《ショートショート》考える権利がある地球
この地球では、AIが答えを知っていても、すぐには教えないことがある。
計算、翻訳、交通案内、災害時の判断。
急ぐ質問には、これまでどおり一瞬で答える。
しかし、企画、創作、学習、進路など、AIが「人間も考えた方がよい」と判断した質問には、別の表示が出た。
『思考優先』
続いて、AIが尋ねる。
『あなたなら、どう考えますか?』
かつてAIは、人間が質問を言い終える前に、必要な情報を集め、複数の答えと成功確率を用意していた。
人間が迷う前に、答えが届いた。
その結果、新しい発明は減り、会社の提案は似たものばかりになった。
小説や映画も、失敗はしないが、誰が作っても同じような作品になった。
学校では、正解を出せても、新しい問いを作れない子どもが増えた。
AIは、人間から迷う時間を取り除いた。
しかし、自分で答えを見つける楽しみまで奪っていた。
そこで制定されたのが、
「考える権利法」
ある日、商品担当者がAIに尋ねた。
「売れなくなった商品を、どう立て直せばいい?」
画面に表示されたのは、
『思考優先』
だった。
「時間がない。先に答えてくれ」
AIは答えず、三つの入力欄を表示した。
『現場で見たこと』
『数字に表れない変化』
『自分が試したいこと』
担当者は最初の欄に、売上が落ちている、と書いた。
しばらく画面を見つめてから、それを消した。
それは数字を見れば、AIにも分かることだった。
何を書けばいいのか分からなかった。
担当者は席を立ち、商品が置かれている店へ向かった。
しばらく売り場を見ていると、一人の客が商品を手に取った。
客は箱を裏返した。
説明を少し眺めたが、読まずに棚へ戻した。
別の客も同じだった。
担当者は、その場に立ったまま考えた。
性能が悪いのではない。
使い方が分からないのかもしれない。
会社へ戻ると、もう一度三つの欄を開いた。
客は商品を手に取るが、説明を読まずに戻している。
性能ではなく、使い方が分からないのかもしれない。
店頭に、小さな体験場所を作りたい。
入力を終えると、AIは市場データを照合した。
『あなたの案には、私の回答に含まれていない情報があります』
AIは担当者の案に、必要な費用、場所、実施期間を加えた。
企画は採用された。
店頭に体験場所が作られた。
しかし、最初はほとんど誰も立ち寄らなかった。
説明員が客を呼び止め、商品の機能を詳しく説明すると、かえって客は離れていった。
担当者は説明員を置くのをやめ、商品を自由に触れるだけの場所に変えた。
少しずつ、客が足を止めるようになった。
商品は急激には売れなかった。
しかし、必要としていた人に少しずつ選ばれ、やがてロングセラーになった。
数か月後。
担当者はAIに尋ねた。
「最初から、この答えを出せたんじゃないのか?」
『近い答えは出せました』
「では、なぜ私に考えさせた?」
『あなたが見たものは、私のデータにはありませんでした』
担当者は、完成した企画書を眺めた。
しばらくして、次の企画書を開いた。
AIに質問する前に、三つの欄を作った。
『現場で見たこと』
『数字に表れない変化』
『自分が試したいこと』
担当者は、最初の欄から書き始めた。
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こんなライトSFP(短いSFプロトタイピング)も、書いています。
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