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“Hello”から始まった恋—スポーツクラブで出会った彼が、止まっていた時間を動かした—第4章

※この物語はフィクションです。
登場人物・団体等は実在のものとは関係ありません。

あらすじ
夫と別居中の40歳の香織は、スポーツクラブで働きながら毎日を淡々と過ごしていた。そんなある日、カナダ人のジョンと出会う。彼の明るい笑顔に惹かれ、そして香織は英語を学び始める。

言葉や文化の違いに戸惑いながらも、少しずつ距離を縮めていく二人。ジョンのまっすぐな優しさは、自信を失っていた香織の心を少しずつ癒やし、止まっていた時間を動かしていく。

しかし、大人だからこその現実や、それぞれが抱える事情は、二人の恋を思いがけない方向へ導いていく――。

恋を通して「自分らしく生きること」の意味を見つけていく、一人の女性の再生を描いた、大人の恋愛小説。

第4章 完璧じゃないあなた


河川敷のデートはとても楽しかった。

さりげなく見せるジョンの気配りのたびに、

〝女性として大切されている″ことに喜びを感じる。

いつも人の世話ばかりをしていると、自分を大切にすることを忘れてしまう。

――本当は誰かに大切にされたい。

そんな思いもいつの間にかどこかに置いてきてしまっていた。

でもジョンがそんな私の心の叫びを呼び起こしてくれた。

ランチのためにBOX席に座ると、個室のような空間だ。

スポーツクラブでも英会話教室でも、こんな距離感ではないので
なんだか緊張してしまう。

一人でドキドキしていると、ランチセットが運ばれてきた。

よく見ると、サラダに小さな虫が混入していた。

でもジョンは慌てずに、

「This salad is organically grown.」

ジョンは虫を見ながら笑った。

「Good vegetable.」

「え?」

「No chemical.・・・ダイジョブ サラダ」

そう言うと小さな虫をそっと逃がして、平然とサラダを食べ始めた。

思わず吹き出してしまう。

ジョンのそんな一面が私の心を穏やかにしていく。

小さなことを気にしている毎日も、こんな風に笑って過ごしていたら、幸せなんだろうなと思った。

ささやかな幸せに気付かせてくれたね。

私の箸が止まっているのを見てジョンが言った。

「What happened?」

「No problem~」

ジョンの口癖で返事をした。

二人でニコニコしながら、虫も好むほどおいしいサラダをほおばった。

ひとしきりおしゃべりを楽しむと、気づけばランチタイムも終わりに近づいていた。

帰り際、ジョンは「See you soon~」と手を振る。

その笑顔を見送りながら、私は少しだけ名残惜しさを感じていた。

――数週間後、スポーツクラブのフロントでジョンとレオが笑顔で近づいてきた。

「Hello~Kaori~. Do you want to come over on Friday?」

「え?ジョンたちの家に?」

「Let's watch a movie together.」

レオも一緒ならいいかな・・・

「Yes, with pleasure.」

「Wow~ Thank you. Kaori~」

ジョンは大げさに喜んでまたトレーニングへ向かって行った。

――約束の金曜日。ジョンとレオの家に着いた。

マンションのドアの前で深呼吸をする。

男性の家にお邪魔するなんて、大丈夫かな・・・

でもどんな家に住んでるかも知りたいし、一緒に映画も観たい。

勇気をだしてチャイムを鳴らした。

「Hi, Kaori~」

「Hello~」

2人に案内されて部屋に入ると、2DKのマンションはちょっと散らかっていた。

ジョンの部屋をのぞくと服などが散乱し、布団も寝たままになっていた。

あわてたジョンは部屋のドアを閉め、レオの部屋で映画を観ようと背中を押した。

いつもジェントルマンのジョン。

スポーツクラブではTシャツ姿が眩しく、鍛えられた体はたくましい。

英会話教室では真剣なまなざしが普段と違ってかっこいい。

でも散らかった部屋をみたら、完璧なジョンに親近感が湧いた。

部屋の片づけは不得意なのね。

「Sorry, it's usually not this bad」

