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【速報版】エド・マーキー上院議員他、州AI規制法をブロックするトランプ大統領令をブロックする法案 / AI規制における連邦対州の分権問題雑感


0 はじめに

 2025年12月、アメリカでAI規制を巡る重要な攻防が表面化した。ドナルド・トランプ大統領が州によるAI規制を禁止し、連邦政府による一元的な枠組みを打ち立てようとする大統領令「AIに関する国家政策フレームワークの確立(Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence)」に署名した。これに対抗して、エド・マーキー上院議員(民主党・マサチューセッツ州)ら11名が、当該大統領令の発動を封じる法案「州によるAI規制の権利法(States' Right to Regulate AI Act)」を提出した。

 この対立は、AIのガバナンスにおける連邦対州、すなわち中央集権対地方分権の問題を浮き彫りにしている。急速に発展するAI技術の規制は全国統一ルールによるべきか、それとも各州が独自に策定すべきか。本稿では、トランプ大統領令の内容とマーキー法案の主張を概観し、AI規制における分権化のメリット・デメリット、そしてその議論が日本など他国に示唆するものを考察する。

(参考)アメリカAI行動計画(トランプアクションプラン)

(参考)州法

(参考)アメリカAI行動計画(トランプアクションプラン)と州法

(参考)その他


1 問題の所在

 現在の米国にはAIを包括的に規制する連邦法が存在しない。バイデン前大統領が全国的なAI規制の土台となる大統領令を出したものの、トランプ政権により撤回され、議会での包括法成立も実現していない。その空白を埋めるように、近年複数の州が独自のAI関連法を制定してきた。

 例えば、ニューヨーク州は最先端のAIモデルに安全性確保策を義務付け、カリフォルニア州は対話型チャットボットの規制法を承認し、コロラド州は「高リスクAIシステム」にアルゴリズム差別防止義務を課す法律を成立させた。フロリダ州でもデサンティス知事の下でAIの権利章典を提案する動きがある。こうした州レベルの取組は、AIに伴う雇用影響や差別、データプライバシー等のリスクに迅速に対処しようとする試みである。

 しかし一方で、州ごとに異なる規制が乱立する「パッチワーク」状態が企業活動に混乱を招き、イノベーションを阻害するとの懸念も強まっていた。特に全国展開するAI企業にとって、50州それぞれの規制に対応するコストや複雑性は無視できない。実際トランプ大統領は「50州それぞれで許可を取る必要があるなら、企業は米国での開発を諦めるだろう」と述べ、各州バラバラの規制がAI産業の成長を妨げると主張していた。

 このように、AI規制の必要性自体には概ね合意があるものの、「連邦の統一基準か、それとも州の独自規制か」のどちらを採用すべきかが大きな争点となっていたのである。

2 トランプ大統領令の狙い

 トランプ大統領が2025年12月11日付で発した大統領令「AIに関する国家政策フレームワークの確立」は、AI規制を連邦レベルに一元化することを目的としている。その基本方針は「米国のAI覇権を維持・強化するため、負担の最小限な統一国家政策枠組みを構築する」ことであり、現状のような州毎の過剰な規制はこの目標を阻害するとした。

 同令は州法の問題点として、次の三点を挙げている。第一に、50州ばらばらの規制による遵守負担の増大である。第二に、州法によってAIモデルへイデオロギー的バイアスの組み込みが強いられていることである。第三に、州が域外の活動まで規制し州際通商に干渉していることである。

 例えばコロラド州の新法では「アルゴリズムによる差別」を禁じているが、連邦政府はこれが「AIモデルに差別を回避させるため誤った出力を生成させる恐れがある」と批判し、イデオロギー的な改変の強制だとみなしている。トランプ政権は、このような「過度な州規制」を排除して単一の国家基準を設ければ、子どもの保護や検閲の防止、著作権の尊重やコミュニティの安全確保にも配慮しつつ、米国がAI競争に勝利できると主張する。

