13.番外編 じーくどらむすに関する神話
この記事は「インタラクティブミュージックに関する12の神話」連載
の、13個目になります。つまり、番外編です。インタラクティブミュージックを略して「IM」とすることがあります。
自分のことについて「神話」とか言うのは気持ち悪いんだけど、このシリーズは神話を全部否定していくパターンなので、自分に関する神話的な誤解を振り払っていきたいという主旨になる。
自分(@geekdrums)について基本情報としては
インタラクティブミュージックを専門とするサウンドプログラマー。
で、FF15の音楽システム、ポケモンSVのサウンドシステム等を担当。
その他、詳しい経歴などは以下を見て欲しい。
おしゃれで広い家で開発している、という神話
NHK「ゲームゲノム」を見た方からよく言われるのだが、撮影が行われたのは自宅じゃない。あれはNHKさんが用意した都内の某スタジオであって、私は4畳半しかない窓のない部屋で引きこもってリモートワークしている。
友達からゲームゲノム出演時の盛れてるショットを送ってもらった
— じーくどらむす/岩本翔 (@geekdrums) September 27, 2025
NHKプラスであと二日ほど?配信見れるっぽいです。 pic.twitter.com/4dNqYFk6vV
ゲームゲノム放送後に会う人皆から「あれ自宅ですか?」って聞かれるからもう一度答えておくけど、あれは都内の某スタジオってやつです!四畳半の窓のない部屋でリモートワークしてるのが現実です!(泣)(これでもコーヒー淹れたりしてオシャレに見せている) https://t.co/hyzh6Ex54Y pic.twitter.com/GIRnzmr91f
— じーくどらむす/岩本翔 (@geekdrums) September 7, 2025
NHKさんに最初「お仕事の雰囲気とか伝わったら良いので、普段の作業環境で撮影できませんか?」と聞かれたが、自室の写真を送って「ここで撮影とか無理だと思います」とお伝えした結果、気を利かせてくた。感謝。
IMの実装をメインの仕事にしている、という神話
私の仕事に憧れた人がいたら申し訳ないのだが、その夢は即刻打ち砕くしかない。なぜなら、もうそんな仕事は(ほとんど)残されていないからだ!
たしかに、私はスクウェア・エニックス在籍時にインタラクティブミュージックの機能とツールを実装するという、稀有な仕事に携わった。商業的な規模で同じような機能を作った人は……そう多くないはずだ。
なぜ多くないかと言えば、そんな機能はだいたいミドルウェアに任せるからだ!
スクエニもミドルウェアを使わないわけではないが、自社で技術を保つことに重きを置いているのか、今では国内でも有数のサウンドドライバーを保有している企業になっていると思う。昔は各社オリジナルのサウンドドライバーがあったのだが、それらもミドルウェアに代替されていって久しい。もちろん、ミドルウェアがあるからサウンドプログラマが不要なわけではなく、ゲームエンジンと連携したり、プラグインを作ったり、ツールを効率化するなどの仕事がまだまだある。
「音楽の遷移設定をいじる」みたいな仕事も、やれと言われたらやるが、基本やらない。MAGI開発時は例外的に、あのツールを作ったのが私で、まだ利用者がいなかったため、私が一番その機能に詳しいからやるしか無かった。本当は私のようなプログラマーではなく、サウンドデザイナーなり、音の全体的な設計に責任を持つ人がやるべきだ。
なので、MAGIの開発時を最後に、IMの機能実装をしたり、IMのゲームへの組み込みをしたりといった仕事は、ほとんどやってない。
じゃあ何をやってるのかって?
「サウンドプログラム」だよ。
具体的には、このあたりを読んで想像していただければと思うが
「サウンド」って音楽だけじゃないねん。いや、言ってしまえば、音楽なんて本当にごくごく一部でしかない。
わかりますよ、ユーザーさんの注目が9:1くらいで音楽に寄ってるのは。でも、現場のかけるコストはその逆、1:9くらいで効果音のほうが大変。
どうでもいいところにコストをかけているわけではない。インタラクティブミュージックは気づかれないから意味がない、という神話で書いたけど、決してユーザーが「気づくこと」だけが魅力を支えているわけじゃないので。現代のゲームの没入感はこうした効果音、環境音、ダイアログなど、音楽以外のこだわりが多く詰まっているからこそ生み出されている。
FFシリーズにIMを初めて搭載した、という神話
FINAL FANTASY XV(FF15)は私が開発したMAGIが初めて搭載されたゲームだけど、それがFFシリーズ初めてのIMというわけではない(知ってる人が多いと思うけど)。
歴史を遡る形で知ってる例を挙げてみると、
FF14
まずFF14でかなり色々なチャレンジがされている。
■Dynamix End
「Dynamix End」は自然な曲の切り替えを目指したものです。例えば雑魚敵との戦闘からボス戦に遷移した場合、BGMが変わります。この場合、通常であれば雑魚敵のバトル曲を停止して、ボスの曲を鳴らすことになりますが、中途半端な場所で切り替えると美しく聴こえません(「"3拍目の裏"とかで切れると悲しい」)。この手法では、曲のキリの良い場所にマーカーを埋め込んでおきます。続いて、4chのデータであれば2ch × 2として扱い、上の2chに通常の楽曲、下の2chの方に終了部を入れるようにして、切り替えのタイミングになったら、次のマーカーの場所まで待機し、そこで下の2chに切り替え、さらに終了符まで行ったら次の曲の再生へと切り替えます。こうすることである程度自然な曲の切り替えが実現できます。
