“Hello”から始まった恋—スポーツクラブで出会った彼が、止まっていた時間を動かしたー第3章
※この物語はフィクションです。
登場人物・団体等は実在のものとは関係ありません。
あらすじ
夫と別居中の40歳の香織は、スポーツクラブで働きながら毎日を淡々と過ごしていた。そんなある日、カナダ人のジョンと出会う。彼の明るい笑顔に惹かれ、そして香織は英語を学び始める。
言葉や文化の違いに戸惑いながらも、少しずつ距離を縮めていく二人。ジョンのまっすぐな優しさは、自信を失っていた香織の心を少しずつ癒やし、止まっていた時間を動かしていく。
しかし、大人だからこその現実や、それぞれが抱える事情は、二人の恋を思いがけない方向へ導いていく――。
恋を通して「自分らしく生きること」の意味を見つけていく、一人の女性の再生を描いた、大人の恋愛小説。
第3章 いつも守ってくれる存在
仕事中もジョンからのLineのメッセ―ジを繰り返し思い出してしまう。
私のこと、気になってるってことでいいよね?
ーでも、
I love you ではなかった。
いつも笑顔で話しかけてくれるのは、きっとみんなにそうだし。
私はジョンより5歳も年上の人妻。
そんなことをあれこれ考えていたら、いつものお客様が来店した。
「おはよーいつものレンタルタオルもくれよ。」
このお客様は常連さんの50代のバツイチの方。
別に特別な関係ではないが、とても親し気に近づいてくる。
「今度、ヨットで遊ぼうと思うんだけど、来るか?」
「え~ヨットお持ちなんて、すごいですね。でも忙しいので、やめておきますね。」
「気持ちいいぞ~ うまい飯も食わせるぞ。」
なかなか食い下がらない。
困ったな・・・
その時、自動ドアが開いた。ジョンだ。
「Hello~ Kaori~」
常連さんの隣に並び、笑顔の中にも常連さんをけん制しているように見えた。
「Hello~ John.」
いつものようにロッカーのキーを渡す。
「What's wrong?」
やはり私の表情で困っているのが分かったんだ。
「It's OK. Don't worry.」
「Really?」
「おい、2人でわからない英語でしゃべるなよ。」
常連さんが気まずそうに去っていく。
「Thank you so much.」
「No problem~」
このさりげなく助けてくれるところが素敵。
笑顔で手を振り、トレーニングへ向かう。
ああ、またやられてしまった。
どんどん惹かれていく自分が怖い。
相手は一時的に日本に来ている人なのに・・・
独り言が増えていく毎日だった。
――その日の夜、ジョンからLineが来た。
「Do you want to hang out with me tomorrow?」
え?明日のデートの誘いだ。
今度は4人ではなく、2人きり。
友だちとしてなら・・・・大丈夫だよね。
「・・・Yes」
とうとう二人きりで会うことになってしまった。
――静かな家の中で、私は鏡の前で念入りにメイクする。
たかがランチ。
そう思っているのに、ドキドキがおさまらない。
四十歳にもなって、こんな気持ちになるなんて思わなかった。
何度も服を着替え、やっと決まった。
早めに支度を始めたのに、もう約束の時間が近づいていた。
急いで待ち合わせの駅前に車を走らせた。
あたりを見渡しているジョンは、私を見るとすぐに笑顔になった。
「Hi, Kaori.」
「Hello~」
白いTシャツが眩しかった。
シンプルなのに、不思議と様になる。
助手席に乗り込むと、ジョンは楽し気に聞いてきた。
「Where are we going?」
「I want to show you the biggest river around here.」
「Really? Sounds good.」
ジョンは嬉しそうに笑った。
「Let's go~」
車を走らせると、ジョンは知らない歌を口ずさんでいる。
窓から入る風が気持ちいい。
沈黙があっても苦じゃない。
むしろ、その静かな時間が心地よかった。
しばらく車を走らせると、大きな河川敷が見えてきた。
広い空。
ゆっくり流れる川。
土手には草が揺れている。
「What a beautiful river.」
ジョンが窓の外を見ながら言った。
私は少し嬉しくなる。
車を停めて外へ出ると、風がふわりと髪を揺らした。
そしてジョンは自然に私を内側へ誘導し、自分は車道側を歩きはじめた。
河川敷には犬の散歩をしている人や、ジョギングをしている人がいる。
穏やかな日差しが心地よい。
自慢げに川を紹介してみた。
「This is the biggest river around here.」
ーすると、ジョンは辺りを見回してから吹き出した。
「In Canada… this is small river.」
「えっ!?」
思わず声が大きくなる。
ジョンは楽しそうに笑いながら、両手を大きく広げた。
「Canada river is huge!」
二人で笑いながら歩く。
――なんだろう。
こういう時間が、とても自然だった。
途中、少し足場の悪い場所があった。
私が避けようとした瞬間、ジョンがさっと腕を支える。
「Be careful.」
触れられた腕が熱かった。
でもジョンは特別なことをしたような顔をしていない。
「Thank you.」
「No problem.」
しばらく歩くと、川沿いにベンチがあった。
ジョンは私が座る前に、軽く手でベンチを払う。
「Canadians are gentlemen.」
冗談っぽく笑う。
でも、そういう小さな優しさが嬉しかった。
隣に座ると、川からの風が気持ちいい。
空を見上げるジョンの横顔を、私はそっと見つめた。
「How do you feel?」
「wonderful !」
こんなふうにゆっくりとした時間はいつぶりだろう。
毎日バタバタしていた。
気持ちに余裕のない毎日だった。
誰にも頼れずにいた。
――でも今は違う。
困った時には助けてくれる。
一緒になんでもない風景を楽しめる。
それが嬉しかった。
風が強く吹き、髪が乱れる。
その瞬間、ジョンがそっと私の髪を耳にかけた。
「あ…。」
触れられた耳が熱くなった。
ジョンも一瞬動きを止めた。
静かな沈黙。
遠くで子どもたちの声が聞こえる。
でも、私たちの周りだけ時間が止まったみたいだった。
「Kaori…」
低い声で名前を呼ばれる。
それだけで、胸が苦しくなる。
私は慌てるように立ち上がった。
「Let's go for lunch!」
ジョンは少しだけ困ったように笑った。
「OK.」
車へ戻る道。
並んで歩くだけなのに、さっきまでとは違う空気が流れていた。
――私はもう自分の気持ちに気付いていた。
🌸最後までお読みいただきありがとうございます。
🌸フォローやスキを頂けると励みになります。
▶【第4章 完璧じゃないあなた】はこちら
いいなと思ったら応援しよう!
応援して頂ければ幸いです。これからの励みになりますので、よろしくお願いします。