#580 _モノローグ_ ただ、生きるための方法
桜の中を、ただ歩くなんて思いもしなかった。
花びらが足元の泥に吸い込まれていくのを、
僕は黙って見つめていた。
僕はただ、子どものように拗ねていた。
僕が考え続けてきたことは、誰かに
理解されるためでも、共感を得るためでもなかった。
ましてや、深い人 だと思われるためでもなかった。
──ただ、生きるために必要だったこと。
自分の足元を見失わないために、
そうするしかなかったから。
──意志というよりも、呼吸に近いもの。
やめたら崩れてしまうから そうしてきたのか……
人混みの中で、ふと足を止めて足元を見つめた。
泥の中に手を差し込んで、
冷たい根っこの感触を確かめるような──
誰かに教えられたものではなく、
ただ生きていて身につけたもの。
だから、癖 でも 趣味 でもなく、
自分の足元を確かめるための、僕だけの方法だった。
僕という人間の根っこに ずっと絡みついていて、
そのまま進み続けて、どこかで必ずつまずいてきた。
──願いの場所を確かめてみてもいい。
その言葉はとても静かで、でも芯が通っていて、
僕の歩いてきた道そのもの。
そうやって自分を支えてきたことは、
誰かに褒められるためのものじゃないし、
共感されるためのものでもない。
ただ僕が、僕として生きるために必要だったこと。
……そうやって一人で足元を見つめる時間は、
正直、ひどく心細い。
誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらえたら、
どんなに楽だろうと思う。
自分の根っこを確かめる勇気がない日だって、
本当はある。
だから、たまには誰かの背中に隠れたり、
適当な言葉で笑い合ったりして、
「まあ、なんとかなるよね」なんて
歩く時間があってもいいと思った。
完璧に一人で立てなくても、
誰かに甘えながらでも、
結局、今日を生き延びられたなら、
それだっていいよね。
静かな必然性を抱えて、僕はまた、一歩を踏み出す。
<了, 約 930 字>
あとがき
思うようにできなくても、自分を責めなくていいとき。きっと、その願いは、自分の外側にある誰かの影を追いかけていたのでしょうか。
それに気づくことは、ちっとも格好悪いことじゃないんですよね。
立ち止まったのは、ただ、自分の心の根っこがどこにあるのかを、そっと確かめてみるための合図だったんだと思い、作品にしました。
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夜、昼、朝、光、夜、(本稿)


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