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第30話 | 躾 | 積み上がっていくもの

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第1話|抱っこと決意|シングルファザーとなった最初の日https://note.com/fast_deer7937/n/n74aef03be245

わんわん、にゃんにゃん。
そういう言葉は、使わせんかった。
大人になってから使わん言葉やし、
本人があとで恥ずかしくなるかもしれん。
そう思った。

生前の妻とも話して、
パパ、ママという呼び方も使わせんかった。
お父さん、お母さんで呼ぶ。
それが当たり前になるように。

今思えば、
どうでもええ話じゃったと思う。
でも当時は、ちゃんと考えた結果じゃった。

食事の時もそう。
箸の持ち方。
お茶碗の持ち方。
おかずを食べる時は、茶碗を持つ。
飲み物を飲む時は、椀と箸を置く。
口に入れたまま喋らん。
姿勢を正す。

洋食の時は、
フォークとナイフの持ち方も言うた。
音を立てん。
肘をつかん。
細かい。
自分でも思う、細かすぎる、と。

でも、全部理由があった。
社会に出た時に困らんように。
恥をかかんように。
注意されんように。

「今はまだ早い」

そう思う余地は、
あんまりなかった。
何より、
自分自身が、
親からの躾に助けられてきたと思っていた。

鉛筆の持ち方も、
机に向かう姿勢も、
勉強の時の座り方も、
気づいたら口を出しとった。

怒鳴ってたわけじゃないーー、
と言いたいところじゃが、
虫の居所によっては声を荒げることもあった。

手を出しとったわけでもないーー、
と言い切れるほど、
きれいな躾でもなかった。
添えてない左手を、
ペシッと叩くようなことは、あった。

ただ、基本は毎回言う。
できるまで言う。
それが躾だと思っとった。

ちゃんとしとるつもりじゃった。
むしろ、手を抜いとらん自分を
少し誇らしく思っとった節もある。

結果として、
中学生になっても出来てないことはある。
箸も、姿勢も、全部完璧ではない。

そう考えると、
あの頃あんなに目くじら立てんでも
楽しく食べりゃえかったんかもしれん。
そうも思う。

ただ、
その時の自分に戻ったら、
たぶん同じことを言うとる。

子どものため。
その一言で、
全部片づけとった。

-------とっちゃRECO-------

この頃の躾は、
間違っていたとは思っていない。

ただ後になって、
それが「自分で選び取った基準」だったのか、
「引き継いだ基準」だったのかを
考えるようになった。

躾には、
家庭内の秩序を保つ役割と、
社会に適応させるための訓練という側面がある。

当時は、その二つを切り分ける意識はなく、
社会基準をそのまま家庭に
持ち込んでいたように思う。

自分が受けてきた躾。
当たり前だと思っていた作法や振る舞い。
それらを検証することなく、
次の世代に渡していただけだったのかもしれん。

この時点では、
衝突も、破綻も起きていない。

ただ、正しさだけが静かに積み上がり、
修正される機会を持たないまま、
家庭の中に定着していった。 な

-------とっちゃRECO-------

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第35話|余裕のない日々|誤差にした違和感
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