 この大統領令により、州のAI規制を無効化する仕組みが構築される。司法省には30日以内に「AI訴訟タスクフォース」を設置し、当該大統領令の政策に反する州法を違憲(州際通商条項違反)や既存の連邦法との抵触などの論点で提訴していく方針である。また商務省には90日以内に全州のAI関連法を精査し、「負担の大きい」州法リストを作成・公表するよう命じている。特にAIモデルに「真実の出力」を変容させることを要求する法律や、開発者・提供者に第一修正(表現の自由)に反する情報開示義務を課す法律は問題視の対象とされた。

 さらに州の規制状況に応じて連邦補助金(通信インフラ整備予算など)の配分見直しも打ち出されており、財政面からも州に圧力をかける構えである。要するに、この大統領令は連邦法による正式な規制整備が行われる前段階として、大統領権限で州の動きを封じ込めようとする包括的な試みであった。

3 マーキー法案と州規制を巡る主張

 マーキー上院議員はトランプ大統領令の発効を阻止すべく、2025年12月17日に州によるAI規制権限を守る法案「州によるAI規制の権利法(States' Right to Regulate AI Act)」を提出した。同法案には、クリス・ヴァン・ホーレン(メリーランド州)、アダム・シフ(カリフォルニア州)、コーリー・ブッカー(ニュージャージー州)、ロン・ワイデン(オレゴン州)、バーニー・サンダース(バーモント州)ら10名の上院議員が共同提案者として名を連ねた。

 マーキー議員は本大統領令を「違法かつ恣意的」で「社会の弱者への直接の脅威だ」と糾弾し、裁判所が無効化すると確信するとともに議会も州の規制権限を守る責任があると主張した。実際、2025年には議会でも州AI規制を10年間停止する条項が一時盛り込まれたが、7月1日に上院で99対1という圧倒的多数により削除されている。マーキー議員は当初からこの「州規制モラトリアム」は無責任だと批判し、その阻止に尽力した経歴がある。

 州規制を一括停止すれば、その間にテック企業が何の責任も負わず高リスクのAIを野放しにする懸念がある。専門家からも「州のガードレールを外すのはビッグテックに白紙委任状を渡すようなものだ」という批判が噴出した。さらに「10年もの規制凍結は市民の不安を無視したも同然だ」と指摘されている。マーキー議員らはAIの負の影響を抑えるため、各州が引き続き先駆的な取組を行えるようにすべきであり、連邦がそれを妨げるべきではないとの立場をとっている。

 法的にも、大統領令だけで州法を抑制できるかは疑問視される。連邦法が州法に優先するには議会の制定する法律が必要であり、大統領の専権で州の立法を覆えるかは憲法上不透明である。マーキー議員も本令を「違法な権限簒奪」と非難し、司法が無効にすると述べた。最終的にトランプ大統領令の効力は裁判所で争われる見通しだが、その行方を見据えてもマーキー法案によって議会が姿勢を示す意義は大きいと言える。

4 連邦一元規制と州独自規制の論点整理

 AI規制の主導権を巡り、連邦政府主導の一元的アプローチと各州による分権的アプローチが対立している。それぞれの立場には長所と短所がある。

 連邦一元規制の利点は、規制が全国で統一されることによる明確さと効率性である。共通ルールが定まれば企業は各州ごとの規制対応に追われず、新規参入や国内でのAI開発も促進されるだろう。また全国一律の基準によって規制の抜け穴となる地域を作らずに済む。さらに各州の極端な措置を抑制し、憲法原則との調和も図りやすい。

 しかし連邦主導のアプローチには懸念もある。連邦政府が十分に厳格な規制を設けない場合、全国的に保護水準が低く固定化されてしまう恐れがある。統一基準が最低限に留まれば、それ以上の対策を講じたい州も独自措置を取れず、国民全体の権利保護が不十分になるおそれがある。また規制を排除するだけで代替策がない場合、安全策が欠如した期間に危険なAI運用が野放しになる可能性もある。さらに規制の一元化はロビー活動の標的が連邦政府に集中するため、大企業の影響力が増して規制が骨抜きにされるリスクも否めない。多様な州の試みが封じられれば、新たな課題への創意工夫や地域に応じた対応策が失われてしまうともいわれる。

