子が小鈴ちゃんファミリーを田舎に誘ったのも、ほとんど無意識に町子が母親からの小言を避ける意図があったのは言わずもがなだし、そういう意味では、町子も母もお互い様といえるだろう。

「そっか。確かに」と、町子が少し笑う。

 タッちゃんパパのはしゃぎっぷりを見て、やや呆れた様子の小鈴ちゃんの様子が思い出された。

 何なら小鈴ちゃんの喜ぶ様子が楽しみで準備されたはずの夕食の豪華舟盛りも、タッちゃんパパは小鈴ちゃん以上に喜んでいたようにさえ思う。

「父も母も、凄く喜んでた。小鈴ちゃんやタッちゃんパパがおもてなしを喜んでくれて。何せこんな風に私が友人知人を実家に招いたのは学生のとき以来で、そういうのも父や母は嬉しかったみたい」

 町子の言葉に、洋介が微笑む。

「町ちゃんのお父さんお母さんには本当に感謝。こんな風変わりな親子に驚きもせず、自然に受け入れてくれて。最初、町ちゃんに誘われたときはどうしようかと思ったけど、来てよかった」

 洋介が町子を町ちゃんと呼ぶのは、小鈴の影響だろう。度々町子が小鈴のベビーシッターを請け負うのも、何よりお互いが隣人で気が合うということ以上に、小鈴が町子に懐いているからと言える。

「この鹿レバーのしぐれ煮、マジ旨い」と言いながら洋介が町子の好物をつまむのを、町子もまんざらでもない気持ちで見ていた。

 鹿肉は近所の猟師が定期的に持ってきてくれるもので、ジビエ料理はこの民宿の人気裏メニューにもなりつつある。

 特に鹿レバーのしぐれ煮は、数ある母の自慢料理の中でも町子イチオシのメニューだ。

 鹿肉はよく臭いとか言われるものの、町子のよく知るそれは臭いどころか鶏肉などよりもよほどサッパリと癖がなく、火を入れたレバーに良くあるパサパサした食感もない。濃い旨みだけが舌の上に広がり、醤油と砂糖で甘辛く炊いた濃いめの味付けもまた、白米のお供や酒の肴にぴったりだった。

 多めに入れられた生姜と、最後に上に盛られる小口切りのネギが、口中でシャキシャキと確かな存在を主張する。それらの辛味や食感も、新鮮な鹿レバーの風味と食感を引き立てていた。

 もちろんビールとの相性は抜群で、恨めしいほどに、それは一度食べ始めると止まらなかった。

 夕食の豪華舟盛りで限界を感じていたはずの胃に、なぜかそれはスルスル吸い込まれていき、町子の母が多めに盛ったはずの器の中も、今やかなり寂しい状況になりつつある。

 時折味を変えたくて口に放り込む今が旬の枝豆も、甘味や香りが濃いこのあたりの特産物だ。

「お、町ちゃん、グラスの中が空っぽ」と言いながら、町子のグラスに遠慮なくビールを注ぐ洋介は、仕事の疲れも相まってほろ酔いのようだ。

 何気なく、町子は小鈴ちゃんのセリフを思い出した。

「同じクラスの子たち、みんな夏休みはおじいちゃんおばあちゃんの家に行くんだって」——

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