第38話|逃げ場|学校を変えられると知った朝
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第35話|余裕のない日々|誤差にした違和感
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12分。
まだ12分。
ダメだとわかっていても、
イライラとした感情が上がってくる
「パピコ!」
少し声が大きくなったが、
返事はない。
その瞬間、限界が来た。
「先生があー言うとんじゃけぇ、
行ってどれ程の事が出来るか見てこい!!」
声が廊下に跳ね返る。
「納得できんかったら言うてこい!!」
「学校なんて変えさせちゃる!!」
やってしまった。
声を荒げると強制になる。
それは分かっとる。
分かっとるのに、
口が先に動いた。
廊下の静けさが、
余計にその声を大きくした気がした。
少しだけ、
自分の息が荒いのが分かる。
こんなに興奮したらいけん。
そんな反省を脳内で繰り返していると、
鍵の回る音がして、
ドアが開く。
パピコは泣いとらん。
怒っとらん。
ただ、腫れ物が落ちた様な顔をしとった。
少し考える様にこっちを見て、
「学校って変えれるん?」
と聞いてきた。
「変えれる」
「パピコが嫌なら、どうやってでも変えてやる」
少しだけ間があった。
「じゃあ行ってみる」
さっきまで動かんかった子が、
すっとランドセルを背負った。
強制されて泣きながらでも、
我慢して行くといった様子でもない。
その動きが妙に静かで、
本当にさっきまで
トイレにこもっとった子なんかと
一瞬思った。
玄関まで一緒に歩く。
靴を履いて、
扉を開けて、
「ほんなら、行ってきてみるわ」
なんじゃその日本語は?
とも思ったが、
突っ込まず送り出した。
その背中を見送りながら、
何が芯を食ったのか、
言った自分でも分からん。
あの言葉が良かったのか、
ただタイミングが来ただけなのか、
どっちかも分からん。
その後、
自分も会社へ行った。
行ったが、
ほんまに先生がどんな対応をするんか、
パピコがまた嫌な思いをしてないか、
最悪学校変えるならどんな手続きがいるんか、
その他、諸々が頭から離れなかった。
それでも気づけば、
やたら早いスピードで
仕事は片付いていった。
頭は別のことを考えとるのに、
書類を一つ片付ける。
また一つ。
内容はほとんど覚えとらん。
ただ、
やることだけは
いつもより早く終わっていく。
頭は学校に残ったまま、
体だけ会社で動いとる様な感じだった。
結局、
定時きっかりで仕事を終わらせ、
すぐに家路についた。
急いでも何も変わらないが、
気持ちは逸る。
家に帰ると、
パピコは普通に座って、
テレビを見よった。
ただいま→お帰りを
いつも通りに交わして、
「どうじゃった?」
と聞くと、
「謝ってきた」
とだけ言った。
加害側の子たちから
謝罪があったらしい。
仲良くやろうという話で
まとまった、と。
ただ、パピコからすると
まだ信用できん部分も多いらしく、
「明日からどうなるかじゃなぁ」
と言っとった。
でも、
前に休んだ時や
トイレにこもる直前にあった
あの恐怖みたいな空気は、
もう無くなっとる気がした。
「学校って簡単に変えれるん?」
突然の質問。
それについては、
少し考えただけで、
下調べを全くしていなかったが、
「簡単ではないけど、出来るよ。」
という返事を選んだ。
パピコはたぶん、
学校を変えられるなら
変えたいと思っとる。
それが逃げ場になると
思ったんじゃろう。
でも自分で頑張って現状を打破する
といった考えも残したかった。
"簡単ではない"
という枕詞は、その為につけた。
そのあと先生からも電話があり、
同じ内容の報告を受けた。
これからも注意して見ていく、と。
電話を切ったあと、
少しだけ肩の力が抜けた。
パピコは本当にいつもの顔に戻っとった。
夕飯も食べて、
家の空気も、
だいぶいつも通りに戻っとった。
ただ、
自分の中には
まだ引っかかっとるものがあった。
財布のこと。
Switchのこと。
あれを
まだ聞いとらん。
聞くなら
このタイミングかな、
と思った。
少し落ち着いたところで
パピコに声をかけた。
「ちょっと話すか」
パピコも何か悟った様だ。
ピノも姉の顔をみて固まっている。
出来るだけ優しく話さなければと
考えてはいたが、
今の心持としては、
そんなに意識しなくてもよさそうだった。
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第1話|抱っこと決意|シングルファザーとなった最初の日https://note.com/fast_deer7937/n/n74aef03be245
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