この頃の技術は、縦の遷移の技術を応用して横の遷移的な事もやってみたり、波形へのマーカー埋め込みや4chや6chデータをデコード中に分離して利用するなど、できるだけ有り合わせの技術の中から「これを実現したい」という祖堅さんの要望に応じて専用に開発されており、汎用性という点では難があった(つまり祖堅さん以外のコンポーザーが誰でも対応できる機能ではなかった)。
MAGIは私が機能設計を行って、基本的にコンポーザーの誰からも要望を受けずに勝手に作ったので、「セクション遷移(横の遷移)」「モード遷移(縦の遷移)」という汎用的な2つの機能に集約することができたし、専用のオーサリングツールを用意することで、誰でも柔軟な音楽遷移を設定できるようになった。

つまり、実はインタラクティブミュージックの「機能」自体は私が入社するより前からあったのだが(細かい事を言うとそれも中身は別物なので作り直してるけど)、それを広く使えるようにする「ツール」はほとんど無かったのだ。なので、私がやったことは「機能を誰でも使いやすいツールに落とし込む」という部分が大きい。
FF13-2
ストリーミング再生以降のIMとしてはこれがFFで初?と思われる事例。方式としては14のDynamixと共通と思われる(言及ソースを見つけられず)。
シンボルエンカウントの敵が近づくとアレンジ変化するというもの。戦闘が始まると普通に戦闘曲になるため、聴ける時間が非常に短いという難点があったとか。
ちなみに、今更だけど神話記事のサムネイルにFF13-2を選んだのはこれが理由です!あと13シリーズは神話がベースになってるとか、神話を全部で13個+有料おまけ書くつもりだったとか。めっちゃ遅い伏線回収になってごめんなさい。個人的に大好きなシリーズでもあります。
FF9
「最後の闘い」というラスボス戦の曲が、今でいう(オクトラの)「バトルエクステンド」……の、弱い版みたいなのをやっていて、前半部分がバトル開始前にループしており、バトル開始後に後半部分に行く。
ただし、遷移ポイント設定みたいなのが無く、単にループが前半後半と2つあって、前半のループを解除する、という作りなので、人によって戦闘開始から結構遅れたタイミングで後半に繋がる。リマスター時にそこだけMAGIで再現した気がする。やろうと思えば遷移ポイント増やせたけど、そこは原作尊重ということで。
1:20あたりから戦闘開始後の後半部分。
FF6
FF6「妖星乱舞」も、第4楽章まである組曲形式で戦闘が進むごとに次の楽章に繋がっていくという演出で有名。ただこれは、遷移ポイントがあったのか?ループ解除方式(ループエンドからのみ遷移)なのか?自分もやったことないゲームなので、確たるソースは見つけられず。
その他
「ベイグラントストーリー」では、オープニングまわりでIM的な演出が用いられているらしく、スクエニの河盛さんがこれについて言及されていた。
インタラクティブミュージックの効果を初めて意識したのは、この作品のオープニングでした。 https://t.co/1ddWxUHEMU
— 河盛慶次 (@KeijiKawamori) February 10, 2025
そんなわけで、FFシリーズもその周辺でも、IM的な挑戦は色々と行われてきており、FF15以降は(KH3とかFF16とかFF7R、FF7R2など)基本的にMAGIが使われている。が、それも私の退社後に手を加えられているはずなので、私がやりましたと言えるものではない。
IMの第一人者である、という神話
人から咄嗟に紹介を受けるとたまに「IMの第一人者です」と勢いよく盛った紹介をされて、私も咄嗟に「全くそんなことはないです」と否定しなければならなくなるので、ご留意いただきたい。
IMの第一人者は誰か?と言われたら、私なら任天堂の近藤浩治氏を真っ先に挙げる。
任天堂の近藤浩治氏、「マリオ」、「ゼルダ」のサウンドを語る。インタラクティブなゲーム音楽を作る多彩な手法
https://game.watch.impress.co.jp/docs/20070308/kondo.htm

もちろん、近藤氏より先にIMを取り入れた、取り組んだ作曲家もいたはずだ。ただ、それを継続的に実践し世に広めたという観点からも、近藤氏を第一人者とすることで差し支えないと思う。
結局何をやってきた人間なのか
「インタラクティブミュージックのエヴァンジェリスト」くらいなら名乗っても良いかなと思っている。
インタラクティブミュージック研究会の主催
2012年に上京してからすぐに「インタラクティブミュージック研究会」(略してIM研)を主催し、定期的に「インタラクティブミュージック勉強会」を開催、自分の作ったゲームでの活用事例や、海外での事例紹介、技術情報の共有などを推進してきた。
他にも、IM研のFacebookグループやTumblrブログやScrapboxなどを作成し、国内外からできるだけ多くのIM事例を収集していた。今はもう更新を止めている。なぜかというと事例が多すぎて収集しきれないからだ。
音楽とゲームの融合
自分のゲーム開発においては実験的で先進的な「音楽からゲームを考えないと絶対にたどり着かない」ゲームデザインに挑戦している。同じ事をやる人が(ほとんど)いないので、競合しないから。
音楽xコマンド選択RPG(開発中)(10年以上)
他にもいろいろ
音楽xさめがめ
音楽xノベルゲーム
音楽xPong
音楽xコミュニケーション
音楽x奥スクロールRPG
音楽xブロック崩し
音楽x2Dアクション
音楽xマインスイーパー
おまけも合わせて13本!インタラクティブミュージックについての12の神話がこれにて完結です!およそ文庫本1冊分の量!全部読んだ人はどれだけいらっしゃるのか?本当にお疲れ様です&ありがとうございます。
最後にもう一度、連載全体あるいは一部でも「これは有料級だ」とご納得いただけたら、こちらのおまけ有料記事をご購入いただけたら幸いです。
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