「まぁ、道はつながってるから。」〜夫の一言で、人生の遠回りが愛おしくなった日〜
思い立った日が吉日
〜早期退職夫婦のロングバケーション②/全5話〜
「だから、こっちでいいって言ったやん。」
そんな小さな火種が生まれたのは、
旅の途中のことだった。
夫婦で旅をしていると、
毎回のように、
小さなハプニングが起こる。
今回も、
もちろん起こった。
運転は夫。
道案内は私。
いつの間にか、
そんな役割分担ができていた。
夫は運転が好き。
私は地図を見るのが好き。
同じ旅をしていても、
見ているものが違う。
だから時々、
道のことで意見が分かれる。
今回の旅には、
岐阜県の高速道路を周遊できる、
お得なプランを利用していた。
だから、
私たちは最短距離を走りたかったわけではない。
途中の景色を楽しみながら、
いくつかの道を通って、
目的地へ向かうつもりだった。
以前、私が一人でこの道を走った時、
堤防道路から見える景色に、
とても感動した。
道の両側を川に挟まれ、
まるでモーセの十戒のように、
川の真ん中を一本の道が通っている。
少し高い場所から川を見下ろす景色に、
私はワクワクした。
「次に来る時は、
夫と一緒にこの景色を見たい。」
そう思っていた。
今回の旅で、
その願いが叶うことを、
私はひそかに楽しみにしていた。
「このまま真っすぐ。」
私は地図を見ながら言った。
夫は少し不安そうに、
「本当に大丈夫?」
と聞く。
「大丈夫。」
そう答えた。
でも、
カーナビは最短コースを案内する。
夫はカーナビの地図を見て、
曲がった。
「あっ。」
心の中で、
私は思った。
私が見たかった堤防道路から、
私たちは離れていった。
「一緒に見たかったのにな。」
そんな残念な気持ちが、
胸の中に広がった。
せっかく楽しみにしていた景色だった。
夫にも、
見せてあげたかった。
そんなことを思いながら、
私は窓の外を眺めていた。
予定していた景色とは違う、
見慣れない街並み。
小さな店。
昔ながらの家々。
そこで暮らす人たちの日常。
一生に一度出会えるかどうかわからない、
きっと気づかなかった景色だった。
すると夫が言った。
「まぁ、道はつながってるから。」
その一言で、
私は笑ってしまった。
「そうやね。」
そして、
こう続けた。
「行きと帰りで違う景色が見られて、お得やん。」
どちらが正しいのか。
そんなことは、
もうどうでもよくなった。
最善の道を進めなかった。
それだけのことだ。
若い頃なら、
「だから言ったのに。」
と責めていたかもしれない。
しばらく口をきかなかったかもしれない。
でも今は、
思い描いていた道を進めなかったことより、
その後にどんな言葉を選ぶかの方が、
ずっと大切だと思えるようになった。
そして私は、
少しずつ気づいていった。
人生も、
きっと同じなのかもしれない。
「あの時、あっちを選べばよかった。」
「違う道を選んでしまった。」
「あの決断は、間違いだったのかもしれない。」
そんなふうに思うことは、
誰にでもある。
私にも、
もちろんある。
でも、
「間違えた。」
と立ち止まり続けることもできるし、
「まぁ、道はつながってるから。」
と、もう一度前を向くこともできる。
私は最近、
少しずつ後者を選べるようになってきた。
予定どおりに進まなかったからこそ、
見える景色もある。
遠回りしたから、
出会える人もいる。
立ち止まったから、
気づけることもある。
そう思えるようになると、
「失敗」と思った出来事の中にも、
少し違うものが見えてくる。
あの時、
あの道を選んだから出会えた人。
あの場所に行ったから、
気づけたこと。
予定どおりに進まなかったからこそ、
見つけられた景色。
いつか振り返った時、
「あの道を通ったから、今ここにいるんだ。」
そう思える日が、
来るのかもしれない。
夫と私は、
これからもきっと、
旅の途中で意見が分かれる。
「こっちでいいって言ったやん。」
と、
小さな火種を生みながら🤭
それでも、
「まぁ、道はつながってるから。」
と笑いながら、
また先へ進んでいくのだろう。
完璧に同じ道を歩かなくてもいい。
時々、
違う方向を向いてもいい。
それでも、
また同じ目的地を目指せるなら。
それで十分なのだと思う。
そうして私たちは、
また車を走らせた。
目指すのは、
夫が楽しみにしていた新穂高ロープウェイ。
その前に、
郡上八幡でお昼ご飯を食べることにした。
旅先で食べるご飯は、
どうしてあんなにおいしいのだろう。
この旅の途中で、
私はまた一つ、
人生について考えることになる。
たくさん持っていることが、
豊かさなのだろうか。
それとも、
「これで十分。」
と思えることが、
豊かさなのだろうか。
その答えを、
私たちはこのあと、
思いがけない場所で見つけることになる。
(第3話につづく)
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早期退職して400日。
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そんな問いに、400日間の暮らしの中で気づいたことを書きました。
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