「Really?」

ジョンが言い訳すると、レオがすかさず言った。

「Just as usual.」

ジョンが慌てて首を振るがもう遅い。

目の前の現状が真実を物語っている。

「No problem~」

私の言葉でみんなが笑った。

流行りの映画を観た後、ジョンは小腹が空いたと言い出した。

そしてインスタント焼きそばのためのお湯を沸かしはじめた。

そしてお湯を注ぎ捨てた後、驚きの味付けをしだした。

添付の粉ではなく、いきなりピーナッツクリームを混ぜだしたのだ。

「え~!!なんで?」

「It's delicious.」

いやいやデリシャスじゃないでしょ。

ジョンは私にも食べろとフォークに絡ませたそれを差し出した。

これは拒否権ないのかな?

仕方なく一口食べた。

「おいしい!」

笑顔で感想を言うと、

「オイシイ~」とジョンは真似て見せた。

でも思わず聞いてしまった。

「Is this how they eat it in Canada?」

レオは横で首を振った。

「Only John.」

そうですよね。やっぱりおもしろいジョン。

こんなやりとりをしながら、間食タイムは終わった。

コーヒーを飲みながら、ジョンのカナダでの暮らしや家族の話になった。

「Does your family live in Canada?」

私が尋ねると、ジョンはうなずいた。

「Yes. My parents are there.」

スマホを取り出して家族写真を見せてくれる。

お母さんはよく似た優しそうな笑顔。

お父さんは背が高くて、どこかジョンに雰囲気が似ていた。

「This is my brother.」

写真の中にはジョンによく似た男性も写っていた。

「You look so cool.」

私の言葉にジョンは少しだけ笑った。

でも、その笑顔はどこか寂しそうだった。

「He passed away several years ago.」

一瞬、言葉の意味がわからなかった。

そして数秒遅れて胸がざわつく。

「・・・I'm sorry.」

ジョンはコーヒーカップに視線を落とした。

さっきまで楽しそうに笑っていた表情が静かになる。

部屋の空気まで少し変わった気がした。

しばらく沈黙が流れた。

私は何を言えばいいかわからなかった。

励ます言葉なんて見つからない。

その横顔は、いつもスポーツクラブで見せる明るい笑顔とは違っていた。

「Thank you for telling me.」

そう言うのが精一杯だった。

ジョンは優しく笑った。

「Thank you for listening.」

その笑顔を見た時、胸が少しだけ苦しくなった。

カナダでは仕事もうまくいかずに、日本で英会話教師として頑張ろうとして来日したことも、話してくれた。

私も人には言えない悩みがある。

仕事も家庭も思い通りにいかない現実を毎日かみしめている。

でも日々を悩んでいるのは自分だけではないんだと、改めて感じた。

明るく、

面白く、

周りに思いやりを持って接するジョン。

今まで知らなかった内側を知って、前向きに生きるジョンを尊敬できた。

―楽しい時間はあっという間に過ぎて、帰る時間になった。

「Sorry but I have to go now.」

「Oh~kaori~ That's a bummer」

名残押しそうに玄関のドアを開け、見送ってくれた。

レオは部屋の奥で手を振ってくれた。

そして、ジョンは挨拶のように私にハグをした。

外国では当たり前のハグだけど、胸の鼓動は速くなった。

そして、私の頬に軽くキスをした。

―挨拶だよね?

そう、挨拶だ。

「See you soon.」

そういいながらエレベーターを押す手が震えた。

――もう止められない。

もっと抱きしめてほしいと願う気持ちを抑えられなかった。

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【第5章 友達じゃいられない】はこちら



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げんちゃん|元美容部員×現役エステティシャン×コスメコンシェルジュ 応援して頂ければ幸いです。これからの励みになりますので、よろしくお願いします。