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初めての保護猫 第13話(#シロクマ文芸部)

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<あらすじ>
 妻に先立たれ、やもめ暮らしの75歳の主人公は、買い物帰りに近所の田んぼのあぜ道で、泥だらけになっている猫を『初子』と名付け保護することにした。ところがその猫は妊娠していて、しかも猫エイズキャリアだった。
 数日後、5匹の仔猫の出産に立ち会い、仔猫の里親探しをする為、『ポチたま保護の会』主催の里親譲渡会への参加をすることになった。
 初子はFIVを発症し、日に日に弱っていく。
 ワクチン接種を終えた仔猫たちは、いよいよ譲渡会に参加し、唯一雌の長子がもらわれていくことになった。寂しさを感じていたところへ、長女の美奈子が訪ねてきて、夫、陽介への気持ちを打ち明ける。

 夜桜と、日本人の宴会を面白がる外国人観光客の姿を、テレビニュースが報じていた。中には、その宴会に混ざって大騒ぎする観光客もいた。
 さすがに、あの騒ぎの中に美奈子を連れ出すことはできそうにないが、静かに過ごせる桜の名所はないかと思っていた。
 このまま家に引きこもっていては、いつまで経っても立ち直れない。
 美奈子の離婚が決まったわけじゃないし、明るい雰囲気を作りたい。
 それに、美奈子が家に来てからまだ3日しか経っていないが、会話の中で地雷を踏まないよう気を遣いすぎて、窮屈に感じてきた。

「猫の餌がなくなりそうだ。ちょっと買い物に出掛けてくるよ」
 仔猫の世話を美奈子に頼んで、新鮮な空気を吸おうと外に出た。
 まず、外出の目的でもある猫の餌を買いに、理恵さんが働くホームセンターへ向かった。
 店内に入ると、理恵さんはレジを担当していたので、初子が好きな餌を持って理恵さんがいるレジへ急ぐ。
「すみません、長子が良い方に貰われていって、本当にお世話になっちゃって…」
「いえいえ、まだこれからですもんね」
 理恵さんはレジを打ちながら、笑顔で対応してくれた。
 まだ4匹いることを思い出して、ちょっと言葉に詰まってしまった。
「里親募集サイトにも、まだ問い合わせがないみたいで…」
 申し訳なさそうに理恵さんが言うから、こっちこそすみませんと頭を下げた。
 目当てのエサを買ったが、このまま帰るのはもったいない気がした。
 猫たちを美奈子に任せているので、久しぶりに囲碁サロンで対局をしたくなった。
 贔屓の囲碁サロンを覗いてみると、常連のK氏にLINEで仔猫の写真を送っていて、最近飼っていた猫を亡くしていた娘さんに聞いてくれることになっていた。
 あれから返事はないが、気にはかけてくれているだろう。
 サロンのドアを開けると、やっぱりいつもの顔ぶれが集まっていた。この光景が安心できる。趣味の囲碁を楽しむ場所なのだが、自分にとって居場所を確約してくれる安らぎの場でもある。
「よう! 今日はゆっくりしていけるのか?」K氏がコーヒー飲みながら声をかけてきた。
 このノリが嬉しい。
「おう、今日は手合わせ願おうか!」
 椅子にどっかり座って、囲碁盤に碁石を並べだした。 
「Y氏はどうした?」
 いつもいるY氏の姿が見あたらない。
「さっきまでいたんだが、風邪引いたみたいで、今日は帰ったよ」
「季節の変わり目だからな。年取った証拠だな」
 雑談をしながら、一手一手碁石を置いていく。
「そういえば、娘が猫欲しいって言ってたぞ」
 ポツリとY氏が言った。
「本当かっ!!」
 なんでもっと早く言ってくれないんだと思ったが、その抗議の言葉は寸前のところで押し殺した。
「ああ、写真見せたら、前に飼っていた猫の目に似ているらしい」
「目が?」
「うん、緑色の目をしてるだろう? それがそっくりだというんだよ」
 キトンブルーといって、子猫の頃はみんな青い目をしているのだが、生後2ヶ月過ぎた頃から緑色に変わってきていた。
「猫エイズのことは知っているのか?」
 一番気になるところだ。
「ネットで調べたらしい。問題ないと言ってたぞ」
 そうかそうか____。
「それで何匹欲しい?」
「1匹でいいよ」当たり前だろうと笑った。
「どの子がいいんだ? オスが4匹残っているんだが…」
「それだけどな、今度仔猫に合わせて欲しいと言ってた」
「確かに、実際に会って決めるのが一番だな。いつでも家に来てくれよ」
 仔猫の行く末のことで頭がいっぱいになり、対局がそっちのけになってしまった。
「今日も俺の勝ちだ!」K氏がドヤ顔で勝利宣言をした。
 いいさ、手柄くらいくれてやる。娘に仔猫のことを聞いてくれただけでも大手柄だ。
 やっぱり、長く付き合ってきた友だちは頼りになる。
 それが何より嬉しい。
 K氏に直接お礼を言うのは照れくさくて、改めて仔猫1匹ずつの写真を送るついでに「今回はありがとう」とメッセージを添えた。

 初子を保護して以来、久しぶりに嬉しい気持ちになったが、今日は最高の一日になった。
 家で待っている美奈子に早く伝えたくて、足早に帰る。
「ただいまー」
 玄関に入った瞬間、違和感を覚えた。
 揃えて置かれた男物の靴。俺のじゃない。
 返事がない。
 不安になってリビングのドアを開ける。
 美奈子の向かいに座っていたのは、陽介君だった。



  

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