ヒューマンドラマ×グルメ小説|タバスコが辛くなくて困る(6)|祭囃子とイカ焼き
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【あらすじ】
ライターの東海林町子は40歳独身女。花より団子の食道楽。
大学からの友人、芙由美とまどかと3人で、独身を脱却するぞと宣誓するが、実は一人がまあまあ楽しかったりする。
立ち飲み屋で楽しむビールと焼き茄子、激安スーパーで買った鶏ハツでスパークリングワイン——
最高過ぎて、結局今日も一人飲み——?
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祭囃子とイカ焼き
「夏の音といえば。やっぱりこれだよね〜」と芙由美は言って、缶ビールを開ける。プシュッと心踊る音がしたかと思うと、今度は喉を鳴らして彼女はビールを仰いだ。
「本当、芙由美は美味しそうに飲むなあ」
町子が言って笑う。その手には、先程祭り屋台でGETした、焼きたて熱々のイカ焼きがある。
「んー、いい匂い」と芙由美が言って、その香りを味わう。
「食べる?」と町子。
「ううん。いいよ。私さっきホルモンうどん食べちゃったし。ビール飲んどいてあれだけど、私実はダイエット中なんだよね」
「え? そうなの? 全然そんな風に見えないけど」
そう言う町子の目線の先にあるのは、芙由美が購入した2本目の缶ビール。
「もう。これはいいの。飲むのを我慢しない代わりに、食べるのはホルモンうどんだけにしたんだから」
芙由美らしい言い分だ。これぞ正真正銘の呑兵衛と言える。
「町子は? イカ焼き食べないの?」
「ううん。食べる。だけど、もうそろそろまどかと大和が帰ってくるんじゃないかと思って。ほら、イカ焼きって歩きながらはちょっと食べづらいじゃない? まどかと大和が帰ってきたら、花火の絶景ポイントに移動するって言ってたから、もうちょっと待ったほうがいいかと思って」
「ええ。いいじゃない。きっとたこ焼きの屋台並んでるんだよ。冷めたら美味しさ半減だしさ、食べちゃえば?」
「うーん。そうかなあ。まあ言われるとそんな気もしてきた。食べちゃおうかな」
「食べちゃえ、食べちゃえ」
町子は芙由美に言われて、屋台のおじさんが入れてくれたビニール袋から、イカ焼きを取り出した。さっきからいい匂いはしていたけれど、袋から出すとますます香ばしい香りが広がる。
磯の香りに、甘辛いソースの匂い——
イカの身の上でてらてらと輝くソースに引き寄せられるように頬張れば、イカの身のプリッとした歯ごたえが楽しい。口の中でイカの旨味とソースの甘辛い味がマリアージュし、何とも言えない幸福感に包まれる。
先程、屋台でイカ焼きが焼かれている光景も、なかなかヨダレが凄かったが、実際に頬張ると、ますます唾液の分泌が促された。噛めば噛むほど、広がる旨味。次々と口に入れたい衝動と、ずっと噛んでいたい衝動が喧嘩する。
ああ、なんて幸せ——
手に持っていた缶チューハイを仰げば、口がさっぱりして、いくらでもいける。町子がもう一串買えば良かったかな、と思っていたとき、少し離れた場所から、まどかと大和が手を振るのが見えた。
「あ。いたいた。こっちこっち」
芙由美が浴衣の袖を押さえて手を振る。芙由美の浴衣には、もう芙由美の代名詞とも言える、濃いピンク色の花が咲いている。
「お待たせ。たこ焼き凄く並んでたよ」
まどかは言って、町子が頼んでいた一舟を、町子に渡す。まどかの浴衣は薄い黄色地に緑の小花柄。これまたまどかのキャラクターにぴたりとはまっている。
「ありがと。お疲れ様」と町子
「どういたしまして」とまどかは言う。「どうする? とりあえず移動する?」
「うん。そうだね。どうせすぐだし、移動してからゆっくり食べたら?」と芙由美が言う。
「そうしようか。大和くんもそれでいい?」とまどかが言う。
「ええ。俺もそれがいいと思います。絶景ポイント、場所取られちゃっても癪だし」
「よし、じゃあ移動しようか」と芙由美が言う頃には、町子も既にイカ焼きを全て口に入れ終わっていた。口をモグモグさせながら歩くのなんて、普段なら有り得ないが、この行儀の悪さがまた、最高だったりする。
町子は歩きながら、再び缶チューハイを仰いだ。
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