 一方、州独自規制を認める分権的アプローチの利点は、迅速な対応と多様な政策実験が可能になる点である。AI技術の進展は早く、一つの法律ですべての新問題に対処するのは難しいが、各州が規制策を講じることで様々な手法を試行し、成功例は他州や連邦政府が追随できる。各州は地域の実情や価値観に即したルールを設計できるため、きめ細かな対応が可能である。

 もっとも州ごとの規制に委ねる場合の欠点も大きい。規制の断片化によって事業者に生じる負担は大きく、全国規模でサービスを展開する際の障壁となる。規制の厳しい州と緩い州の差が企業の活動地域を左右し、ユーザーにとっても利用できるサービスが地域によって異なるという不公平や混乱を招く恐れがある。またインターネットを介するAIサービスは州境を容易に越えるため、一部の州だけでは十分な規制効果を発揮できず、規制の緩い州に拠点を移す「抜け穴」も生じうる。こうした点から、州任せでは不十分で連邦政府による統一的な枠組みが必要だとする声も根強い。

5 日本への示唆

 日本でもAI規制の在り方は模索段階にある。2025年には「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(通称:AI推進法)」が施行され、「人工知能基本計画」および「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」が策定された。しかしこの法律は理念や組織整備が中心で、具体的な禁止規定や罰則は設けられておらず、現状のAIガバナンスは企業の倫理指針や政府のガイドラインに委ねられている。直接的な規制が存在しない点ではトランプ政権の「規制なき促進」と軌を一にする部分もあるが、欧州の厳格な規制(EUのAI Act等)とどう折り合いをつけるかが今後の課題となろう。

 日本は連邦制国家ではないため、米国のような連邦対州の対立構造は直接には当てはまらない。しかし中央政府と地方自治体の役割分担という観点では、類似の問題が生じうる。例えば、特定の自治体が独自のAI利活用条例を制定した場合に、全国的な整合性をどう確保するかという課題は、米国の議論と共通する部分がある。また、国際的にみれば、各国が異なるAI規制を設ける「国際的パッチワーク」の問題も存在し、日本企業がグローバル展開する際の障壁となりうる。

6 むすび

 米国で繰り広げられているAI規制を巡る連邦対州の攻防は、技術革新と社会的価値のバランスをいかに図るかという難題を突き付けている。中央集権的アプローチと州分権的アプローチの双方に一理あり、前者は国全体の統一方針と経済活力を重視し、後者は草の根の実験と即応性によってAIのリスクに対処しようとするものである。

 現時点でどちらが優勢となるかはマーキー法案の行方や裁判の結果に左右されるが、この論争はAIという新たなテクノロジーのガバナンスが従来の法制度や権限分配の枠組みに収まりきらない複雑さを孕むことを示している。AIがもたらす恩恵とリスクが極めて大きいため、単純な二項対立ではなく多層的で柔軟なガバナンス枠組みが求められるだろう。米国の動向は、その模索の一端を示すものとして今後も注目される。

参考資料

Senator Edward J. Markey「Senator Markey Introduces Legislation to Block Trump's Executive Order Blocking State AI Regulation」(2025年12月17日)
https://www.markey.senate.gov/news/press-releases/senator-markey-introduces-legislation-to-block-trumps-executive-order-blocking-state-ai-regulation

The White House「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence」(2025年12月11日)
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/12/eliminating-state-law-obstruction-of-national-artificial-intelligence-policy/

Senator Edward J. Markey「Senator Markey Hosts Roundtable on Republicans' Proposed State AI Regulation Moratorium」(2025年6月4日)
https://www.markey.senate.gov/news/press-releases/senator-markey-hosts-roundtable-on-republicans-proposed-state-ai-regulation-moratorium

Clark Hill「What Does Trump's AI Executive Order Mean for Colorado's AI Act?」(2025年12月)
https://www.clarkhill.com/news-events/news/what-does-trumps-ai-executive-order-mean-for-colorados-ai-act/

BuiltIn「Trump Signed an Executive Order to Block State AI Laws」(2025年12月12日)
https://builtin.com/articles/trump-state-ai-laws-ban

So&Sato法律事務所「AIに関する日本の法規制」(2024年7月11日)
https://innovationlaw.jp/aiguideline/

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照


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