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初めての保護猫 第22話(#シロクマ文芸部)

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<あらすじ>
 妻に先立たれ、やもめ暮らしの75歳の主人公は、買い物帰りに近所の田んぼのあぜ道で、泥だらけになっている猫を『初子』と名付け保護することにした。ところがその猫は妊娠していて、しかも猫エイズキャリアだった。
 数日後、5匹の仔猫の出産に立ち会い、仔猫の里親探しをする為、『ポチたま保護の会』主催の里親譲渡会への参加をすることになった。
 初子はFIVを発症し、日に日に弱っていく。
 保護当初は、面倒ごとのように感じていたが、世話を通じて徐々に情がわいてきた。
 ワクチン接種を終えた仔猫たちは、いよいよ譲渡会に参加し、唯一雌の長子がもらわれていくことになった。
 その後、囲碁仲間のK氏の娘さんが斑の里親になった。 
 そして、離婚危機になっていた娘の美奈子も、夫の陽介と和解し、よりを戻すことになった。その際、白と豆男の二匹を一緒に連れて帰ることになった。
 そして数日後、長男の拓望家族が尾曲を引き取りたいと申し出があった。そんな折、初子の具合が悪くなり・・・。

 


 六月は妻の命日がある。 
 子どもたちもそれぞれ忙しくしているだろうと、今年は墓参りに誘わなかった。
 昼下がりの日曜日。電車で一時間ほどの距離に、檀家の寺である長福寺がある。 
 小高い丘の上にある長福寺の山門をくぐると、満開の紫陽花が目に飛び込んできた。ちょうど住職が庭の掃除をしているところだった。
「ご無沙汰しています。お世話になります」 
 軽く頭を下げて挨拶をする。
「こんにちは、中瀬さん。お久しぶりですね」
 多くの檀家を抱えているのに、自分の名前を憶えていることに小さな感動を覚えた。
「見事な紫陽花ですね」
「勝手に咲いてくれるので、助かってますよ」 
 住職はいつ会っても、穏やかな笑顔で対応してくれる。
「来年は妻の七回忌をしようと思います。その際は、またお世話になります」 
 自分で七回忌と言葉にしておきながら、もう七回忌なのかと時間の流れに驚いてしまう。
「あれからもう……早いですね。またご都合のいい日時をお知らせください」 
 妻の葬儀の時は、何もかも初めての経験で、しかも喪主を務めるのも初めてで、戸惑うことばかりだった。住職に助けられながら、どうにかこうにか妻を見送ることができたのだった。
 ここでふと、初子を見送る時はどうしたらいいのだろうと、疑問に思った。
 昔だったら山や海に行って、大きな穴を掘って葬ることもあっただろうが、今のご時世、そんなことは出来そうにない。だからといって、自宅の庭に埋めるのも違うような気がする。 
 良い機会なので、住職に尋ねてみることにした。
「実は、今病気の猫の世話をしてまして、獣医からはもう長くはないと告げられているんです」 
 住職はタオルで額の汗をぬぐいながら、長話になるのを察して構えるような仕草を見せた。
「それは寂しいですな……」
「こんなこと聞いてもいいのか……その……動物の葬儀ってどうしたらいいんでしょうか?」 
 死ぬことを前提にした質問で、言葉にしただけでドキリとした。
 もっと他に言い方があったのではないかと後悔しながらも、住職の表情をうかがった。
「そうですな。うちでは動物の葬儀を受け付けておらんのですが、ネットで検索すると、ペット専門の葬儀社は結構見つかりますよ」 
 ペット専門の葬儀社があることは知らなかった。
「そうですか。ありがとうございます」
「最近では、ペットと一緒の墓に入りたいという人も多いんですよ。でもね、宗教的な考えでは、魂のあり方が違うとされていて、同じ場所には葬れないことになっているんです」
「魂の違いって?……」
「人間は『人道』に生まれた存在で、仏道修行を積むことで悟りに近づけるとされています。動物は『畜生道』に属していて、人間に比べてカルマに縛られた存在と見なされているんですよ。あくまで仏教の世界観ではの話ですけどね」
 宗教に、さらに言えば仏教の教えには疎い自分だ。これ以上掘り下げて聞くことは止めておいた。 
「では、ネットで調べてみます。ありがとうございます」
 そう言って頭を下げ、妻が眠る墓前に急いだ。 
 墓に辿り着くと、すでに菊の花が活けてあった。美奈子か、妻方の親戚が先に墓参りをしてくれていたのだろう。 
 花屋で買ってきた百合の花を、菊と一緒に活けた。
「来年は七回忌だよ。早いな」 
 線香と蝋燭を灯し、静かに手を合わせた。
 しばらくの間、墓の周りの雑草を抜いたり掃除をしたりして過ごした。
 丘の上に建つ墓地からは、眼下に内海の景色が広がっている。凪いだ海は静かにきらめき、涼やかな浜風が頬を優しく撫でていく。
「あと何年したら、俺もここに入れるんだろうか」 
 冗談で出た言葉ではなかった。
 自分でも意図せず漏れた言葉だった。
 住職の話では、初子は猫だから、魂の在り方が人とは違うらしい。
 俺は死んでも妻と同じ場所に収まることができる。でも初子は死んでも独りぼっちだ。
 それとも動物は悟りを得なくても、すんなり成仏できるのかもしれない。所詮は動物ってことなんだろうか。
 死んだ先のことまで心配するようになったとは、俺もとうとうお終いか。
 ひとりぼやきながら、坂道を下っていく。
 寺の境内には、さっきまでいた住職の姿はもうなかった。
 いつの間にか陽が高くなっていて、日差しがきつく感じる。時計を見ると針は午後1時を指していた。
 早く帰ろう。
 家で独りで待っている初子の様子が、気にかかって仕方なかった。
    



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